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交渉はお早めに

宴もたけなわではあるのだが、俺はラングとガットの奴にメールを送る事にした。


別に明日でも良い気がするが、メンバー皆レベルが上がっていない事に気が付いたので、明日から早速、各自レベリングを開始したいのだそうだ。


つまり、メンバーが全員揃う機会が少なくなる・・・かもしれない。・・・宴会するって言えば全員集まりそうな気がするが細かい事は気にしてはいけない。


それにトーナメントが近いこともあってラングもガットも忙しいんじゃないかとも思った。なんせラングは情報クラン【インフォガルド】のリーダー、ガットは生産クラン【アイゼンガルド】のリーダーだ。多くのプレイヤーがトーナメントに向けて、情報や装備を求めて殺到していてもおかしくない。ある意味、俺たちもそんなプレイヤーの一員でもあるからな。


何が言いたいかというと早めにアポを取っておかないといけない、ってことだ。


・・・ということを激辛マーボーを食べた時にふと思った。辛さで脳みそが刺激されたのかもしれないな。・・・というわけで思い立ったら即行動である。


『話がある故、連絡を頂きたくござ候』


ラングとガットにメールを送る。これで良し、と。さて、この辛さがクセになる激辛マーボーを・・・


「やあ、来たよ」


「もっと早く呼んで欲しかったのう」


・・・丁度、マーボーを口に運ぼうとした所で無粋な声に横槍を入れられた。


「・・・メールは送ったがまだ呼んではいないんだが?」


何時の間にか俺の横に来て席に着いているのはご存知ラングとガットである。


「急にすいません・・・」


「急に飛び出していくからビックリしたよ」


もはや二人の付き人のようになっているロゼさんとヴィオレもいる。・・・申し訳なさそうな顔をしているのだが、ちゃっかり席に着いて料理に手を伸ばしているのはどうなんだろう? アテナたちと普通に歓談を始めちゃってるし・・・この異常事態を不思議に思っているのは俺だけなのか。


「来るの早すぎだろう。・・・暇なのか?」


せっかくの俺の気遣いを返して欲しい。


「君たちのことだから昨日【神仏界】から戻ってきて、今日情報共有して、大体この時間くらいに連絡が来るだろうと当たりをつけていただけだよ」


「と、いう話をラングから聞いとったんで、時間を空けておいたのじゃ」


・・・ガットはともかくラングは読みが深すぎて若干気持ち悪いというか・・・ラングの奴の掌で踊らされたような感じがして嫌だな。・・・実は盗聴器とかつけていないだろうな。


「大方、【神仏界】で得た情報をどこまで売りつけるかで悩んでるんだろう? とりあえず君たちの会った神様達の名前を教えてくれるかな。貰った【加護】や【祝福】まで言わなくていいから」


「・・・【加護】や【祝福】を貰えたかどうかは分からないだろう」


【加護】や【祝福】は神様が認めた者にしか与えられないわけで、当然貰えない場合もある。・・・俺たちは全員貰ったが。


「まあね。だけど直接ではないけど確認する方法はあるんだよ。【人間界】の【ヤオヨロズ神社】って知ってるかい?」


「ああ、つい先日行ったばっかりだ」


「行ったことがあるのなら話が早い。あの神社には神像・・・神様の像がずらっと並んでいる場所があっただろう? あの像たちはほとんどが名前が書いていなく、カカシみたいな像ばかりなんだけど、プレイヤーが【加護】や【祝福】を貰えた場合、その神様の像が出現するようになっているんだよ」


・・・確かにたくさんの像が並んでいる場所があったが・・・


「ということは俺たちに【加護】や【祝福】をくれた神様の像が今頃、現れているってことか?」


「そういうことだね。探すのは大変だろうけど・・・元々、【加護】や【祝福】を貰ったプレイヤー自体はかなり少ないからね。探せば時期的に君たちに【加護】や【祝福】を与えた神様の見当が付くってことだよ」


・・・なるほど。まあ、見当が付くってだけでずばり当てることは出来ないんだろうが・・・少なくとも神様の名前まで隠す必要は無いって事か。


「ちなみに僕が知ってる限り、神様が被ったプレイヤーはいないみたいだよ。まあ、似たような神様とかはいるみたいだけど・・・基本的にプレイヤー毎に会う神様はバラバラみたいだ。プレイヤー一人につき、神様が一柱用意されてるんじゃないか、とも言われてるね」


・・・俺が会ったのは三柱なんだが? 【天凱十二将】も入れると六柱、ククリも入れると七柱なんだが。


しかし、そうか・・・神様が被ってるプレイヤーがいないのか。ということは俺たちが貰った【加護】や【祝福】を持ってるプレイヤーはいないんだな。


「・・・となると、俺たちの情報は売り物にはならないんじゃないか? 誰も買おうとはしないだろう?」


基本的に売れる情報っていうのは買った本人に有益な情報だけだろう。攻略にもレベリングにも使えない情報なんて参考にもならない。


「残念ながらそうなるね。【加護】の内容まで売ればそんなことも無いんだろうけど・・・トーナメントに出るプレイヤーからすれば敵に塩を送るような物だからね。さすがにそんなことをするプレイヤーはいないよ。ただ【インフォガルド】では情報は買ってるよ。例え役に立たなそうな情報でもね。・・・小額にはなるだろうけど」


・・・情報屋魂って所か? ・・・いや、こいつの事だからいずれどこかで使えるかもしれないと思っているのかもしれない。・・・もしくは情報マニアか。


「・・・わかった。どちらにせよ、俺たちは試練も受けてるからな。ある程度情報を渡すことになるのは覚悟の上だ」


これについてはメンバー内で既に話しあったことだ。どの程度情報を渡すかは俺の采配にかかっている・・・押し付けられたとも言うかもしれんが。リーダーはつらいぜ。


「・・・へぇ・・・それは楽しみだね」


ラングの奴が子供のように目をキラキラ輝かせている。・・・やはり情報マニアか、コイツ。


俺はかくかくしかじか、と【神仏界】で得た情報と、こちらが欲しい情報についてラングに話した。


なお、俺とラングが話し合っている間、ガットは激辛マーボーを食べて悶えていたが無視した。


・・・


「・・・情報盛りだくさんだねぇ」


「まったくです」


いつの間にかこちらに合流してロゼさんとなにやら話しこんでいるラング。言葉とは裏腹に本人は楽しそうだ。


「・・・まず【種族スキル】の情報は高値で買い取らせてもらうよ。これから【転生】しようと考えてるプレイヤーに高く売れそうだしね。それに【試練の塔】の報酬・・・【不朽の槍】だっけ? これの情報も売れそうだ」


「【種族スキル】はともかく【不朽の槍】もか? 壊れないのは魅力だが、性能はイマイチだぞ?」


仮に俺が使うとしても、全ての武器が壊されてもう後が無い、くらいの時にしか使えない程度の性能だ。


「それでも欲しがるプレイヤーは一杯いるよ。大手のクランなんかが入りたての新人に持たせたり、ね」


「ウム。武器の【消耗度】はプレイヤーの悩みの種の一つじゃよ。かといって高級な装備にはそう簡単に手は出せんからな。使いまわせる意味でも使えるじゃろう」


ふむ、武器職人のガットが言うのならそうなんだろう。正直俺はそこまで【消耗度】に困らされたことは・・・あ、あったな。


「まあ、アルクは初期の頃からそれなりの装備を持っていたから、そこまで苦労に感じた事が無いのかもしれないけどね」


「いや、【神仏界】では苦労したぞ。【霊刀ムラクモ】も【妖刀オロチ】も・・・【豪剣アディオン】もぶっ壊されたし」


「なんじゃと!?」


・・・おお、驚いているな、ガット。まあ、自分の自信作が壊れたのならそうもなるだろうな。


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