美食の意味
===移動===>【アークガルド】クランホーム 庭
俺たちは全員、練習場から庭へと移動する。
う・た・げ・の・じ・か・ん・だ!
メインとなるのはアーニャが持って帰ってきた【美食幻獣】の料理だ。ただし量はそれほど多くないので、アーニャが作りおきしていた通常の食材の料理も並べる。・・・餃子にチャーハン、酢豚に八宝菜・・・今回は中華料理か。アーニャ、本当に何でも作れるな。
そして肝心の【美食幻獣】の料理だが・・・話に聞いていた通り、焼肉や野菜炒めなどシンプルな物ばかりだった。
「食材の味を活かした料理にしたのです」
なるほど・・・下手な味付けをせず素の味で勝負したと言う事か。
それは良いのだが・・・よく考えたら元の食材のモンスターってアーニャたちが戦ったのを話で聞いただけで、俺たちにはどんな姿や名前だったのかはわからないんだよな。
「アーニャ、【美食幻獣】は【看破】で見ることは出来なかったんだよな?」
「はいなのです。なのでどんな名前なのかは分からないのです」
となると俺たちが改めて【幻獣界】で【美食幻獣】を探そうと思ったらアーニャから外見を聞いて似たようなモンスターを探すしかないのか。・・・似顔絵でも描いて貰うか?
さすがに調理後の料理を【鑑定】しても元の食材の名前は分からないよな。・・・いや、待てよ? そういえば有用な【鑑定】能力を持ってる奴が居たな。
「・・・と、言うわけで早速出番だぞ、アテナ」
「・・・アルク、私を便利な鑑定士か何かだと勘違いしてない?」
それは【神眼】という便利なスキルを取得したアテナを頼りにしているからさ。これは【天使】という種族のアテナにしか出来ない仕事だ。頑張れ! アテナ!!
「まあ、良いけど。【神眼】」
「結局良いように使われていますよ、アテナ」
アルマのツッコミを無視して料理を【神眼】で【鑑定】していくアテナ。・・・紅く輝いた眼で真剣に焼肉を睨みつける様はさながら獲物を狙うハンターのよう・・・違うか?
「えーっと・・・【牛獣モーウシー】?」
「・・・何言ってんだ、アテナ?」
ダジャレ? ・・・失笑するレベルでつまんないぞ?
「何って・・・【神眼】で【鑑定】したらそう言う名前が出たんだからしょうがないじゃない!」
「確かにその焼肉は牛さんのモンスターのお肉なのです」
・・・え? じゃあその牛の【美食幻獣】の名前が【牛獣モーウシー】なの?
困惑する俺たちを余所にアテナは次々と【鑑定】していく
「【豚獣イーブター】、【葉獣レタスィー】、【猪獣ボアーボア】・・・ですって」
・・・どういうネーミングセンスだ。ゲームの運営の悪ふざけなのか、それともただ適当に名付けたのか・・・俺は前者だと思う。
「・・・ま、まあ名前が分かったのは僥倖だな。ありがとう、アテナ。ラングの奴からは【美食幻獣】なんてモンスターは聞いたことはなかったが、その名前で情報クランや掲示板を探せばどこかに情報が落ちてるかもしれない。探しやすくはなったはずだ」
【神仏界】と違って【幻獣界】なら【看破】で名前も調べられるはずだから、間違う事もないだろう。・・・問題は【幻獣界】のどのエリアにいるかだが・・・それもこれからの探索次第だな。
「よし、名前もわかった事だし・・・食べるか」
俺たちだけではなくアーテルたちも待ちきれないようだ。さすがにこの人数で分けると一人当たりの量は多くないから味わって食べるんだぞ。
「じゃあ、いただきます」
「「「「「「いただきます!!」」」」」」
俺の挨拶を皮切りに、さっそく目の前の料理に食らい付く。まるで餓えた猛獣がごとく。
・・・
「・・・」
・・・よくカニは人を無口にするという・・・ようはおいし過ぎて手が止まらない、喋ってる余裕なんて無いって事なんだろうが・・・本当に美味しい物を食べると言葉が出なくなるって本当なんだな。
【美食幻獣】の料理は最高に美味しかった。量が少ないのであっという間に食べきってしまったのだが、その美味しさの余韻に浸ってる為か誰一人として口を開こうとする者はいなかった。いつもわいわいがやがや食べるアーテルたち【眷属】も同じだ。
「・・・すごいのです。こんな美味しい料理、リアルでも食べた事が無いのです」
「ああ、超高級な食材で作られた最高の料理って感じだな」
【精霊界】産の野菜たちも美味かったが、この料理はその上を行くな。・・・いや、【幻獣界】には【美食幻獣】よりも更に美味な【宝獣】っていうのもいるらしいが・・・正直、想像もできん。今食べた料理が既に想像以上に美味しい料理なのに更に上があるとは・・・
「なんというか・・・味が濃厚すぎて一口二口食べただけで満足してしまいましたね。いえ、お腹一杯になったという意味ではないのですが・・・それでも満たされたというのでしょうか」
うむ、わかるぞアルマ。最初こそ量が少なくて不満だったが、実際に食べてしまったら少量でも満足してしまった。お腹ではなく心が満たされた感じだ。心なしかさっきよりも元気になったというか、心が軽くなったような気がする。・・・恐るべし、【美食幻獣】。
俺たちは勿論のこと、アーテルたち【眷属】たちも満たされたような顔をしている。
「・・・最初にここまで美味しい料理を食べてしまうと他の料理が霞んでしまうのです」
アーニャは並べられた中華料理を見た。【美食幻獣】の食材ではない、俺たちが用意したいつも通りの食材で作られた料理だ。確かに食材と言う意味では及ばないだろうが・・・
「いや、そんなことは無いぞ。他の料理も十分おいしい。・・・むしろ何時もより美味く感じる」
【美食幻獣】の料理は濃厚ではあったが、しつこさは感じなかった。試しに餃子を一個食べてみる。うん、美味しい。むしろもっと食べたくなる。
他のみんなも同様のようだ。いつもと同じように・・・いや、いつも以上にガツガツとアーニャの料理に食らいついていく。
・・・これはあれか。心が満たされたから今度は腹を満たそうとしているのか。
「本当なのです。不思議なのです。【美食幻獣】は不思議食材なのです?」
飛びぬけて美味しい料理があったからといって、その料理以外は食べられなくなるわけでもないし、他の料理がまずくなるわけでもない。むしろ他の料理まで美味しく感じるようになる。確かに不思議食材だな。
「・・・これはますます【美食幻獣】とやらを探したくなってきたな。【宝獣】とやらもな」
「そうっすね! 確かにすごいっす!!」
・・・口の中に物を入れながら話すな、アシュラ。行儀悪いぞ。食うか喋るかどっちかにしろ。
「僕も負けてはいられませんね」
アスターの畑産の野菜も十分すぎるほど美味しいけどな。ただ【幻獣界】に【美食幻獣】なんてものがいるんだから、探せば【精霊界】にも同じように特別な野菜や果物があるかもしれないな。・・・楽しみが増えた。
戦い、強くなるだけがこのゲームの楽しみ方じゃないってことだな。
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