アスターの場合:霧深き場所
===視点切り替え & 回想===>アスター
「・・・何にも見えない」
「あいー・・・」
僕とミコトは【謁見の門】を抜けて来たんだけど・・・深い霧が立ち込めていて周りが良く見えない。辛うじて足元は見えるけど・・・視界が悪い。数メートル先すら良く見えない。
一応、はぐれたら困るんでミコトと手を繋ぐ・・・繋ごうとしたら胸の中に飛び込んできた。抱っこをご所望のようだ。・・・仕方ない。
「あい♪」
なぜかミコトは喜んでるけど・・・正直、僕は困ってる。一体これからどうすれば良いんだろう?
と、その時・・・
「ふぉっふぉっふぉ・・・随分、甘えん坊なお嬢ちゃんじゃののう」
「うわぁ!!」
「あい?」
真後ろから声が聞こえてきた。振り返るとそこには・・・男性の老人がいた。・・・びっくりした・・・一体、何時の間に?
その老人は長く白い髪と白い髭、着物を着ていて杖をついている。腰が曲がった老人・・・いや、風体から見て仙人みたいだ。
「えと・・・貴方は?」
「ふぉっふぉっふぉ。お主らを呼んだ者じゃよ。【精霊王レイハイム】と言う」
その人・・・いや、神様がしわくちゃな顔で微笑みながら答えてくれた。
【精霊王レイハイム】・・・それが僕を選んでくれた神様なのか。
「はじめまして。僕はアスター。この子はミコトと言います」
「あい!!」
ミコトも元気良く挨拶してくれる。・・・警戒心は無いみたいだ。やっぱり相手が【精霊】の王様だからかな? ・・・王様相手にはちょっと気さく過ぎる気がするけど。
「ふぉっふぉっふぉ、知っとるよ。ワシは【精霊界】で起こっておることなら大概知っておるからのう・・・特にそっちのお嬢さん・・・【生命の精霊】が産まれることは非常に珍しいからのう」
「そうなんですか?」
思わずミコトを見てしまうけど・・・あ、本人は何も分かってないみたい。
「うむ。生命とは森羅万象から産まれるもの、森羅万象に宿る【精霊】とは似て非なるものなのじゃ。故に両方の性質を併せ持った【生命の精霊】というのは滅多に産まれてくる事は無いということじゃな。かく言うワシも【生命の精霊】を見たのは二千年ぶりじゃわい」
・・・さらっと凄い事言ってるけど・・・え? ミコトってそんなに珍しい【精霊】なの? そりゃ確かにミコト以外の【生命の精霊】は見たことが無いし、情報も一切ないけど・・・【精霊界】のことを把握している神様が二千年ぶりって・・・
「さらに言うなら【生命の精霊】が誰かの【眷属】になるなんぞ、ワシの知る限り初めてのことじゃわい。大事にしなされよ」
・・・どうやら僕は相当に運が良いみたいだ。
「・・・まあ、その話は良いじゃろう。それよりお主には試練を受けて貰わんとな」
「試練・・・ですか?」
「うむ・・・ワシは名前から分かるじゃろうが【精霊】たちの王じゃ。【精霊】を守ると同時に【精霊】と共にあろうとする者を助ける者でもある。・・・まあ、害をなそうとする者を排除するのもワシの役目なんじゃがな・・・あ、【邪霊】は違うぞい。【邪霊】とは正気を失ってしまった元同胞。そのまま捨て置くより倒し、【精霊】として生まれ変わってもらいたいからのう」
・・・良かった。【邪霊】まで、この神様の保護対象だとか言われたらどうしようかと思った。なんせ僕ら今まで結構な【邪霊】たちを倒してるからね。
「そんなわけでお主が【精霊】の主としてふさわしいか試させてもらうぞい。・・・まあ、お主の今までの行動から鑑みるに悪い人間ではないことは分かっておるがのう」
そう言うと【精霊王レイハイム】のお爺さんが杖で地面をコンッとついた。・・・ここの地面、雲みたいにフワフワしているのになんで硬い物が当たった音がするんだろう?・・・でも僕は空気を読んでツッコミはしない。余計な事を言うと後でひどい目にあうってわかってるからね。ソースはアシュラ。
お爺さんが杖をついた途端、霧がどんどん晴れていった。そして・・・
「え!?」
目の前には大きな山がそびえ立っていた。・・・おかしい。いくら霧が深くて視界が悪いとは言っても目の前にこんな大きな物があって気が付かないはずが無い。
「ふぉっふぉっふぉ・・・驚いておるようじゃな。・・・まだまだ未熟な証拠じゃわい」
・・・つまりさっきまでの霧はただの霧じゃなく幻覚系の【魔法】かなにかだった・・・ということかな。
「この山は【蓬莱山】・・・【精霊】たちの住処の一つじゃよ」
「【蓬莱山】・・・」
・・・見たところ自然豊かな山にしか見えない。山の上部辺りは今だ霧に包まれていて標高はどれくらいなのかは確かめる事はできない。
「ほれ、山へと続く一本道があるじゃろう? その道を辿って【蓬莱山】の山頂まで辿り着くのがお主への試練じゃ」
・・・確かに道がある。歩道と呼べるほど整備された物では無いけど、しっかり道だというわかる程度には形になっているように見える。これなら歩くのにも支障はでないだろう。・・・でも。
「山頂へ行くだけですか?」
「山頂へ行くだけじゃよ?」
・・・お爺さんは朗らかに笑っているけど・・・なんだか、段々胡散臭く思えてきた。きっと道中では強力な【邪霊】とかが出てくるに違いない。
「おっと、条件が一つあったわい。この山の中では殺生は禁止じゃ」
「・・・禁止?」
「禁止じゃ。この中で【精霊】への攻撃は無論、動植物を狩ることも許さん」
試練クエスト【蓬莱山の山頂を目指せ!】
達成条件:【蓬莱山】の山頂へ到着。ただし、戦闘行為は禁止。
制限時間:無し
・・・アナウンスまで出てきた。戦闘行為禁止って。
「なーに、この一本道を辿っていけば問題はないはずじゃ。ここの【精霊】は人に危害を加えようとする奴はおらんよ。・・・せいぜいイタズラされる程度じゃ。・・・道から外れん限りは、な」
・・・このお爺さん、絶対わかってて言ってるよね。・・・要するに何があってもこちらからは手を出すなってことだよね。
「じゃ、頑張るんじゃぞー」
そう言ってお爺さん・・・【精霊王レイハイム】はフッと姿を消した。・・・もう僕は驚かない。
「・・・行こうか、ミコト」
「あい!!」
・・・ところでもう抱っこしなくて良いよね? 自分で移動してくれないかな、ミコト。
===視点切り替え & 回想終了===>アルク
「アスターを選んだのは【精霊王】か・・・【死神】じゃなかったのか・・・」
「・・・なんで僕が【死神】に選ばれると思ってたんです」
・・・だってお前の戦闘スタイル、【死神】そのまんまじゃん。・・・だが利口な俺は口に出さない。余計な事を言うと後でひどい目にあうからな。ソースはアスター。
「それにしても変わった試練だな・・・それに【蓬莱山】か」
「・・・今、露骨に話題逸らしましたよね。まあ、良いですけど・・・【蓬莱山】って知ってるんですか?」
知ってはいるが、実は【蓬莱山】って同じ名前の場所がいくつかあったりするんだよな。まあ、この場合、日本にある場所のことでは無いだろう。
「中国に伝わる神山の一つだな。ただ、そこに住んでるのは【神仙】・・・つまり仙人だったと思うんだが・・・」
【精霊】と仙人の繋がりはいまひとつ分からんな。
「ああ、やっぱり仙人の話になるんですね」
なぜかアスターは納得顔だ。
「やっぱり? なにかあったのか?」
「ええ、それをこれからお話します」
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