決着の一撃
本来の正しい形で【天凱十二将】を倒すためにあえて【勇天の一撃】【俊天の疾走】【全天の属性】を使わず挑んでいるわけだが・・・
「だが少し訂正させてもらう」
「?」
俺の言葉に首を傾げる【勇天ストラッシュ】。
「俺が使ったアイテムも武器も、俺一人で手に入れたものじゃない。結局、俺一人の力じゃあお前たちに太刀打ちできなかったってことだ」
【ハイポーション】はアスターの畑で取れた物を材料にしているし、【兵器】はアヴァンが作った物。【霊刀ムラクモ】と【妖刀オロチ】はレイドクエストをみんなでクリアした報酬だし、【豪剣アディオン】と【攻鎧アルドギア】はガットが作った物だ。
これらがなかったら俺はとっくに負けていた。
無論、タダで手に入れたわけでも楽をして手に入れたわけでもない。報酬や対価を払い、正当な手段で手に入れた物だ。だが、俺だけの力で手に入れた物ってわけでもないのだ。それを俺の力と言い切ってしまって良い物なのか・・・
「・・・それも含めてお前の力だろう? お前が手に入れたものはお前の行動の結果によるものだ。負い目を感じる必要はない。・・・それに【人間】は互いに助け合うものなのだろう?」
・・・あれ? なんか諭されてる? それとも気遣われているのか?
なんにせよ、意外に良い人・・・もとい、良い神様じゃないか? なんか俺が今までやって来た事が認められた気分。感動のあまり、思わず口元を手で覆い涙ぐんでしまう。
・・・そうだな。俺はみんなへの感謝を忘れず、みんなの役に立てば良い。
「・・・我らにはそれができなかったから・・・」
・・・おっと今度は【勇天ストラッシュ】がなんか眉間にしわを寄せて唸り始めたぞ。
「・・・お前達の事情は俺には分からない。だが・・・お前達だって助け合う事はできたんじゃないのか?」
先ほどの【全天エレメント】、そして【俊天アクセル】の行動を思い出す。確かに【天凱十二将】はあまり仲が良くないのかもしれない。先ほど協力しあったのも俺という共通の敵を倒す為だったのかもしれない。
だけど・・・それでも・・・協力し合えたという事実が大切なんだと思う。後はそれを活かせるかどうか、だ。
「・・・って、今は戦いの途中だぞ。なんで人生相談みたいなことになってんだ」
この場合は人生相談ではなく神生相談? ・・・なんでこんな話になったんだっけ?
「・・・そうだったな。悩むのは決着を付けてからにしよう。・・・それに十分に時間は稼いだからな」
・・・ああ! この野郎!! BPが自然回復するまでの時間を稼いでやがったな!!
汚ねぇ! 話しかけてきたからつい乗っちまったじゃないか!? さっき俺が感じた申し訳なさを返せ!!
「・・・フフッ」
微笑みながら距離を取る【勇天ストラッシュ】。
笑い事じゃないっての。・・・落ち着け・・・焦れば向こうの思う壺だ。挑発に乗って向こうの誘いに乗れば一撃でやられる。
幸い、【勇天ストラッシュ】の負った傷はそのままだ。どうやらHPまでは自然回復しないか、時間がかかるらしい。
ということは俺の攻撃を当てられれば倒せる見込みは十分ある。
「後一撃・・・いや、三撃で終わらせよう」
・・・三撃、ね。
「・・・【帝釈天の勇撃】か」
「・・・やはり、知っていたか」
【勇天の一撃】の進化技・・・今後のためにと思ってSPを大量消費して取得しておいたが、まさか俺より先に使ってくる奴がいるとは思わなかった。
【帝釈天の勇撃】は三回攻撃によって成り立つ技だ。
BPを全消費するスキルであることは変わらないが、一撃一撃の威力は【勇天の一撃】より落ちる。だが、三回の攻撃を全て当てる事が出来たなら、【勇天の一撃】の倍以上のダメージを与える事が出来る。
仮に三回の攻撃を全て当てる事が出来なくても、一撃の威力は通常攻撃より遥かに高い。実質的に一発勝負だった【勇天の一撃】が三発勝負になったと考えて良いだろう。・・・もう一撃必殺でもなんでもなくなってるが。
「三撃で一つの技なのだからあながち間違いでは無いだろう」
「人の心を読むな」
・・・それより問題なのは今の俺の状態だ。今の俺はHPを半分以上失っている。この状態で【帝釈天の勇撃】を一撃でもまともに食らえば・・・終わりだろう。
つまり、俺が勝つには三撃を全て防ぐか、かわす必要があるわけだ。
「お前も使えば良かろう。対抗策としてはこれ以上の物はあるまい」
・・・と【勇天ストラッシュ】は言ってくるが、その手には乗らない。確かに【帝釈天の勇撃】には同じ【帝釈天の勇撃】で対抗するのが一番だと思う。
しかし、だ。先ほど【勇天の一撃】をぶつけ合った時点で俺のほうが力負けしているのは判明している。それは【帝釈天の勇撃】でも同じだろう。
俺が勝つためには【帝釈天の勇撃】を使わずに攻略する必要がある。・・・距離を取って遠距離攻撃? いや、それは相手も考えるはず。そしてそれを許すほど甘くは無いだろう。
・・・回復ができなかった為にHPは半分以下、先ほどの広範囲【結晶粒子】を使用した為にMPも残りわずか・・・BPが少し余裕があるくらいか・・・
「・・・ふぅー・・・」
・・・やはり、今度も博打だな。だが逃げるわけには行かない!
「・・・良い顔だ。覚悟を決めたな・・・では行くぞ! 【帝釈天の勇撃】!!!」
【勇天ストラッシュ】が叫んだ瞬間、長剣が黄金の輝きを見せる。恐ろしいまでに気力が込められた剣の輝きだ。そんな長剣を構え、【勇天ストラッシュ】が迫ってくる。
「まずは【初撃】!!!」
渾身の一撃を振り下ろしてくる【勇天ストラッシュ】。
「【結晶の刺突】!!」
一方の俺は【結晶魔法】で迎撃を試みる。同時にMPが0になった。もう【魔法】は使えない。
地面から結晶のトゲが【勇天ストラッシュ】を襲う。
だが・・・
「・・・!?」
【勇天ストラッシュ】はそんなことは気にも留めず突撃してきた。体にトゲが刺さりながらも剣を振り下ろす。
・・・やはり一度見せた攻撃は通用しないか。【結晶魔法】だけではそれほどダメージにならない事もばれてる。
「【分身の術】!【バックステップ】!!」
俺はその場に分身を置き、一歩下がる。ギリギリの所で【勇天ストラッシュ】の剣を避ける。
「良くぞ避けた! ならば【次撃】!!」
分身を切り裂き、なおも迫り来る【勇天ストラッシュ】。
速い・・・もう避けるのは無理か。・・・ならば!
「【グランディスバンカー】セット!!」
俺は左手用に残っていたもう一つの【グランディスバンカー】を装着。
「うらあああ!!」
ガキィィィン!!!
再度ぶつかり合う剣をバンカー。だがこの結果は既に出ている。
バキィィィン!!
・・・バンカーが砕け散った。だが、これで二撃目も防いだ!
「ほう、これも防いだか・・・ならば最後の! 【終撃】!!!」
来た! これが最後の一撃!! これをどうにかして反撃できれば俺の勝ちだ!!
俺は両手で【豪剣アディオン】を構える。もう、奴の攻撃を防ぐ事ができる武器はこれだけだ。・・・頼む!!
「【マキシマムスラッシュ】!!!」
狙うのは先ほどと同じように【勇天ストラッシュ】の長剣! 剣の軌道を逸らし、隙が出来た所で反撃する。
そう思っていたのだが・・・
「・・・!?」
先ほどよりも速い!?・・・この野郎! この土壇場まで抜いてやがったな!!
ガキィィィン!!
ぶつかり合う剣と剣。だが・・・
ピシピシピシィ!!
【豪剣アディオン】にまでヒビが!? パワーまで上がっているのか!・・・止められない!!
「終わりだ!!」
力の限り長剣を振り下ろそうとする【勇天ストラッシュ】。
【豪剣アディオン】でも止められない!
・・・ならば最後の手段!!
俺は【豪剣アディオン】から左手を離し・・・
「【サクリファイスガード】!!」
残されたBPを全て使い、【勇天ストラッシュ】の長剣を掴む。
「!!!!」
バキバキバキィン!!
【攻鎧アルドギア】の左腕部分が砕けた。
【サクリファイスガード】は指定した部分を犠牲にしてダメージを一点に抑える防御スキル。俺は左腕を一定時間使用不能にする代わりに【勇天ストラッシュ】を防いだのだ!
唯一の懸念はダメージを完全に無くす事はできない事だが・・・よし! わずかだがHPはまだ残っている!!
「・・・見事だ。だが、お前ももう力は残っていまい。あとは剣の打ち合いか」
【勇天ストラッシュ】は自分の攻撃が防がれたにも関わらず笑っている。通常攻撃の応酬なら、時間をかければ自然回復する【勇天ストラッシュ】の方が有利。しかも、今の俺は片手だ。
・・・確かにもう俺のBPもMPも空だ。だが・・・
「・・・残っていないのなら回復するまでだ」
俺は口の中に含んでいた【丸薬】を飲み込む。
「なにぃ!?」
驚く【勇天ストラッシュ】。
この【丸薬】は【忍び里】にあったレシピを元に、アスターの畑で取れた【気力草】を材料に、アーニャに作ってもらっていたビー玉サイズの小さい代物だ。回復量は【ポーション】に遠く及ばないが、そのまま飲み込めばスキルを一回使用するくらいのBPは一瞬で回復できる。
・・・いつの間にそんな物取り出したんだって? 最初から戦闘服のポケットに入ってたぞ? 準備は万端で来たって言っただろ?
・・・いつの間に口に含んだのかって? ほら、さっき【勇天ストラッシュ】の言葉で涙ぐんで口元を手で覆ったときにどさくさにまぎれて、な。
と、言う事なんだが、説明する時間はやらん!!
「【バスタースラッシュ】!!」
右手で持っていた【豪剣アディオン】が【勇天ストラッシュ】の体を切り裂いた。
「・・・見事だ」
そう言い残し、【勇天ストラッシュ】は消えていった。
『試練クエスト【天凱十二将 勇天ストラッシュを倒せ!】をクリアしました』
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