刹那の賭け

【俊天アクセル】の姿が消えた。

気配すらしない。

要するに速すぎて目で追いきれない、感知も間に合わないってことだが・・・つまり、大ピンチってことだ。

「【ガードアーマー】！【マジックアーマー】！ 全開！！」

相手を感知できない以上、避けるのは不可能。

防御スキルで防御を固めるしかない・・・だが・・・

ドゴッッッッ！！！！

「ガハッ！！！」

胸にモロにパンチを食らってしまった・・・空を飛んでいるのに・・・攻撃を食らったところでようやく【俊天アクセル】の姿が見えたが、反応すら出来ないとは・・・強すぎるだろ！

ピシピシピシィ！！！

・・・！？【攻鎧アルドギア】にヒビが・・・！？

やばい・・・マジでやばい。

なんとか突き出したままの【俊天アクセル】の腕を掴もうとするが・・・

「ハッ！！！」

「！？」

チィ！ また消えた！！

ヒット＆アウェイで確実にこちらを潰す気か。

・・・あのスピードに対抗するには・・・

「でぇやあああ！！！」

「！？ しまっ・・・グアッ！！」

後ろからの攻撃！？　クソッ！ また吹っ飛ばされた！

俺を落とすつもりか！ このままじゃ地面に激突する！！

・・・いや、違う！

俺が吹っ飛ばされた先にいたのは・・・【勇天ストラッシュ】！！

二柱で協力してきたか！

まずいまずいまずい！！

このまあじゃ、【勇天の一撃(アーク・ストラッシュ)】の餌食だ。

今の攻撃でHPも半分を切った。食らったら確実に死ぬ！

おそらく後ろからも【俊天アクセル】が追撃してきているはず・・・

前門の虎、後門の狼、か。

・・・やっぱり強いなぁ。

普段、俺がお前達のスキルにどれだけ頼りきりだったのかよく分かる。

だがな、あいにく俺は・・・

「負けず嫌いなんだよ！！【結晶粒子(クリスタルダスト)】！！」

俺の周囲、広範囲に渡って結晶の粒子を発生させる。さらに・・・

「【結晶の障壁(クリスタルウォール)】！！」

俺は【勇天ストラッシュ】の前面に結晶の壁を作る。

「小細工を・・・」

しかし、【勇天ストラッシュ】は【結晶粒子(クリスタルダスト)】を無視し、軽く剣を振るっただけで【結晶の障壁(クリスタルウォール)】をあっけなく壊してしまう。

【全天の属性(アーク・エレメント)】によって強化された長剣には生半可な防御は通用しないらしい。・・・もっとも防(・)御(・)の(・)た(・)め(・)に出したものではないが。

俺は【霊刀ムラクモ】、【妖刀オロチ】を抜く。

「・・・すまない」

刀に謝りながら・・・

結晶の壁を破壊した【勇天ストラッシュ】が再度、剣を構える。確実に俺を仕留める気だ。もう直ぐその剣の間合いに入る。

・・・ここからが勝負だ・・・失敗すれば即負けが決まる。

刹那に全てを賭けろ！ ってね。・・・今だ！！

「【十字烈斬】！！！」

「【勇天の一撃(アーク・ストラッシュ)】！！！」

【勇天ストラッシュ】が放つ長剣に、十字に構えた日本の刀を振るう。

ガキィィィン！！

激しい火花を散らしながらぶつかる剣と刀。

・・・だが。

パキィン。

・・・刀が折れた・・・

【霊刀ムラクモ】も・・・

【妖刀オロチ】も・・・

真っ二つに・・・

それでもなお、【勇天ストラッシュ】の剣は俺に迫ってくる。

・・・だが、剣の勢いは殺せたはずだ！！

「【結晶の刺突(クリスタルチャージ)】！！」

今度は【勇天ストラッシュ】の真下から結晶のトゲを発生させる。狙いは【勇天ストラッシュ】自身ではない。その振るう剣だ。

真下から剣を跳ね上げるように発生した結晶のトゲが【勇天ストラッシュ】の剣を弾く。・・・さすがに剣を手放したりはしなかったか・・・

だが狙いはそれだけじゃない！

俺は体を捻り、結晶のトゲに着(・)地(・)する。

目標は【勇天ストラッシュ】で(・)は(・)な(・)い(・)。

後ろから迫ってきている【俊天アクセル】だ。

当然、超加速中の【俊天アクセル】の姿を見つけることは出来ない。

だから、【結晶粒子(クリスタルダスト)】の穴(・)を見つける。

周囲に漂っていた無数の【結晶粒子(クリスタルダスト)】・・・【俊天アクセル】が通り抜けたことによりできたその穴を・・・

「そこだ！！【ハイジャンプ】！！」

結晶のトゲを踏み台にして思いっきりジャンプする。

同時に【豪剣アディオン】を抜く。

・・・俺にはわかるぞ、【俊天アクセル】。

【俊天の疾走(アーク・アクセル)】は自分の限界を超えたスピードを出すスキルだ。その制御は容易ではない。

車が急に止まることも曲がることもできない様に、スピードに乗った物体は直進こそ速いが急な方向転換ができない。

ましてや【韋駄天の俊走《アークヘブン・アクセル》】はさらにそれ以上に加速するスキル。

【俊天の疾走(アーク・アクセル)】が車なら【韋駄天の俊走《アークヘブン・アクセル》】は新幹線みたいなもんだ。

急な方向転換は不可能。

だからさっき、一撃目とニ撃目の間にタイムラグがあったんだ。

あれは俺の後ろに回(・)り(・)込(・)む(・)という簡単な動作も超加速中では難しかったからだ。

それは今も同じ。

俺に向かって直(・)進(・)してくる【俊天アクセル】は、俺の行動を見ても軌道を変えることができない。だからこそ・・・

「【ミーティアルスラッシュ】！！」

その軌道上を斬る俺の剣を避けることができない！！

「・・・カハァッ！？」

・・・手ごたえあり・・・だ。

「【俊天アクセル】！！」

【勇天ストラッシュ】の悲痛な声が響く。

「・・・くぅ・・・まさか、やられるなんて・・・後は頼んだわよ・・・【勇天ストラッシュ】」

『試練クエスト【天凱十二将 俊天アクセルを倒せ！】をクリアしました』

・・・どうやら倒せたらしい・・・それは良いんだが・・・なんか俺が悪役っぽく感じるのは気のせいだろうか？

「うおおおお！！」

だが気を抜いてはいられない。

【勇天ストラッシュ】がこちらに向かってくる。

・・・回復のスキを与えないつもりか。

ガキィィィン！！

【勇天ストラッシュ】の剣と【豪剣アディオン】がぶつかり合う。

・・・【全天の属性(アーク・エレメント)】の効果はもう切れたようだ。ここからは純粋に剣の勝負になる、か。

「・・・なぜだ・・・」

と思ったら【勇天ストラッシュ】が話しかけてきた。

「・・・なぜ我らのスキルを使わない？ それだけの技量と我らのスキルがあれば容易に我らを屠れたはずだ」

どうやら自分たちのスキルを使わないことが疑問らしい。俺が全力で戦ってないと思われているのだろうか？ ・・・いずれにせよ、お前たちを簡単に倒すなんてできないと思うけどなぁ。

「・・・さっき言っただろ？ 俺の力で倒すって。お前たちのスキルは本来、お前たちを倒して取得できるんだろ？ つまり、お前たちの力を自分の力で攻略して初めてお前たちの力を使うことが許されるってわけだ」

まあ、要するに意地だな。仮に俺以外にも【天凱十二将】のスキルを持っているプレイヤーがいた場合、そいつは独力で【天凱十二将】を倒したことになる。ならば俺も実力を示さないと、俺は戦う前にそいつに負けていることになる。俺は負けず嫌いなんでな。

「・・・そうか」

【勇天ストラッシュ】は何やら納得した顔になった。