天凱十二将
「ここは私が戦うからアンタたちは引っ込んでなさい!!」
「俊天に任せると長引くから嫌だ」
「・・・確かに一撃の威力なら我らの方が・・・」
「なんですって!?」
・・・【天凱十二将】のお三方がやいやい言い争っている間にさっさと回復、回復。・・・ちなみに今回使用した【ポーション】はアスター印の【ハイポーション】である。・・・これまでは【ポーション】を何個も何個も飲まないと全快しなかったが・・・【ハイポーション】なら一発である。・・・アスターには感謝の念が尽きない。
「なんかおにーちゃん、回復しちゃってるけど良いの?」
「これはさすがにアヤツらが悪かろう。まったく戦いの最中に喧嘩など言語道断」
ククルと【戦闘神スサノオ】はあちらに口を出す気は無いようだ。正直、助かる。
「クルー・・・」
「だう・・・」
「マスター・・・」
・・・いかん、アーテルたちが不安そうだ。
「・・・大丈夫だ、アーテル、アウル、カイザー」
大丈夫な根拠は特に無いが、【眷属】を不安にさせるようでは主失格である。・・・勝ち筋はまったく見えないが。
・・・それはそれとしてもう一つ気になる事がある。
「あらあらー、【天凱十二将】の皆は仲が悪いのねー」
「・・・まあ、普段彼らは集まる事は無いので仕方が無いのかも知れませんが・・・」
・・・少し離れた場所にいる【太陽神アマテラス】と【月光神ツクヨミ】が、どこからかテーブルとイスを出して優雅にお茶なんぞを飲みながら観戦している。
・・・別に文句は無いんだが・・・これっておたくらが出した試練じゃなかったっけ?
「アヤツら・・・!!」
いかん、俺の視線に気が付いた【戦闘神スサノオ】が【太陽神アマテラス】と【月光神ツクヨミ】を見て怒り気味だ。どうやらこの神様は戦いを汚すような真似をする者が許せんらしい。さすが戦闘神。
しかし、ここで三柱の神々の喧嘩をおっぱじめられても困る。試練がめちゃくちゃになるしな。
「待ってください。俺は気にしませんので・・・」
「・・・しかし、それでは戦う者に対してあまりにも無礼・・・」
・・・うーむ、見た目どおりというか予想通りというか、【戦闘神スサノオ】はこてこての武人体質のようだ。頭が固い、頑固とも言う。
「・・・ただ見ているだけでは退屈なのでしょう。それは力なき自分にも責任があります。・・・これから神々のお眼鏡にかなう活躍をすれば良いだけのことです。・・・そうだ、タイミングが無かったので渡しそびれていましたが、どうかこれらをお納め下さい」
予め神様に渡そうと思って準備していた、アーニャ特製クッキーとアスターの畑で取れた【精霊リンゴ】で作ったリンゴジュースである。要するに神様へのお供え物だ。物で釣る作戦?・・・正直それもある。
「おおー♪ なんかすっごくおいしそう!」
ククリが凄い反応している。・・・戦闘中に何やってんだと思われるかもしれないが気にしてはいけない。
「ククリ、これを【太陽神アマテラス】と【月光神ツクヨミ】の元に届けてくれないか? ククリも一緒に食べていいからさ」
「わかった!!」
良い返事の後、俺から品を受け取って高速で二柱の元へ駆けて行くククリ。・・・気のせいか、今までで一番元気なように見える。
「・・・おや? 貴方は一緒に行かれないのですか?」
その場から動こうとしない【戦闘神スサノオ】を促すが・・・
「今は戦いの最中である・・・お前の持ってきた物には興味があるが、それは後で頂こう」
・・・カッコいい事言っている【戦闘神スサノオ】だが、向こうからおいしー! という言葉が聞こえる度に視線がそちらの方に行ってしまっている。・・・我慢しないで行けば良いのに。
・・・そうすれば【戦闘神スサノオ】の目が無い隙に・・・
「お前、今何か邪なことを考えていなかったか?」
「滅相もございません」
・・・ちぃ! 読まれたか! ・・・まあ、神様の目をそう簡単に欺けるとは思わなかったが・・・
「・・・ふむ、卑怯な手は好まんが、その勝ちに拘る姿勢は良し。・・・そうだな。手を貸す事は出来んが、アヤツら【天凱十二将】の事を少し教えてやろう」
「良いのですが?」
審判役が一方に何かを教えたら贔屓になってしまうのでは?
「かまわぬ。元々お前に不利な戦いであった事には変わりないのだからな。それに・・・この場で口喧嘩なんぞしているアヤツらが悪いのだ」
・・・見ると、【俊天アクセル】【勇天ストラッシュ】【全天エレメント】はまだ、やいのやいの言い合っている。・・・これ、3対1が逆効果になってないか?
とはいえ、今は勝率を1%でもあげる為に、情報は少しでも欲しい。
「神々にはそれぞれの領分があるという話はしたな?【天凱十二将】とは戦闘という領分の中でもさらに一点を極めた者たちのことなのだ」
【俊天アクセル】はスピード、【勇天ストラッシュ】は一撃必殺、【全天エレメント】は属性攻撃といった具合か。それはスキルを使っている俺自身もよく分かる。
「それはすなわち、一柱ごとに他の何者にも負けぬ力を持っているということに他ならぬ。しかしその力は一点特化。万能とは真逆の力となる。故に同じ土俵で戦えば負けることは無いが、違えば負けることも必然」
たとえば、常勝無敗のプロ野球選手にサッカーの試合で勝ち続けろ、と言っても、そんな無茶な、と誰もが思うだろう。同じ畑では負け無しでも畑違いの勝負では・・・まあ、絶対に負ける、とは言えないが絶対に負けない、なんてことはありえないだろう。
「ではそういった者たちが集えばどうか? 戦いの勝ち筋は一つにあらず。互いに足りない面を補い、己の力を最大限に発揮できれば敗れる事は無い。そういった者たちの集まり、それが【天凱十二将】なのだ」
・・・要するにそれぞれの得意分野のスペシャリストが集まった集団、と言うわけか。
「『凱』とは勝ち戦の事。つまり『天凱』とは天より勝利を約束される事を指す。【天凱十二将】が揃いし時、それは戦いにおいて必ず勝利する事を示すのだ」
・・・言いたいことは分かるんだが、今もギャーギャー騒いでいる三柱を見る限り、とてもそうとは思えないんだが・・・
「・・・まあ、それは理想での話。実際の所、【天凱十二将】の面々はそれぞれに、己の力に絶対なる自信と誇りを持っているのだ。故に他の者を認めるというのが中々・・・」
ため息をつく【戦闘神スサノオ】。なんだろう・・・なんだかこの神様が、部下同士の折り合いが悪くて苦労している上司みたいに思えてきた。・・・神様でも人間関係・・・もとい神様関係で苦労するのね。
「そして、既に気が付いているとは思うが、お前も普段から使用している【勇天の一撃】【俊天の疾走】【全天の属性】は元々、アヤツら【天凱十二将】のスキルなのだ」
・・・だろうな。名前がそのまんまだし、実際にスキルを使ってきたしな。
「そして、これらのスキルは本来、【天凱十二将】それぞれと戦い、勝利することで得られるスキルだったのだ」
「・・・」
・・・俺はこれらのスキルを【スキル獲得券】で取得した。当然【天凱十二将】と戦ってなどいないし、勝利もしていない。
「・・・つまり、手順をすっ飛ばしてスキルを取得してしまったのが問題だと?」
「否。【スキル獲得券】は元々神々が用意した物。故にそれを使う事に何の支障があろうか」
・・・ここで新情報!【スキル獲得券】は神々が作った物だった!・・・だからどうした、と言われればそれまでだが。
「だが、今言ったように【天凱十二将】は、それぞれに己の力に絶対なる自信と誇りを持っている。故に・・・」
・・・故に自分たちの力・・・スキルを勝手に使っている俺が認められないってことか・・・
「そういうことよ!!」
声のした方を振り返ると今まで喧嘩していた三柱がこちらに向かってきていた。
「・・・敵を前にしておしゃべりなんて余裕だね」
・・・お前らに言われたくないわ!
「・・・だが、事情は把握しただろう。お前には我らの力を振るうに値するか見せてもらいたい」
・・・確かに事情は分かった。
・・・この戦いは避けて通れない道だと言う事もな。
「・・・良いだろう。俺としても棚ぼたで勝ってきたと思われるのは心外だ」
再び気合を入れなおし、三柱と相対する。
「お前達を倒して、俺の力を証明してやる」
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