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二人は・・・

やや緊張気味に俺は二人を見る。


すると二人はなにやらごそごそと何かを取り出し・・・俺に向けた。


思わず身構える俺。


パアアアアン!!


「大正解~~!」


「おめでとうございます」


・・・パーティークラッカーだった。紐を引くと大きな音と一緒に紙ふぶきみたいなのが出てくるヤツ。・・・お前ら、ここがどこだか忘れてないか?


「いや~、まさか当てられるとは思わなかったわ!」


「用意したクラッカーが無駄にならずに済みましたね」


・・・お前ら、俺が珍しく真面目に話してるのに・・・なんでそんなにお気楽なんだ?・・・俺が深刻に受け止めないように、という気遣いだと信じたい。


「・・・俺の考えは当たっていたってことか?」


頭や服についた紙ふぶきを掃いながら聞く。なお、紙ふぶきは地面につくと同時にフッと消えてしまった。・・・散らかったりしない便利グッズらしい。さすがゲーム世界。


「ええ、合ってる・・・はずよ」


「・・・なんだ、その奥歯の銀歯が取れそうな言い方は」


「・・・なんですか? その表現は・・・」


微妙に歯切れが悪いってことだ。


「そう言われてもね~。確かに私達は世間一般で言う所の二重人格者だってお医者さんにも言われてるけど・・・私達には実感がないのよね~」


・・・実感が無い? どういうことだ?


「えーっと、私とアテナはこのゲームの中でしかお互いの事を知らないんですよ。現実では・・・周囲の人は私達の人格が入れ替わっていると言っているのですが、私には普通に寝て起きての記憶しかないんですよ。アテナの方も同じだそうです」


・・・つまりアルマの人格が寝ている状態の時はアテナの人格が起きていて、アテナの人格が寝ている時はアルマの人格が起きている。同時に起きている事が無いからお互いの存在を認識できないってことか?


「勿論、おかしいと思ったことはあったわよ? 知らない間に物が動いていたり、着てる服が変わってたり、食べ物や飲み物が変わっていたり、ね。でも周りに注意されるまで、気のせいぐらいにしか思わなかったわ」


・・・ふーむ。俺は精神科医でも何でもないから分からないが二重人格ってそういうものなのか? お話なんかだとまったく気づいてない事が多いけど・・・


「それで、大分昔ですけど確認の意味も含めて精神をフルダイブさせるこのゲームを試してみた結果、ご覧の有様というわけです。私達がαテスターに参加していた理由も実はそれなんですよ」


・・・結果、別々の精神を持つキャラが出来た事で二重人格が証明されたって言う事か。・・・そういう意味では恐ろしいゲームだ。・・・いや、逆に頼もしいって言えるのか? 確かこのゲームは医療面でも期待されているって話を聞いた事があるし。少なくとも目の前のアテナやアルマには問題があるようには見えない。


「・・・記憶の方はどうなんだ? お前達の精神は独立してるんだろ? アテナが知ってることをアルマは知らなかったみたいだし。別々に記憶を持っているのなら学校の記憶とか、親や友達と遊んだ記憶とか齟齬が出るんじゃないか?」


例えばアルマの人格の状態で登校して授業を受けていたとしよう。その途中で何かの理由でアテナの人格に変わってしまったら、アテナからすれば知らない内に学校で授業を受けている、ということになる。


「うーん・・・実はその当たりは曖昧なのよねぇ。確かにアルクの言うとおり色々食い違う所が出てくるはずなんだけど・・・」


「お医者さんの話では意識的な部分は切り離されていても、無意識下では記憶を共有しているんじゃないか、だそうです。だから私もアテナも一般教養や常識は等しく身につけていますし、授業を受けた記憶は私にもありますし、同じ記憶がアテナにもあるようです」


・・・無意識下で生きる為に必要な知識は共有するようにしているってことか?・・・人間の精神って不思議だな。


「・・・ふむ。まあ、二人に問題が無いなら良いや。医者でもない俺があーだこーだ口出しする事は出来んしな」


これは俺の本心。二人が深刻に悩んでいるようなら俺も真剣に相談に乗ろうと思っていたが、どうも二人からはそんな悲観的な感じがしない。二人が純粋にこのゲームを楽しめているのなら俺があれこれ聞くのは無粋という物だ。


「・・・あら? 肝心な事は聞かないの?」


「・・・肝心な事?」


「どうして私たちが二重人格になったのか、ということですよ」


・・・また聞きにくいことを。二重人格・・・解離性同一障害とも呼ばれるそれは大きな精神的苦痛や重度のストレスが原因でなるものとされている。つまり、二人(一人?)は過去に大きな心の傷を負った可能性があるという事だ。


・・・本人たちからふってくれたことに感謝すべきなのか?


「ま、聞かれても答えられないんだけどね」


「・・・答えられない?」


どういうことだ?


「・・・実は私たち、過去の記憶が無いんですよ。10歳くらいからの記憶はあるんですがそれ以前の記憶がまったく。周囲の人の話では既にその頃から今のような状況だったようなので、私たちが二重人格になったのはそれ以前の事なのは間違いないのですが・・・」


「原因が不明なのよねぇ。事件や事故に巻き込まれたわけでもない。誰かからの虐待・・・も受けていないと思うわ。私達の体には傷跡もないし・・・私達の性格が歪んでいるって事もないと思うわ」


・・・それで二人には悲観的な影が無かったのか。まあ、正直今を楽しき生きれているのなら無理して過去の記憶を取り戻す事はないと思うが・・・


「ま、そんなわけで特に今は気楽にこのゲームを楽しんでるってわけ」


「このゲームのおかげで、お互いの存在を意識できましたからね。リアルでは無理ですが、ここでなら意思疎通もできますし、相談も出来ますから・・・もしかしたら、その内記憶も戻るかもしれませんね」


・・・笑顔だ。二人とも。


一般ピーポーな俺としては割りと深刻な話だと思ったが、二人は普通に、自然に笑っている。・・・いや、むしろ肩の荷が下りたように爽やかな笑顔だ。内容が内容だけに話しにくいし、黙ったままでいるのは案外ストレスだったのかもしれない。


・・・で、あるのなら俺に出来るのは二人と一緒にこのゲームを楽しむ事くらいだな。・・・要するに今までどおり、って事だが・・・二重人格、過去の記憶がない・・・どこぞの主人公みたいだな。







・・・実は、今この場でこの話を始めた理由はもう一つある。


理由というより、思い付きだな。


先ほどまで読んでいた『悪意ある天災』でふと思いついた。


平行する世界、あたりの記述で。


あまりにも荒唐無稽で、常識外れで、ありえない考えを。


・・・だが、それこそありえない。


彼女たちはちゃんと体があって生きている一人(?)の人間だ。


なので俺は首を振ってその考えを捨て去る。


・・・今は目の前の問題だ。


「・・・まあ、色々分かって何よりだが・・・新たな問題ができたな」


「「問題?」」


・・・どうやら二人は気づいていないようだ。


俺は二人から視線を逸らす。


その俺の視線を二人も追う。


そう、俺たちのテーブルの直ぐ傍に立っている人物に向かって。


「・・・本館ではお静かにと申したはずですが?」


そこには無表情のミミングさんが。


「「「ごめんなさい!!」」」


・・・なぜ俺が謝らなければいけないのか、と思ったが元々俺が始めた話だったので一緒に謝る事にする。


・・・だってミミングさんが怖いんだもん。

作者のやる気とテンションを上げる為に


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― 新着の感想 ―
[一言] 二重人格関連は初期から予想はできていた…けど、完全に平行世界関係あるフラグが立っちゃったよ…しかもこの二人のことに関して
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