アテナとアルマ
残っていたお茶を一気に飲む。・・・結構な時間が経っているはずなのに何故か適温なのはゲーム世界故か。
「・・・さっきミミングさんは開示できる神様関係の本は無いって言ってなかったっけ?」
「・・・【ガティアス】関係の本でしょ? 神様が出てくる話っていうだけで」
・・・なんか微妙に騙された気分。
【ガティアス】についても色々分かったが・・・歴史っぽいのが分かっただけで詳しくは分からないんだよなぁ。弱点とか正体とか・・・下級種、中級種、上級種ってのがあるらしいってのはわかったが。多分俺たちが戦った事があるのは下級種だけだろう。・・・それ以上が想像つかん。
にしてもここで新しい神様か・・・
【知識神オモイカネ】・・・オモイカネというのは日本神話に出てくる神様だ。確か知恵と学問の神様・・・だったかな。このゲームでは知識神というらしい。
なんにせよ新たに判明したことがあったが、謎は謎のまま、だな。・・・むしろ謎が深まったような気がする。
「・・・まるでリドルストーリーですね」
リドルストーリーとは話の中で明確な回答がないまま終わってしまうお話のことだ。要するに謎は謎のまま残ってしまうということだ。リドルとは謎かけ、という意味らしい。
確かにアルマが言うように【精霊図書館】の本は明確な回答が書かれている本は少ない。
どうも抽象的というか遠まわしの説明というか第三者視点での解説というか、そういう記述の本ばっかりだ。ゲーム的に言えば、冒険のヒントって事なんだろうが・・・
「・・・ここで悩んでも仕方が無いな。【ガティアス】に関しては今すぐどうこうって事でもないだろうしな。・・・おまけに【神仏界】は人・・・プレイヤーを助ける為の特別な世界って分かったのは朗報じゃないか?」
・・・だから多分、【神仏界】に行っても悪い事にはならない・・・だろう・・・多分・・・いや、きっと。
「そうね・・・この情報、皆に伝える?」
アテナが聞いてくるが・・・どうだろう、結構衝撃的な内容だと思うんだが・・・だが有益な内容か、と言われれば微妙な所だ。
「・・・とりあえず【精霊図書館】の2階への行き方は話そう。俺たち以外にも条件は満たしてるはずだし。そこからは自己判断で。ラングには・・・俺が話そう」
ラングやガットはこのことを知ってるのだろうか? まあ、知っていたとしても冒険に有利になるかどうかは分からんが・・・それとなく聞いてみよう。
「わかりました。それでは他の・・・」
「ああ、ちょっと待て、アルマ。アテナも・・・」
「?」「?」
リドル・・・謎かけで思い出した。
この場には俺たち以外にもいないみたいだから丁度良い。
「突然だが、この際だから聞いておきたい。アテナ、お前が前に言っていた話だ」
以前、アテナと探索に行ったときに、アテナとアルマがαテスターであることなどを色々聞いた。その時に出た話だ。
「アテナ、アルマ。お前らはそっくりな容姿のクセに姉妹でもなければ従兄弟でもはとこでもない。他人でもなければ親子でもないと言っていたな」
ついでに他人の空似では無いとも言っていた。・・・正直、他人だって言われても信じられないくらいそっくりだ。髪と瞳の色が同じだったら見分けがつかないと思う。
「・・・確かに言ったわね」
「・・・そんな事を言っていたのですか? アテナ?」
やれやれと言った感じ肩をすくめるアルマ。・・・あれ? アルマはアテナから聞いてなかったのか?・・・まあ、いい。
「あれからごくたまーにふわぁーっと思い出しては考えていたんだ」
「ごくたまに、なのね」
「ふわぁーっと、なんですね」
ジト目で見てくる二人。ま、まあ、それは良いじゃないか。
「・・・ゴホン! まあ、俺としても色々考えてみたから答え合わせをしてみたい」
「・・・へぇ、面白いじゃない」
「是非、聞かせてください」
・・・二人とも何故か楽しそうだ。俺、今から君達の秘密を解き明かそうとしてるんだが?・・・秘密って言うほど大げさな物なのか知らんが。
「・・・まず考えたのはお前達が実はNPCじゃないかって事だな」
「いきなりひどっ!!」
「つまり私達が人間では無いと?」
一転して怒り顔の二人である。
「まあ、そう怒るな。あくまで考えただけだ。・・・お前達にアニメネタとかゲームネタとかをふってもちゃんと直ぐに返してきてたし、アニソンを歌うように言った時も淀みなく歌ってたしな」
「・・・ごくたまにとか言ってたくせにちょくちょく探りを入れていたのね・・・」
アテナが若干呆れ顔だが・・・俺を舐めたらいかんぜよ。
ラグマリアやカイザーは話が出来る【眷族】・・・AIで、ちゃんと教えればネタにも答えてくれるし、アニソンも歌える。ただし、ちゃんと教えれば、だ。当然教えていない事は知りようも無い。
上等なAIならネット検索とかで簡単に情報を拾えるだろう。しかし、その情報を元に淀みなく返事をすることができるだろうか? 一応、不意打ち気味にネタをふってみても違和感無く答えていたし、これまで見せてきた二人の感情や表情・・・笑いや驚き、セクハラ発言への怒りetc、etc・・・諸々の結果、NPCではないだろう、と判断した。
・・・そうすると俺の心がちょくちょく読まれている理由が分からないのだが・・・
「・・・別に心を読めるわけではありませんよ? 単にアルクさんは顔に出やすいだけです」
・・・え? マジで?・・・明日から仮面でもつけようかな・・・
「似合わないから止めておきなさい」
・・・本当に俺の心を読んでるんじゃないよね? ね? 本当だよね?
「・・・ま、まあそんなわけでNPCでは無いとなると後は何があるだろうか、と。・・・で外見を弄ったわけでもなくそっくりなお前達が姉妹でも親子でもなく、かといって他人でもない関係とは何か・・・俺が出した結論としては・・・」
ごくり。
誰かの喉が鳴った。・・・いや、それは知らず知らずのうちに俺が鳴らしたのかもしれない。
「・・・同一人物、だ」
「・・・!?」「・・・」
アテナは驚き、アルマは静かに俺を見ている。
「・・・最初は一人で二人分のアカウントを取得して使っているのかと思った。しかし、このゲームはプレイヤーの精神をフルダイブさせるゲームだ。コントローラを二つ用意して、とかいうゲームじゃない。仮にアカウントを複数取得できたとしても、それらを同時に使用することは不可能だ」
だから、この考えも最初は否定的だった。しかし・・・
「・・・そう、精神が二つでもない限りは・・・な」
「・・・」「・・・」
二人からの返事は無い。しかし、俺は話を進める。
「・・・俺には科学的なことや医学的なことは分からない。だが、ふと思ったことがある。・・・もし二重人格者がこのゲームをプレイしたらどうなるのだろう、ってな」
そこまで考えた時に俺は思った。精神っていう言葉がいかに曖昧なのかって事を。仮に別人格が存在したとしてそれをもう一つの精神、と呼べるのかどうか。俺にはわからない。確認する方法も無い。精神なんてものは目に見えないからだ。理屈ではどうこう言えるだろうがそれを証明できるかどうかは別問題だ。
故に俺の考えはあくまで考えであって証拠も何も無い。根拠は色々挙げたがはっきり言って証拠としては脆弱だ。これは・・・そう、理屈ではなく、俺がそう感じた、というだけの話だ。少なくともアテナもアルマも俺に嘘は言っていない。騙すような仕草も無い。俺がそう感じたなら、正直、それで十分なのである。
・・・この答え合わせははっきり言って惰性だ。答えが合っていようが間違っていようが、例え答えが無かろうが昨日までと何も変わらないのだから。
しかし、曖昧なままというのもどうかと思った。人は知らず知らずのうちに人を傷付ける。例え本人が意識していなくとも、本人が言葉にしなくとも、だ。
知らない事は罪じゃないかも知れない。
だが知ろうとしないのは本人の問題だ。
知るか知らないか、選択権が俺にあるのなら、知らないままでいるより、知って、話して、理解している方がより良い関係が築ける。
少なくとも俺はそう信じる。
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