2階へ
アーテルたちの面倒を見ているカイザーに一言断りを入れて【精霊図書館】の外へと向かう。
幸いアーテルたちは絵本に夢中のようだ。ちなみに読んでいた絵本は『ジャー君と豆の精霊』・・・ジャー君って誰やねん。・・・相変らず内容は気になるが、今は一旦外へ出て【精霊図書館】の裏側へとまわりこむ。
「・・・道細いな。【精霊図書館】自体、でかい建物だから余計にそう感じる。これはパッと見じゃあ気づきもしないな」
「そうですね。おまけに隣接している【世界樹】周辺の森は、中に入ってしまうと【ガーディアン】に排除されるのでしょう? 森の上空を飛ぶのも皆避けるでしょうし、よほど注意深く見ないと外からでは見つからないでしょう」
幅は1メートルほどで微妙に歩きにくい。一歩踏み外したら森に入り込んでしまうしな。・・・今、緊急クエストで出てきたような【ガーディアン】が出てきたら勝てる気がしないから勘弁して欲しい。
「・・・お、やっぱり階段だ。木でできた階段。・・・2階に上がれそうだ」
下から見た感じだが、階段の先に扉がある。あそこから【精霊図書館】の内部・・・2階に入れそうだ。
「・・・道もそうだったけど、階段も狭いわね。非常階段みたい」
・・・俺も同意見なのだが、他に階段が無い以上、非常用ではなく常用の階段・・・のはずなんだがなぁ・・・それとも他にルートがあるのだろうか?
とはいえ今更引き返すわけにもいかない。
俺が知りたかった情報・・・【神仏界】あるいは神様の情報は1階にはなかった。本を読んでいるうちに【ガティアス】についての情報もないかと思って探してみたが、やはりこれも無かった。
となるとやはり2階より上の階に期待するしかないだろう。・・・というわけで扉の前まで来た。ちなみに扉も普通に木製の扉だ。
「・・・じゃあ、開けるぞ?」
「ええ」
「はい」
二人の了承を得た所で用心しながら扉を開ける。・・・いきなりこんな所で戦闘にはなって欲しくは無いのだが・・・ビビッていてもしょうがないので俺たちは中へと足を進めた。
扉の先・・・中は多少薄暗かったがまるで見えないというほどでもない。暗すぎず明るすぎず、本を読むのに最適な光量になるよう調整されているようだ。
中は中々広い空間のようだ。しかし、1階では所狭しと並んでいた本棚がこの場所には無い。というか本らしきものが見当たらない。あるのは・・・テーブルとイス? くらいだ。
そしてもう一つ・・・もといもう一人。
「ようこそ、おいでくださいました」
・・・そこには1階にいたはずのミミングさんがいた。
「・・・ほわい?」
何故? 単純な疑問である。
「あら。私は本図書館の司書ですよ? 館内のどこにいても不思議ではないと思いますが?」
・・・言っていることは間違いじゃないとは思うが、疑問に思っているのはそこじゃない。少なくとも俺たちが【精霊図書館】から外に出るまでは1階にいたはずだが・・・いつの間に先回りしたんだ?
「・・・フフフ、疑問に思われるのもご無理はありませんが、まずはテーブルへどうぞ」
・・・疑問は尽きないが、まずはテーブルにつくよう言われたので案内された席に着く。・・・と同時にミミングさんがどこからか持ってきたティーカップにお茶を注いで渡してくれる。
「・・・喫茶店?」
「・・・のように感じますね」
うーん、どうも図書館に来たって感じじゃなくなってるよな。この人も極自然にお茶入れだしたし・・・司書さんっていうよりメイドさん?・・・何しに来たんだっけ? 俺たち?
・・・あ、お茶おいしい。
「・・・落ち着かれた所でご説明しましょう。この【精霊図書館】の2階には条件を満たされた方が訪れる事ができます。2階には司書がお連れする事になっていて、本図書館の司書は館内であればどの場所にも自由に【転移】する事が出来るのでお声がけ下さればいつでもご案内差し上げます」
・・・2階に上がるには何らかの条件があるって言うのは前にも聞いたな。階段が無かったのは司書さんが連れて行くから必要なかったわけか。【転移】・・・つまり瞬間移動が出来るのなら確かに先回りもできるわな。・・・って待てよ?
「なら、今俺たちが通ってきた道は?・・・俺たちは条件を満たした事になるのか?」
「ご心配には及びません。皆様が通られた道はいわゆる裏道ではありますが、そちらを通った場合でも条件は満たされた事になります。どのみち、私は皆様の前に現れた時点で既に条件を満たしているので、2階に上がるルートが異なるだけで結果は変わりません」
・・・ふぅ、良かった。って裏道だったんかい、あの道。
「・・・なんだか暗号解いて浮かれていたのが恥ずかしくなってきたわね」
「・・・ですね。正規なルートがあったのに裏道で来てしまったなんて・・・」
微妙な顔をする二人。正直俺も同じ気分だけどな。
「いえ、お気に病む事はありません。裏道とは言いましたが、あの道は条件を満たしていない方が2階に上がるための特別な道でもあります・・・自力で見つけた、という点においては誇るべき事だと思いますよ?」
・・・そう言われるとちょっとは頑張ったかいがあったな。・・・別に難しい暗号でもなかったし。
「・・・さっきから言っているが2階に上がるための条件っていうのは?」
「2階以上でしか知りえない情報を自力で取得した方のみ、司書の方から出向く事になっています」
・・・つまり、ゲームをある程度進めて何かしらの重要情報を入手すれば2階に上がれるってことか。さっきミミングさんが俺たちの前に現れたのは俺たちが何らかの情報を入手したから・・・ということはさっきミミングさんに会ったときに2階に上がりたいって言えば上がれたって事か?・・・やっぱ微妙だったな、裏道。
「・・・私たちが満たしたっていう条件ってなに?」
「皆様の場合は・・・【緊急クエスト】、【クランクエスト】、【ユニーク眷属】の情報の取得、などなど合わせて5種類以上の重要情報を取得され、条件をクリアされました」
・・・これまでしてきた苦労がここで役に立ったのか・・・色んな事に巻き込まれてきたが無駄じゃなかったな。ありがとう! トラブルの神様!!
「・・・これもアルクのおかげね」
「ええ、アルクさんのおかげですね」
・・・俺のおかげ=俺のせい、って思ってしまうのは被害妄想だろうか?
「・・・それでは2階ではどのように本を探すのですか? 見たところ本棚のような物はないようですが」
「2階では私たち司書に申し付けてもらえれば、ご希望の本をご用意します。現在の段階で読む事が出来ない場合は、そのように申し上げますので、皆様が探す手間が省けるかと」
・・・この人、本当に司書さんなのか? 心配りがメイドさんっぽく感じる。・・・いや、お客さんの目当ての本を探すのも司書さんの仕事なのかも知れないけどな。
「じゃあ、さっそくだけど神様関係の本か【ガティアス】に関する本は無いか?」
もったいぶってもしょうがないので本題に入る。
「・・・申し訳ありません。皆様はまだ【神仏界】を訪れていないようなので、現時点で開示できる神様関係の本はございません」
・・・ああ、やっぱりそうか・・・事前知識はここでは手に入りそうも無いな。
「【ガティアス】に関する本でしたら・・・こちらをお読みになってください」
そういってミミングさんは一冊の本を俺たちに見せる。・・・今、どっからこの本出したの?
・・・本のタイトルは『悪意ある天災』。
・・・嫌なタイトルだ。
作者のやる気とテンションを上げる為に
是非、評価をポチっとお願いします。
m(_ _)m




