魔法と魔術
興奮していた俺(と巻き込まれたアテナとアルマ)を止めたのは案の定・・・
「・・・【ドライアド】?」
「はい、この【精霊図書館】の司書の一人であるミミングと申します」
緑の髪にメガネをかけ、司書さんっぽい服を着ていて、いかにも司書さんっぽいな・・・それにしても・・・ミミング、ね
「・・・騒がしくして申し訳ありません、ミミングさん」
図書館のマナーを破った以上、潔く謝罪する潔い俺。
「いえいえ、お静かにしてもらえるのなら、問題はありません・・・そこまで熱心にここの本をお読みになってくださるのなら私たちとしても嬉しい限りです」
ミミングさんは柔和な微笑みでそう、俺たちをたしなめた。・・・どうやら悪い人・・・もとい【精霊】ではないようだ。
「・・・迷惑ついでに一つお聞きしたいのですが、この『クランメカロイド開発記録』という本の下巻はどこにあるのでしょうか?」
俺は手に持っていた本を見せながら尋ねる。
「・・・申し訳ありません、その本は随分前に寄贈された物なのですが・・・寄贈されたのは上巻だけでして・・・下巻はこの図書館にはないんですよ・・・」
・・・むぅ・・・もしかしたら上の階にあるとかいう話だと思ったが、そもそもここには無いのか・・・残念。
「ちなみにその本は冒険者エルクスという方が【機甲界】で手に入れた物とおっしゃっていました・・・もしかしたら、【機甲界】のどこかにあるのかもしれません」
・・・え? これ、なんかのフラグか? そしてまた出てきたよ、冒険者エルクス・・・大活躍ですね。
・・・いや、待てよ? 冒険者エルクスって確か100年くらい前の人物じゃなかったっけ?・・・ということはこのミミングさんって最低でも百さ「なにか?」・・・
「いえ、なんでもありません」
俺とした事が女性の年齢を詮索してしまうとは・・・反省。・・・決してミミングさんの鋭い眼光にびびったわけではない。
「・・・そうですか、それではまた何か聞きたいことがありましたら、お声がけください」
そう言うとミミングさんは頭を下げ、立ち去ろうとした。・・・あ、そういえば。
「ミミングさん、2階に行くにはどうすれば良いんですか?」
俺がそう聞くと、ミミングさんは立ち止まり、にこっと笑いかけて、そのまま行ってしまった。
「・・・え? 無視?」
聞きたいことがあれば声をかけろって言ったくせに。
「・・・自分で探せっていうことかしら?」
「声をかけろ、とは言ってましたが、ちゃんと答える、とは言ってませんでしたからね」
・・・あの人、本当に司書なのか?
「それにしても不思議な人・・・いえ、【精霊】でしたね」
「ああ、それに名前・・・」
「名前?」
「たしかミミングって北欧神話にでてくる賢者の神ミーミルの別名・・・じゃなかったかと思ってな・・・【神気】は感じなかったし、全然関係ないのかもしれんが」
見た感じ俺たちに何かしようって感じじゃなかったし、俺の問いかけは華麗にスルーされたし・・深く考える事は無いのかもしれん。
「まあ、そう警戒する事はないんじゃない? アーテルちゃんたちだって無反応だったしね」
そういえばアーテルは神様が嫌い、というか警戒していたな。そのアーテルが何の反応も無く、カイザーに絵本をせがんでいるから、やっぱり俺の思い過ごしか。
「それはそれとして、そんなに続きが気になる内容だったのですか?」
「ああ、読んでみれば分かると思うぞ」
そう言って手に持っていた本をアルマに渡す。あとでアヴァンにも教えてやらないとな。
「・・・そういえばそっちは何か気になる本はあったか?」
「ええ・・・これよ!」
そう言ってアテナが持っていた本を手渡される。
タイトルは『魔法と魔術』。
・・・魔法スキルは分かるが魔術スキルは知らないな。確かに気になる。
というわけで早速本を開く。
『魔法とは魔力を使い引き起こされた現象のことを指す。
例えば火を作り出し、水を作り出し、風を作り出し、土を生み出し、光を生み出し、闇を生み出す。
言うなれば自然現象を人工的に生み出す方法と言える。
では魔術とは何か。
それは魔法を使った技術である。
例えば光の魔法と闇の魔法を組み合わせると幻術という魔術を作り出すことができる。
風の魔法と雷の魔法を組み合わせることで嵐魔術を作り出すことができる。
つまり、魔法と魔法を組み合わせて新たな現象を組み合わせるすべのことをさす』
ふむ、魔法と魔法の組み合わせで出来るのを魔術、か。なるほど。・・・なんか科学にも通じるような気がするな。火の魔法と水の魔法を組み合わせて水蒸気の魔術!なんてこともできるのだろうか。・・・水蒸気の魔術ってどういう使い道があるのか知らんが。
『魔法は魔力を持つ人間であればだれでも使うことができる。
無論、扱う人間によって使用できる魔法の属性や強さは異なる。
世の中には希少な魔法や強大な魔法も存在するが、そのような魔法を使える人間は一握りである。
そこで人間は魔術という新たな術を作り出した。
一つ一つは弱い効果しかない魔法でも組み合わせることで強大な魔術としての効果を期待できるようになる。
強大で強力な魔法を使う魔法士と、魔法の威力こそ低いものの組み合わせることで強力な魔術を使える魔術師。
魔法界を例に挙げれば単体で強力な魔法を使うことができる種族を魔族。
対して魔法は弱いものの魔族に対抗する為に作り出された魔術を作り出す人間。
敵対関係にある両者は長い歴史の中で戦い、競いながら進化し続けてきた。
それ故に魔法と魔術、その二つの力に特化したのが魔法界とも言える』
「・・・ふむ。つまり人間の俺が魔族のアルマに対抗しようとすれば【魔法】ではなく【魔術】で対抗した方が良いってことか」
といっても何度か【魔法界】には行ったが【魔術】なんてスキルは見たこと無いがな。多分、【魔法世界】のさらに先・・・魔族の国と人間の国に別れるらしい・・・の人間側の国にあるんだろうなぁ。
「【魔法】と【魔術】のどちらが良いかは一長一短らしいわね。先を読んでみればわかるわ」
アテナに先を促されたので読み進める。
『魔法の欠点は使う者の資質に大きく左右されることである。
対して魔術の欠点はどうか。
まず挙げられるのは魔術の使用には複数の属性が必要である点だ。
一人で多種多様な属性を持つ者は少ない。
また、種類が増えれば増えるほど消耗も激しくなる。
つまり強力な魔術を使用しようとすれば一人では限界があるということだ。
そこで人間たちは魔術を複数人で使用する方法を編み出した。
大魔術とも呼ばれるそれは人数が増えれば増えるほど威力が増すという恐ろしい魔術である。
一人一人では魔族に対抗できなくとも多数の人間の力を合わせれば魔族に対抗できるということだ。
逆に魔族はそんな人間たちに対抗する為、より強大な魔法を次々と作り出していった。
中には世界を崩壊させかねないと禁忌に指定されるほどの魔法まで作り出した。
魔法と魔術。
二つの力は起源を同じとしながらも争いの力として発展していった』
「・・・なるほどな。【魔術】は複数人で使うことができるのか。力を合わせるというのは人間らしいが・・・逆に言えば一人で使うには厳しいのか?」
「それはどんな【魔術】を使うのかにもよるんじゃない? 私もまだ【魔術】を知らないからなんとも言えないけど・・・」
「・・・ふむ。あとは【大魔術】に・・・【禁忌魔法】か」
「・・・【禁忌魔法】のくだりを見てアルマが興奮していたわ」
「・・・」
・・・【禁忌魔法】を覚える気か?・・・世界を崩壊させかねないって書いてあるんだが?
「どうしました?二人とも」
「ひゃい!?」
「おう、アルマ・・・何でもないんだ。・・・なんでもな」
首をかしげるアルマだが・・・怖くて確認できません。
「ど、どうだった、アルマ? その本は?」
話を逸らすように聞く俺。
「中々興味深い内容でしたね。アヴァン君が好きそうです。・・・それだけに確かに下巻がないのが残念です」
それは俺もそうだ。・・・【インフォガルド】でも聞いてみようかな。
「・・・そうそう、アルクさん。本では無いんですが気になることがあるんですが?」
「・・・うん? 気になること? 本じゃなくて?」
「ええ、あれです」
アルマが指さしたのは・・・案内板? 人間界のコーナーの場所とかが書かれている物だ。
俺たちは持っていた本を元の本棚に戻して案内版の前に立つ。
「・・・どこかおかしい所があるか? 見た感じおかしな表記があるように見えないが・・・」
・・・実はどこかに隠し部屋があるとか? 階段が見当たらない以上、その可能性は否定できないが少なくともこの案内板からは判断できないと思うが・・・
「載っている内容ではありません。・・・気になるのはこれです」
「ん?」
アルマが指さしたのは案内板の・・・端っこに書かれている文字だった。
書かれている文字は・・・
456n¥
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