天龍馬の秘密
『天馬と魔龍』
これは間違いなくアーテルの事だ。正確にはアーテルが誕生する原因といった所か。
元々、俺がアーテルを【眷属】にしたのは【幻獣界】のレアモンエリア(レアモンスターエリア)だった。偶然辿りついたその場所で、魔龍ゾンビと対峙し、アーニャが【眷属】にした結果、【黒龍】のノワールとなった。その場所の更に先にいたのが魔龍の力を取り込んだ天馬であり、そいつを俺が【眷属】にした結果、生まれたのが【天龍馬】のアーテルだった。
当時はああ、そういう設定なんだ、で納得したが、【精霊図書館】では各世界の歴史が記録されているのを知り、もしかしたら、と思い探してみたらビンゴだった。
・・・まあ、知ったからどうなんだっていうのもあるが。・・・当のアーテルは絵本を読んで笑ってるし。・・・まあ、単純に純粋にただの興味本位だ。
では早速本を読んでいこう。
『幻獣界は幻獣、またはモンスターと呼ばれる生物たちの世界である。
その世界ではエリアと呼ばれる島ごとに種族や種類が分けられ、バランスが保たれている。
この世界のモンスターたちは自分が所属するエリアから出ることは無い。
なぜなら各エリアは環境も異なれば存在するモンスターの強さも異なる。厳しい環境のエリア、自分より遥かに強いモンスターの住むエリアに移動した場合、待ち受けているのは死のみである。
また、強いモンスターが弱いモンスターのいるエリアに移動する事も無い。なぜならば、各エリアに住むモンスターの主食となる食物やモンスターは、そのエリアにしか存在しない。どれほど強いモンスターであろうと食べ物が無ければ生きていくことはできないのだ。故にどれほど強いモンスターであろうと、自分のエリアから離れる事は無いのである。
幻獣界は強力なモンスターが多数存在する世界ながらもバランスの取れた世界でもあるのだ。
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幻獣界はより奥のエリアに進めば進むほどより強力なモンスターたちの暮らすエリアとなる。
強力なモンスターとしてあげられるのは、やはりドラゴンだ。
黒きドラゴン、白きドラゴン、赤きドラゴン、青きドラゴンなど、様々な種族が存在する。
そして、それぞれの種族には最も強きドラゴンの王・・・竜王が存在する。
竜王の力は強大である。
もしも竜王と竜王がぶつかれば、そのエリアは消滅すると言わしめるほどである。
もしも全ての竜王が争う事になれば幻獣界は滅ぶと言わしめるほどである。
だからこそ、竜王たちは互いに領地となるエリアを定め、他の竜王とは不干渉を貫く事を決めた。そして全ての種族のドラゴンが竜王に従い、領地となるエリアで暮らしているのだ』
・・・軽く読み始めたら思わぬ大物情報が飛び出てしまったような気がする。
・・・そうか・・・ドラゴンたちが暮らすエリアがあるのか。そしてそこには竜王がいる、と。アーニャが喜びそうだ・・・喜ぶかな?
『そんなドラゴンたちが暮らすエリアの一つに黒竜王と呼ばれる黒きドラゴンの王が治めるエリアがある。多くの黒きドラゴンたちが暮らす場所でもある。
しかし、ある時、あろうことか黒竜王が治めるエリアが侵略を受けた。
ありえざる事に、海を越え黒きドラゴンの王を狙う者が現れたのだ。
それは悪龍。
ガティアスと呼ばれる謎の存在に取り付かれた一体のドラゴンであった』
「・・・なに?」
また【ガティアス】だと?
『悪龍の力は強大であり、次々と黒きドラゴンたちは倒されていった。
そしてとうとう黒竜王と対峙した。
幾日にも及ぶ死闘の末・・・黒竜王は敗れた。
悪龍は敗れた黒竜王に呪いをかけた。
己のしもべと化し、魔へと堕ちる呪いを・・・
黒竜王は魔龍へとその姿を変えられてしまった。
魔龍を従えた悪龍は魔龍に命じた。
全ての黒きドラゴンを支配せよ、と。
魔龍は全ての黒きドラゴンたちに術をかけ、傀儡としてしまった。
こうして黒きドラゴンたちの領域は悪龍の手に堕ちてしまった』
・・・なんてこった。俺たちが倒したあの魔龍にそんな過去があったとは。
『黒きドラゴンの領域を手中に収めた悪龍の次の標的は白きドラゴンの王、白竜王だった。
悪龍は魔龍と黒きドラゴンたちを率いて白きドラゴンたちの領域へと攻め入った。
白きドラゴンと黒きドラゴンの激しい戦いが始まった。
そんな戦いのなかで白竜王は悩んだ。
黒竜王は白竜王の盟友であったのだ。
白竜王は黒竜王を救うべく、魔龍と戦った。
しかし、白竜王の声は魔龍には届かなかった。
そして悪龍の力に囚われた魔龍の力は白竜王のそれを上回っていた。
このままでは白竜王までも悪龍の手中に落ちるのは明白だった。
しかし、そこに現れたのは白竜王のもう一体の盟友、白き天馬だった。
白き天馬は悪龍の侵略を察知し、他の竜王たちを引き連れ白竜王の応援にやって来たのだ。
ここに幻獣界の歴史の中で唯一、全ての竜王が集った一戦が始まったのだった』
「・・・」
・・・なんかとんでもない展開になってきた気がする。
『さしもの悪龍と魔龍も、全ての竜王を前にしては、その力、及ぶべくも無かった。
しかし、そんな中でも白竜王は悩んでいた。
このままでは悪龍もろとも魔龍・・・黒竜王を滅してしまう、と。
そして魔龍に操られた黒きドラゴンたちも同様に滅ぼしてしまう、と。
そんな白竜王の心を白き天馬は見抜いた。
白き天馬は言った。
我が身と共に魔龍となった黒竜王を封じろ、と。
長き長き時間をかけ、黒竜王にかけられた魔の呪いを解いてみせる、と。
白竜王は悩み苦しんだ。
その選択は白竜王にとって二人の盟友を失ってしまうことになるからだ。
そんな白竜王に白き天馬は言った。
これは永遠の別れではない、と。
いつか遠い未来、再び手を取り合う事ができるようになる、と。
その希望を残す為に我らは眠りにつくのだ、と。
白竜王は生まれて初めて泣いた。
他の竜王たちも泣いた。
涙を流しながらも、白き天馬に黒竜王を託すことを決めた。
かくして全ての竜王の力を使い、白き天馬と魔龍を深き地の底へと封じ込めたのであった』
・・・まさか、あのレアモンエリアにそんな意味があったとは。
『魔龍を封じ込めた事で、黒きドラゴンたちを操っていた術も解かれた。
正気に戻った黒きドラゴンたちは黒竜王を失ったことを悲しみ、そしてその怒りを悪龍へと向けた。
ここに全てのドラゴンが悪龍を倒す為にその力を合わせる事となった。
悪龍との戦いは熾烈を極めた。
悪龍は魔龍が封印される寸前、その力の大半を奪い取っていたのだ。
より強大となった悪龍の前に何体ものドラゴンが倒れていき、いくつものエリアが壊滅に追いやられた。
しかし、長らく続いた死闘の末に、ようやく悪龍を倒す事ができたのであった。
ドラゴンたちは喜んだ。
そして多くの同胞たちを失ったことを悲しんだ。
そして黒竜王を救わんがために己を犠牲にした白き天馬を称えた。
白竜王は言った。
全ての責は悪龍にある、と。
悪龍に操られていた黒竜王と黒きドラゴンたちに罪は無い、と。
白きドラゴンと黒きドラゴン、そして白き天馬は永劫に友である、と。
こうして幻獣界の危機は去っていった。
ドラゴンたちも元いたエリアへと戻っていった。
しかし、ドラゴンたちは白き天馬と黒竜王を忘れることは無い。
そして今もなお、ドラゴンたちは白き天馬と黒竜王の帰還を待ち続けている』
「・・・」
なんというか・・・予想以上にヘビーな内容だったな。正直、レアモンエリアに辿りつけたのは偶然であり、ラッキー程度にしか思っていなかったが・・・思ったより大事な場所だったのね。
それはそれとして、【黒竜王】がアーニャが【眷属】にしたノワールで、【白き天馬】が俺が【眷属】にしたアーテル、でいいんだよな?・・・思いっきり封印が解かれてしまったような気がするんだが大丈夫なんだろうか?
・・・この話、アーニャにもするべきだろうな。そしていつか【白竜王】とやらの所にノワールとアーテルを連れて行ってやるべきだろう。・・・その結果どうなるか分からんがその方が良い気がする。
それに、既に白いドラゴン・・・ブランとノワールは文字通り兄弟のように仲が良いから、その光景を見たら【白竜王】もきっと喜ぶだろう・・・多分。
・・・ところでこの本の中で【白き天馬】や【白竜王】が普通に喋っているような場面があるんだが・・・もしかしてアーテルたちもその内に・・・?
「・・・まあ、それはいつかのお楽しみだよな・・・ん?」
ペラペラと本のページをめくり、最後のページを開いた。
最後のページは白紙・・・と思ったが端っこの方に小さい文字で何か書いてある。
『白き天馬は悪龍のことを三本足の黒き鳥の神により教えられた』
「・・・」
俺は本を閉じ、もとあった棚に戻した。
「・・・謎は深まるばかり・・・ってか?」
ガシガシと頭をかきながら俺は次の探し物へと向かった。




