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おまけ小話 アルクとラングとガット

いつの間にか200話に到達していました


ものぐさの割りによくここまで続いたもんだ・・・


というわけで200話記念のおまけ話です


何時もより長いです

===ログイン===>【アークガルド】クランホーム


「んん? 俺たちのこと?」


それは長かった【精霊界】の冒険がひと段落し、何時ものように(?)クランホームの庭でどんちゃん騒ぎをしているときだった。


「はいっす! お三人はリアルでも知り合いなんっすよね? 差し支えない程度に教えて欲しいっす!!」


アシュラは俺とラング、ガットのつながりを気にしているらしい。協力こそしているが、凄く親しくしているわけでもなく、かといって敵対しているわけでもなく、微妙な立ち位置でつるんでいるのが不思議なんだそうだ。


ちなみに今日の宴会にもラングとロゼさん、ガットとヴィオレがちゃっかり参加している。一応、アーニャの話では宴会の代金やら食材やらをちゃんと持ってきてくれているらしいので【アークガルド】としての損失は無いらしいが。


しかし、アシュラよ。本人たちを目の前にして堂々と聞いてくるとはなかなか度胸あるな。・・・いや、何も考えず純粋に聞いてきているだけか。


「俺たちのことか・・・よかろう、少しだけ昔話をしてやろう」


美味いものを飲み食いして多少、気が大きくなっていたのだろう、俺の口がそんな事をのたまっていた。


「・・・変な事は言わないでくれよ?」


「・・・下らん事は言うんじゃないぞ?」


・・・ラングとガットの二人から釘を刺された。せっかく俺たちの輝かしい過去を話してやろうとしているのに・・・やれやれだ。


「わかったっつーの。俺たちはな、昔・・・」


そこで俺は一旦言葉を区切る。気が付けばこの場にいる全員が聞き耳を立てていたが、俺は構わず溜めに溜めて言葉を発する。


「・・・一人の女を取り合った仲だ」


「「ぶふぅーーーー!!!」」


俺が言った途端、ラングとガットが飲み物を盛大に噴出しやがった。汚いヤツラだ。


「ちょっと何を言っているんだ! アルク!!・・・う!?」


俺に文句を言ってきたラングの肩に誰かの手が置かれる。


「そうじゃ! 何を下らん事を・・・むぅ!?」


同じく文句を言ってきたガットを止める手が・・・


「・・・へぇ、それは実に興味深いですねぇ・・・」


心まで凍えそうな冷たい声でラングを止めたのはロゼさんだ。


「ああ、アタイも凄く凄く、興味あるねぇ」


同じくガットを止めたのは般若も裸足で逃げ出しそうなオーラを発しているヴィオレだった。・・・どうでも良いがヴィオレよ、手を置くなら頭じゃなく肩にしてやって欲しい。


「おおぉー! まさかの熱い青春ドラマっすか!?」


・・・ハードルを上げるな、アシュラよ。・・・しかし、ここまで熱心にせがまれたなら、俺としても心して話さねばなるまい。・・・決してアテナとアルマが怖い目で俺を見ているからではない。


「・・・あれは中学の一年の頃。俺たちは学校こそ同じだったがクラスは別々で、そもそも接点と言う物が無かった」


「ふむふむっす」


・・・軽やかに喋り始める俺を止めようとしているラングとガットだったがロゼさんとヴィオレに物理的に阻止されていた。・・・邪魔が入らないようなのでこのまま続けよう。


「だがある日、色々あって重傷をおった俺たちは、たまたま同じ病院の同じ病室で入院することになったんだ」


「「「急にバイオレンス展開!?」」」


一部のヤツラが声をそろえて話し始めたが、そこは詳しく話す事はできないので華麗にスルーして話を進める。


「で、その病室っていうのが所謂小児病棟・・・子供がたくさんいる病室だったわけだ」


「普通に話を進めるんですね?」


なにやら聞きたそうにしているアスターだが、俺が話をやめる事は無い。細かい事は気にしてはいけないのだよ、アスター!


「俺たちより幼い子供から少し年上の子供まで、それなりにな。でもみんな普通に笑顔なんだよ。怪我や病気に負けない元気な姿の子供たちを見た当時の俺は、たかが喧嘩で怪我をしたぐらいで入院しているのが恥ずかしくなったもんだ」


「「喧嘩で入院!?」」


おいおい、そこは食いつくところじゃないだろう? 俺は入院してても笑顔を忘れない子供たちの素晴らしさをだな・・・


「確かにあの時は情けない姿だったねぇ」


「うむ、己の小ささを知った瞬間じゃった」


ロゼさんとヴィオレに羽交い締めにされているラングとガットもうんうんと頷いている。ほらな?


「だが、中には病気で塞ぎこみがちの子や、長い入院生活で退屈をもてあまし気味だった子もいてな。そんな子たちを他の子たちが気遣って懸命に励まそうとしている姿に感銘を受けてな。俺たちも一緒に話をしたり遊んだりしていたんだ」


「あの時は、三人とも全身に包帯を巻いていたから、ミイラ三兄弟なんて呼ばれてたねぇ」


「よく病室を抜け出しておったから、そのたびに医者の先生や看護婦に叱られとったのう」


「随分アグレッシブな人たちなのです」


良い子の皆さんは決して真似をしてはいけません。


「とは言っても病院の中だからな。たいしたことは出来なかった。せいぜい、話をしたりおもちゃやアナクロなゲームで遊んだりした程度だ」


「懐かしいねぇ。あの時は大変だった・・・病院を抜け出す為に看護婦さんの巡回ルートを調べ上げたり、秘密の抜け道を探したり・・・」


いつの間にかロゼさんの羽交い締めから抜け出して話に加わるラング。どうやら最後まで話をさせる覚悟を決めたらしい。・・・覚悟が必要か?


「あったあった。どうしても欲しいプラモがあるっていう子供がいて、それを買いに行くために病院を抜け出したんだっけな」


「なぜ、大人たちに買ってくるよう頼まなかったのだ?」


ふ、分かってないなぁアヴァン・・・こういうのは自分で手に入れてこそだろう?・・・すまん、嘘だ。単に思いつかなかっただけ。


「うむ、自分たちの分も買って一緒に組み立てたの・・・あの後、都大会に出して優勝したプラモは今も飾ってあるぞい」


「中学一年の時点でもうお三方の原型というかルーツが出来上がっていますね」


そういえばアルマの言うとおり、あの頃からラングは積極的に情報収集に乗り出したり、ガットは物作りにのめりこむようになったんだったな。人生、どこでどう転ぶか分からないもんだ。


「で、だ。そんな子供たちの中に・・・Aちゃん(仮名)にしようか。俺たちより年下の小学生の女の子がいてな・・・入院生活が長いらしいが、笑顔を忘れない元気でやさしい女の子だったよ」


「・・・え? さっき言ってた、三人が取り合った女って・・・?」


「おっと先走るなアテナ。質疑応答は話の後だ」


アテナを含め、全員が頷いたのを確認し、話を進める。


「その子は、将来、お歌の歌えるアイドルになる!! って公言していてな。よく病院の庭で歌っていたんだ。他の子供たちや入院している大人達も集まってきていて、一種の癒しスポットみたいになっていたんだ」


「それはまたすごいっすね! きっとその子には才能があったんすね!?」


「まあ、そうだったんだろうな。ただ、あくまでそこは病院だったから、所謂、演奏機器なんてものは無くてな。場所が場所だけにCDコンポやネット接続で曲を流すのも難しかった。一応、講堂みたいな所にピアノはあったが引ける人もいなくてな・・・その子はいつもアカペラで歌っていたんだ」


無論、俺たちもなんとか出来ないか考えたが、良い案は出なかった。当時の俺たちだって色々やらかしてはいたが、場所が場所だけに無茶なことは避けていたのだ。・・・まあ、その分、病院の先生や看護婦さんたちには迷惑をかけていたかもしれないが。・・・ごめんなさい。


「なんで数週間後に退院した俺たちは、直ぐに中学の音楽の先生の所に駆け込んで楽器の使い方を教えてもらったんだ」


「また急な展開なのだ」


当時の俺たちは本当にもう単純だったからな。


「当時、不良のレッテルを貼られていた僕たちが突撃してきたもんだから、先生涙目だったよね」


「じゃが、わけを話すと今度は感涙しながら協力してくれたんじゃよな。当時、廃部寸前だった音楽部も協力してくれたわけじゃし、先生も含めて良いやつらじゃった・・・」


当時俺たちが通っていた中学は勉学に力を入れていて、部活動はそれほど盛んではなかった。・・・今にして思えば、勉強がそれほど好きではない俺たちがあの中学に入学したのか不思議である。


「そんなわけで俺たちは音楽部の力を借りて、定期的に病院の講堂でボランティア演奏会を開いてたんだ。見学自由で参加も自由、飛び入り大歓迎ってな感じで。Aちゃんも喜んでいたよ」


「それって演奏会っていうの・・・?」


まあ、そんな形式ばった堅苦しい物ではなかった。そもそもの話、そう簡単に楽器を使えるようになんてなりはしない。練習に練習を重ねて、ようやくある程度使えるようになったくらいである。・・・最初の方は、猫ふんじゃった、ばかり演奏してたな(笑)。


そんな演奏でも子供たちは勿論、入院中の大人たちもたくさん来てくれた。病院側も、良い刺激になる、とかで気前よく許可してくれたしな。


演奏会と言いつつ、他にも色々やったしな。ひたすらビッグになる、ビッグになると連呼していたBくんも歌っていたし、お笑い芸人を目指していたCくんとDくんの漫才も披露していた。正義にヒーローに憧れていたDくんと一緒に劇っぽいこともやったな。・・・うん、良い思い出だ。


「そんな活動を一年くらい続けていたら学校や病院側も本格的にサポートしてくれるようになってね。学校行事の中にボランティア演奏が組み込まれたり、どこぞの楽団と合同演奏会をしたり、ね。楽器の寄付も集まってたね。病院の講堂がいつの間にか立派な音楽施設になってたよ」


「音楽部員もかなり増えていたのう。音楽の先生から死ぬほど感謝されたわい。学校の方針も勉学重視から文部両道に切り替わったしのう」


「どんどん大事になっていくのだ」


ちなみに余談だが、俺たちは音楽部には入部はしていなかった。散々協力してもらっていてなんだが、さっきラングも言っていたが俺たちは不良のレッテルを貼られていたから入部すればかえって迷惑になると思ったからだ。まあ、そんなレッテルも一年を過ぎた頃には完全に忘れ去られていたようだが・・・


「・・・そういえば聞いた事があります。どこかの中学が積極的にボランティアを行っていて高い評価を受けた、と・・・たしかボランティアの内容がテレビで特集されていてニュースにもなっていたかと・・・」


「ああ、多分それだよ、ロゼ。・・・学校主導ではなく生徒が自発的に始めたっていうんで多少話題になった話だろう?」


・・・そんなニュースあったっけ? 今はともかく当時ニュースなんて見なかったしなぁ・・・というかラングもロゼさんも中学生当時にニュースなんて見てたのか?


「・・・まあ、そんなわけでボランティア演奏会を始めてしばらく経った時、Aちゃんが手術の為に転院することになったんだ」


「「「・・・え?」」」


驚く皆。実はこれは後になって聞いたんだが、Aちゃんの病気は手術をすれば治る見込みが高かった。しかし、本人が怖がって手術を受けるのを拒んでいたのだ。しかし・・・


「俺たちに勇気を貰ったって・・・夢を叶えるために手術を受けることにしたってAちゃんは言ったんだ。それならば、と。俺たちはAちゃんを心置きなく送り出す為に、派手に最後の演奏会をする事にしたんだ。勿論、メインのボーカルはAちゃん」


みんなノリが良くて助かった。Aちゃんのご両親も。


「ただな。ここで一つ問題が起こったんだ・・・」


「「「・・・?」」」


皆不思議そうな顔をしている。何が問題なんだ、と・・・ラングとガットは呆れ顔だった・・・どうやらオチが分かったようだ。


「Aちゃんがその時歌おうとした歌がな。・・・男女のデュエット曲なんだ」


「・・・え?」


「・・・もしかして・・・?」


どうやら皆もうすうす分かってきたらしい・・・が、構わず俺は話を進める。


「そのAちゃんと歌う男性パートを誰にするかで俺とラングとガットで揉めに揉めてな。Aちゃん(の相手役)を巡った取り合いになったんだ」


「「「「まさかのそんなオチ!?」」」」


そんなオチだ。俺は嘘は言っていない。嘘は、な。ククク。


「アーッハッハッハ!! まあ、そんなこったろうと思ったよ。それで? その取り合いはどうなったんだい?」


豪快に笑うヴィオレ。その顔には閻魔も逃げ出すような恐ろしいオーラは感じられないが・・・本当にそんなことだと思ってたのか?


「結局、俺がギター、ラングがベース、ガットがドラムで、かつピンマイクで男三、女一で歌うという形でまとまった」


正直、あそこまで自分が歌うことに固執する理由は無かったはずなのに何故あそこまで意固地だったのか・・・Aちゃんが間をとりもってくれたおかげでまとまったが・・・青春の苦い思い出って奴かな。


「で、何とか最後の演奏会が終わり、Aちゃんを見送った。その演奏会を機に俺たちもボランティアから引退した。・・・受験があったからな」


ぶっちゃけ、成績は悪くなかったし、行く予定だった高校も猛勉強が必要と言うほどではなかった。だが、後輩たちが、任せてください! と力強く言ってくれたおかげで俺たちは安心して後を任せて卒業する事が出来た。ちなみに現在でもボランティア演奏会は続いているらしい。


「後日、Aちゃんの手術は無事成功。経過も順調だと言う連絡がご両親から来た。めでたしめでたし」


少し長くなってしまったが、ラングやガットとはこのときからの付き合いだ。高校も同じだったし。


「それは良かったのだけど・・・Aちゃんのその後は? 夢は叶えられたの?」


皆もそうだそうだ、と頷いている。が、しかし・・・


「さあ?」


「さあって・・・もしかしてそれっきりお会いしていないのですか?」


「会ってないな。今、どこで何をしてるかも知らない」


「「「「え~~!?」」」」


なぜかのブーイングである。


「なんで何すか!? アニキたちがそこまで応援したのなら、Aちゃんがちゃんとアイドルになれたのか確認すべきっすよ!?」


ああ、そういうことか。しかしなぁ・・・


「アシュラ、お前勘違いしているぞ」


「え?」


「俺たちはAちゃんがアイドルになる事を応援してたんじゃなくて、夢を叶える事を応援してたんだ」


「え? それって同じことなんじゃないんすか?」


「似てはいるが違う。確かに当時Aちゃんはアイドルになりたいとは言っていたが、その後もそうとは限らないだろ? 看護婦になりたいとかスチュワーデスになりたいとかに夢が変わっていてもおかしくない。それを悪い事だとは思わないし、どんな夢だろうと俺は応援するさ」


・・・そういえば、当時の子供たちの中にいたEちゃんは峰不○子みたいになりたいって言ってたな。・・・皆で全力で止めたが。


「・・・じゃあ、アルクさんがAちゃんと連絡を取らないのは・・・」


「ああ、アイドルになりたいって言ってたのに他の夢に変わってるって知られたら気まずくなるかもしれないだろ? まあ、Aちゃんが転院するときに、どんな夢でも応援する、とは言っておいたけどな。無事に病気が治ったんなら、俺たちは草葉の影から応援するだけ。Aちゃんには俺たちのことなんか気にしないで頑張って欲しいのさ」


皆神妙な顔をしている。納得した者、納得できない者、それぞれいるようだ。まあ、こればっかりは正しいかどうかの問題じゃないからな。考え方は人それぞれだ。


・・・ラングとガットが微妙な顔をしているのが気になるが。


「それじゃあ・・・そのう・・・そのAちゃんに恋愛感情とかは?」


おっとアルマがド直球で聞いてきやがった。


「うーん・・・はっきり言うと無い」


「正直、僕は妹みたいに思っていたね」


「うむ、恋愛対象かといわれると微妙じゃのう」


俺たちの言葉になぜかアテナ、アルマ、ロゼさん、ヴィオレがほっとため息をついている。・・・ホントナンデダロウネ。


「まあ、俺たちがつるむきっかけと言う意味ではAちゃんは忘れられない女の子だな。・・・うーん、話してると急に気になってきたな。彼女は夢を叶えられたかな・・・」


それとも今も夢に向かって邁進中だろうか。


「さっきから何を言っておるんじゃアルク?」


・・・ん? 何故かガットが怪訝な顔をしている。


「どうもさっきから話がかみ合わないと思ったら・・・もしかして知らないのかい?」


ラングまで何を言ってるんだ?


と二人はとある方向を指差す。その先にあるのは庭から見えるように設置した巨大モニター。いつも付けっぱなしで色んな動画を適当に流しているが・・・今、画面に出ているのは・・・【オルフェウス】というクランに所属しているゲーム公式アイドルのポロンとミューズだ。


二人はリアルでもアイドルをしており、このゲームの宣伝やMCなどを行っているプレイヤーだが・・・まさか?


皆、呆然としてモニターに釘付けになっている。


「彼女ならとっくに夢を叶えておるわい」


画面いっぱいに写るミューズの笑顔は・・・確かにAちゃんの笑顔を思い起こさせた。


・・・そうか。


夢、叶えたんだな。


良かった良かった。


「ちなみに男性のほうがBくんだね」


「まさか、あのBくんが!?」


皆をびっくりさせようと思ったが、こっちがびっくりしてしまった。


===ログアウト===>おつかれさまでした


今後ともよろしくお願いします

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう付き合ってもないのに怒る女キャラなんなの?しかも過去の話なのに
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