歌は文化
出来心と遊び心とイタズラ心でアテナとアルマに振ったが、思いのほか美声だった。思わず聞き入ってしまいそうだが、注文が途中だった。今のうちに注文を終えて歌い終わった二人をねぎらってやろう。
二人の歌声をBGMに注文が出来る食べ物を選んでいく・・・ピザにハンバーガー、フライドポテトにチキン・・・ジャンク系だな。他には枝豆にスルメ・・・酒のつまみか。なかなかメニューが豊富じゃないか。ピザだけでもマルゲリータにペスカトーレ、バンビーノにビアンカまで・・・誰が作ってんの? これ? まあ、良いや。適当に選んでポチッと。
注文が終わって。再度、歌に聞き入る。少しして熱唱が終わると拍手が沸き起こる。アーニャたちは勿論、アーテルやアウルたちまで。・・・拍手できるんだね、君ら。
「良かったぞ! 二人とも・・・なんだこれ?」
さあ、次はお前の番だと言わんばかりにマイクをこちらに突き出してくるアテナとアルマ。二人は笑顔だが目が笑っていない。・・・どうやら、やぶ蛇だった。
仕方なく俺は男らしい歌声を披露した。何を歌ったって?・・・ガン○ムに聖戦士○矢、ラ○キーマンにワン○ース、幽○白書・・・はい、アニソンばっかりです。
「何気に上手いのが、腹が立つわね」
「あと、チョイスが微妙に古いのもありますね・・・年がばれますよ?」
ほっといてくれ。・・・しかし、さすが皆ゲーマーだな。俺が歌ったのは全部知ってるようだ。・・・良かった。今時の流行の歌なんて俺は知らんからな。と、歌い終わったところで料理が運ばれてきた。はやっ!
相変らず無愛想なロボットメイドさんがテーブルの上に所狭しと料理を並べていく。結構な量だ・・・皆、遠慮なく頼んでるな。
「むむっ! シューストリングにストレート、ナチュラル、クリンクルカット、ゴールデンクリスプラティスも・・・!? どれも見事な仕上がりなのです!」
・・・なんて? アーニャが謎の呪文を唱えだしたぞ・・・フライドポテトの種類だそうです。そんなに種類あったのね。
皆、思い思いに料理をつまむ。・・・うむ、美味い。アーニャの料理に比べると後一歩といった所か・・・出来るな、ここの料理人。・・・アウルよ。そんな口いっぱいに頬張らなくても一杯あるからな? アーテル、アウルの真似しない。
「さて、次、誰歌う?」
「・・・デハ私ガ」
「意外な立候補!?」
立候補したのはなんとラグマリアだった。・・・歌えんのか?
「・・・何を歌うつもりなのだ?」
ほら、アヴァンも不安そうだぞ。
「キュー○ィーハニーデス」
「・・・なぜ、そんな歌を知っているのだ?」
同感である。だがラグマリアに教えた犯人と言えば限られている。俺は女性陣に目を向けた。・・・全員が目を逸らしていた。どうやら複数犯だったらしい。
とはいえ、止めさせる理由も無いのでそのまま歌わせてみた。
・・・かつて、ここまでテンションの低いキュー○ィーハニーを聞いた事がない。テンションというより抑揚が無い感じだな。この場合、上手い下手ではなく単に性能の問題か? 機械的な喋り方だと歌も微妙になるな。
「残念デス」
「諦めてはいけないのだ、ラグマリア。我が何とかしてみせるのだ」
おお、麗しき主と【眷属】の絆か? ・・・カイザーが羨ましそうに見てるから、彼も何とかしてあげてくれ、アヴァン。
「・・・では、次は僕が・・・」
「おお、アスター! よし、行くんだ!!」
そして流れ出した曲は・・・
「・・・明日が○るさ、か。」
・・・良い歌だと思うよ? うん。途中、アシュラやアーニャまで乱入して歌いだしたけど・・・マイクいくつあるんだ?
そして皆で明日があることを連呼していると、ラングが何故か戻ってきた。
「どうしたんだ? ラング? 今にも悲愴感、歌いだしそうな顔して?」
「いや、大した事じゃないんだけどね?・・・悲愴感?」
ああいう歌も嫌いじゃない俺がいる。
「まあ、それは置いとけ。で? どうしたんだ? 暗い顔して・・・まさか追い出されたのか?」
ここに来てメンバーの一斉ストライキか?
「まさか・・・どこも楽しんでたよ」
「楽しんでたんだったら良かったんじゃないのか?」
「そうなんだよね・・・あそこまで喜ばれると、逆に今まで配慮に欠けていたかなぁ、と思い始めてね」
・・・なんか初めて部下を持った上司みたいな悩みを話し出したぞ。
「気持ちは分からんでもないが、考え過ぎじゃないか? お前のとこのメンバーだって強制されて【インフォガルド】に参加してたんじゃないだろ? 嫌だったらさっさとクランを抜けてるはずさ。まだ所属してるって事は、少なくとも居心地は悪くないんだろうし・・・これからも息抜き程度に宴会でも開いていけば良いんじゃね?」
まあ、俺たちは何かあるたびにドンチャン騒ぎしてるけどな!
「・・・そうだね、息抜き、か・・・」
・・・案外真面目なんだよな、ラング。人をからかったりおちょくったりしたりするのも好きだが、自分のやることは常に100%を目指して妥協しないタイプだ。一緒にいるメンバーとしては多少息苦しく思う奴もいるのかもしれない。
「やれやれ、宴に似つかわしくない顔だな。仕方ない、丁度歌い終わったみたいだし、俺が称えてやろう」
そういって俺は選曲する。
「称える?」
「そう、パーフェクトなヒューマンとしてな!!」
そういう歌です。歌?・・・ネタ?・・・どっちでも良いか。
「・・・僕、このゲームの中だとエルフなんだけど・・・」
ハッ! しまった。この中で人間・・・ヒューマンなのは俺だけだった! しかし、選曲は既にしてしまった・・・
「・・・フフッ、仕方ないねぇ・・・なら僕が君を称えてあげるよ。今回のクエストを起こした張本人だしね!」
そう言ってラングは俺からマイクを奪って俺を称えだした。俺は首を傾げるだけだったが・・・恥ずかしいな、称えられる側って。
ひとしきり歌い終わると満足したのか、ラングはマイクをアシュラに渡した。アシュラが歌いだしたのは・・・ドラ○ンボールか。
「・・・そういえば、アルク。君に渡す物があったんだ」
「渡す物?」
「今日までの【アークガルド】から提供してもらった情報に対する分け前だよ。先日の【忍者】クラスとレイドクエストに関する情報料もまとめてね。うちのクランとしてもがっぽり儲けさせてもらったから期待して良いよ」
そういえばそんな話もあったな。【インフォガルド】に情報を売るときは、情報の内容に応じて一定の報酬が渡される。そして【インフォガルド】が情報を売り出した後に想定以上の売り上げがあった場合はその分け前を情報提供者がもらえるようになっているそうだ。
そうする事で、自分で情報を売り出した方が良かった! と言い出すプレイヤーが出るのを防ぐんだそうだ。まあ、売った情報で相手が自分以上に儲けていたら不満に思う奴もいるんだろう。
「ああ、そういや、そんな話もあったな。・・・分け前はおいくら?」
緊急クエスト報酬もあるから金に困っているわけでは無いのだが、お金はいくらあっても困らないからな。ただでさえ、俺たちは今後も施設やら畑やらで使っていく予定だし。
「君達に渡す分け前は全部で・・・1000万Gだね」
「ぶー!!」
俺は飲んでいたコーラを噴き出してしまった。
「「「「1000万!?」」」」
ちゃっかり聞き耳を立てていた皆も驚いていた。・・・アシュラ、マイクを持ったまま叫ぶな。耳が痛いだろう。
「言ったろ? がっぽり儲けたって」
ラングが悪い顔をして不敵に笑っている。
それにしたって、レイドクエストの報酬以上に稼ぐか? 普通。
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