労いは必要
そんなわけで【アークガルド】【インフォガルド】【アイゼンガルド】のメンバー全員(総勢100人超え)で【インフォガルド】のクランホームへと移動する。
【インフォガルド】のクランホームはファミレスと酒場を足したバーという謎のコンセプトのお店風のホームだ。最初は、情報を売るなら酒場! だったらしいがクランメンバーの趣味と拘りがドンドン自己進化していった結果、現状のようになったらしい。店の奥にはVIP用に個室や広い大部屋なんかもあり、秘密保護は完璧、多人数対応も可、なんだそうだ。
まあ、今日は普段席からVIP席まで全て俺たちの貸切なのだが。
「100人超えでも問題なく収容できるとはさすがだな」
そんな中、俺たち【アークガルド】のメンバーは店の奥の個室に通されていた。これは別に俺たちがVIPだからとかいうわけではなく、単に人数の関係だ。今回は各クラン毎に別れて(別に協力して何かをしたわけではなかったので)一番人数の多い【インフォガルド】から順番に大部屋を割り当てられていった結果、一番人数の少ない俺たちがこの部屋になっただけである。
「やれやれ、やってくれたね、アルク」
「まったくじゃのう」
そして、俺たちしかいないはずのこの部屋に何故か混じっているラングとガット。
「なんでお前らここにいるの? 自分たちのクランのところに行けよ」
現にロゼさんやヴィオレは各クランの元で(宴会の)指揮を執っている。
「一言文句を言いにきたんだよ」
「そうじゃ、勝手に奢り宣言をしおって」
ふむ、どうやら俺が勝手にラングとガットの奢りだと言ったのが気に入らないようだ。
「別に良いだろう? お前らがっぽり稼いでんだし。普段から馬車馬のように働かせているクランのメンバーたちを労え」
「「人聞きの悪い事を抜かすな!!」」
おやぁ? 心当たりが無い? おかしいなぁ?
「・・・ロゼさんやヴィオレからは感謝されたぞ? 俺のおかげでお前らが人を労うことを覚えたって」
ラングたちはよく俺たち【アークガルド】のクランホームにやってきては俺たちが騒いでいる所に混ざっていた。俺たち(というより俺)が何かある度に施設を増設し、派手に騒ぎ、美味いものを飲み食いして楽しんでいる所を見て、自分たちの所でも何かすべきでは無いかと思い至ったらしい。
俺としては今まで、そういった打ち上げ的なことをした事がなかった事の方が驚きであるのだが、クランのリーダーとしてメンバーの為に何かしようという試みは良いことだと思う。
「・・・え? 本当に?」
「そうなのか?」
・・・この反応からしてロゼさんやヴィオレの普段の苦労がうかがえるな。二人とも、基本的に真面目な職人気質であまりメンバーを気にかけるようなタイプでもないし。・・・そういう意味ではロゼさんやヴィオレは良い女房役だな。・・・本人に言ったら○されるから絶対言わないけど。
「うむ、特に最近はメンバーや読者からの評判もよろしくないらしいからな。特にラング。きっと今回の奢りで皆の見る目も変わっていくことだろう」
別に恩を着せるつもりは無いが、ギスギスしたクランより和気藹々と過ごせるクランのほうが絶対良いだろう。そのアシストになれば幸いです。
「・・・そうだったのか。・・・読者ってなに?」
・・・はて? 俺、そんなこと言ったっけ?(笑)
「・・・すまんが、ワシはこれで行かせてもらう」
急にそわそわしながら部屋から出て行くガット。・・・評判がよろしくないあたりで不安になったな。
「・・・僕もこれで失礼させてもらうよ」
ラングもやや慌てながら部屋から出て行く。きっと二人はこれから、気の使える上司よろしく、あいさつ回りでもしに行くのだろう。せいぜい、株を上げてくると良いわ。
「なんだか、俺は良いことしてやった! って顔をしてますね」
・・・アルマよ、そういうことは思ってはいても口には出すな。
「良いことかどうかはともかく、私達まで奢ってもらう必要はなかったんじゃないの?」
・・・アテナよ、・・・その通りだ。
「良いの良いの。普段アイツラだって俺たちのホームに遊びに来んだし。それにいつもアーニャに料理作ってもらってばかりだからな。たまにはアーニャにも羽を伸ばしてもらわないとな」
「ありがとうなのです!!」
・・・なんか今、家族サービスするお父さんみたいな事言ったな。世の中のお父さんは大変だ。
「・・・ってそういえばラングの奴が行っちゃったけど注文はどうするんだ?」
まだ、飲み物も注文していないんだが・・・
「ここにタブレットがあるのだ」
アヴァンがテーブルの上を指差すと、そこには確かに注文メニューが載っているタブレットがあった。ああ、最近の飲食店でたまにあるな。店員さんに口頭で注文するんじゃなくてタブレットで注文して届けてくれる奴。まあ、これはこれで便利だから良いんだけど。
しかもご丁寧に人数分タブレットが用意されていたので、とりあえず飲み物を皆、思い思いに注文して行く。俺も自分の分と、アーテル、アウルの分のコーラを注文する ・・・え? アウルに炭酸飲ませて大丈夫なのかって? ふっ、その点はチェック済みさ。アウルも俺と同じでコーラが大好きなのだ!
「えっと・・・ここを・・・こうっすか?」
「そうそう、それでここを触ると・・・」
・・・アスターがアシュラにタブレットの使い方を教えている。もしかしてアシュラって機械系が苦手な口か? 今時、タブレットの使い方を知らない現代人がいたとは・・・
まあ、そんな感じでわいわいがやがやしながら最初の注文を終えた。すると数分もしない内に部屋の扉が開いた。そして中に入ってきたのは・・・
「失礼シマス」
「・・・ロボットメイド・・・だと?」
飲み物がのったトレイを持って現れたのはメイド姿の女性ロボットだった。ラグマリアのように人間と見間違うような生物的なタイプではなく、所々機械仕掛けなのが見て取れるロボットタイプだ。表情も人間の物ではなくそれっぽい仮面のような感じだ。
「ふむ、ホーム用の簡易ロボットなのだ。ホームから持ち出せない分、割と安く購入できるタイプなのだ。・・・ホーム用のロボットなんぞ需要が少ないと思っていたのだが、こういう使い方もあったのだ・・・」
・・・なるほど。人間、というかプレイヤーがいないときのピンチヒッターかな。確かこのゲームはNPCも雇う事が出来たはずだが、料金はピンきりらしいからな。料理はさすがにロボット任せには出来ないだろうから、料理人のNPCを雇い、配膳用のロボットメイドを多数購入しておけば、仮にホームからプレイヤーが全員出払っていても飲食店としては機能できると言うわけか。・・・情報屋だよな、ここ?
「ほえー、便利なのがあるのです」
そうだな。これは是非、俺たちも購入を検討せねば! ・・・任せる仕事はさっぱり思いつかないけどな!
当のロボットメイドはテーブルの上に飲み物を置いていくとさっさと退散してしまった。・・・若干、無愛想な気がしなくも無いが、こちらとしても店員さんに気を使わなくて良い、という意味ではこれでも良いのかもしれない。
俺は自分の分のグラスを持ち、立ち上がる。
「それじゃあ皆、飲み物持ったか? 今日のクエストお疲れさん! 1位にはなれなかったが、200以上のクランが参加していたらしいから、その中で5位は健闘したほうだろう。ま、次こそは1位になろうぜ! 乾杯!!」
「「「「かんぱ~い!!」」」」
「クルー!」「がお!」「ピュイ!」「キュイ!」「キュア!」「キュウ!」
「「乾杯デス!」」
「だう!」「あい!」「まう!」
・・・うむ、皆元気があって大変よろしい。
そのままコーラを一気飲みしたところで(盛大にゲップが出た)次の注文・・・の前に、俺はもう一種類あったタブレットを手に持った。
それは部屋の端っこに何故か置いてあるカラオケ用のタブレットだった。
俺は素早く選曲し、入力する。
すぐに部屋の中に曲が流れ出したので・・・
「アテナ、アルマ・・・歌え」
「「急に!?」」
急にではない。そこにカラオケ機器があったのなら歌わなきゃ駄目だろう。・・・なんで自分で歌わないのかって? ・・・歌はちょっと・・・
ちなみに俺が入力したのは某二人の歌姫がデュエットしている某アニソンだ。
「まったく・・・」
「しょうがないですねー」
二人は口では嫌がりながらも、軽やかな身のこなしでカラオケ機器の前に立つ。
そして熱唱。
場が大いに盛り上がった。
・・・二人とも、この歌知ってたのね。
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