集う者たち
そこにいたのは二人の男女だった。
男性の方は物腰の柔らかそうな青年で、銀色の髪に黒い瞳をしていて、微笑している。
一方の女性の方はおっとりとした感じで、いかにもなお姉さん風だ。亜麻色の髪と瞳をしている。
そして、二人ともガッチガチの騎士風の鎧を着ている。男性の方は腰に豪華な装飾の鞘に納められた剣を、女性の方は、同じく豪華な装飾が施された杖を背負っている。
さらに、よく見ると彼らの後ろのほうにも似たような格好のプレイヤーたちがずらりと並んでいる。どうやら彼らが代表で話しかけに来たらしい。
・・・どうやら(俺と違って)喧嘩を売りに来たわけではないようだ。見た目、平和そうな二人だし、ここは平和的に話をしないとな。
「おうおう、何モンじゃい、おんどれら! 姉ちゃん、下手に首突っ込んだら怪我するでぇ! 喧嘩は江戸の華、こちとら江戸っ子でい!」
俺は要点をまとめた簡潔な言葉で言い放った。
「ヤ○ザなのか、関西人なのか、江戸っ子なのか、はっきりしなさいよ」
「なんでそんな喧嘩ごしなんですか?」
・・・なんでなんだと聞かれれば、ただのノリだと答えよう。
・・・すまん、気にしないでくれ。
「あらあら~元気が良いわね~。でもこんな所で喧嘩は駄目よ~。・・・通報しちゃうわよ?」
「どうも、すまんこってす、どうか堪忍しておくんなもす」
伝家の宝刀、通報と言われれば引き下がるほかあるめぇ。
「さっきからどこの方言なのよ」
フフフ、それは自分で調べてみるが良いわ。
「あら~良かったわ~。素直な子は大好きよ~」
・・・駄目だ。違う意味でシャレが通じていない。
「・・・それで、結局アンタらは?」
「急に素に戻るんですね・・・」
うん、飽きた。
「あら~失礼しました~。私は【双星騎士団】の副団長、シャンテよ~」
「団長のラーサーです」
・・・あ、男性の方が団長なんだ。それにしては影が薄いような・・・って【双星騎士団】?
「クエスト三位のクランなのだ」
おお、一位から三位までのクランが勢ぞろいか。・・・もしかして俺たち、邪魔? クソッ! 四位のクランはどこ行った!?
「・・・それで三位のクランが一体・・・っと失礼」
俺は【グランディスマグナム】を取り出し、後方を撃つ。
パンッ! パンッ!
・・・2発? 俺は1発しか撃ってないぞ?
隣を見るとカオスも銃を抜いて撃っていた。・・・リボルバー、カッコいい!
「きゅ、急にどうしたのです?」
・・・ふむ、俺たち以外は誰も気づいていなかったようだ。
俺は銃撃した地点を指差すとそこには・・・
「・・・ハチ?」
「・・・型のロボットだな。偵察メカといったところか」
・・・アヴァンが作った【ビートル君】の同じタイプだろう。
すると、騎士風の男性、ラーサーがそれを拾い上げた。
「・・・【DEATHビー】ですね。【秘密結社DEATH】が良く使う偵察メカです」
・・・結果発表の時も思ったが、名前わざとなのか? そしてラーサーとやら、良くそんな真面目な顔でそんな駄洒落みたいな名前、言えるな。
「あら~。無許可で撮影なんて・・・盗撮かしら~」
・・・だろうな。どう見てもたまたま写しちゃいましたって感じじゃないし。持ち主取りに来ないし。
「・・・おい」
カオスがまた別の方向を指差す。その先には黒ずくめのプレイヤー達の逃げる姿が。
「・・・なんで堂々と出てこないんだ?」
「秘密結社だからじゃない?」
・・・秘密結社が堂々とクエスト受けに来て良いのかよ。
ホント、色んな奴がいるな、このゲーム。
「・・・話が逸れたが、二人は何をしに来たんだ?」
改めて、シャンテとラーサーに話を聞くことにする。
「何ってわけじゃないんだけど~、今回のクエストの上位の人たちが集まっているみたいだったから~挨拶しようと思ったのよ~」
気の抜けるようなおっとりとした言い方だが、まだ自己紹介もしていないのに俺たちのクランと顔が分かるとは・・・油断ならないな。
あと、俺たちに挨拶と言う割りに、アーテルたち【眷属】の方に目がいってるんだが・・・油断ならないな。違う意味で。
「・・・皆さん、バトルトーナメントは参加されるんですよね?」
柔らかく微笑んでいるラーサーが聞いてくる。・・・表情とは裏腹に殺気が駄々漏れなんだが。
「まあ、そうだな」
「当然である!」
「・・・ああ」
とはいえ、この程度の殺気にびびる俺たちではないので普通に答える。
ラーサーは一瞬、獰猛な笑みを浮かべるも直ぐに元の柔和な笑みに戻る。隠せてない、隠せてない。
「・・・今日は来て良かった・・・中々、有意義な時間でした」
・・・それはクエストに関しての事を言ってるのか? それとも今この瞬間の事を言ってるのかどっちなんだ?
「・・・それには同意するが、俺はそろそろ行かせて貰う」
俺の隣にいたカオスがそう言った瞬間・・・
「「「消えた!?」」」
まるで瞬間移動でもするかのようにカオスの姿が消えた。ちょっと目を離したとかそんなレベルじゃない。文字通りフッと消えてしまった。
【忍者】か?アイツは!?
・・・あ、【忍者】いたわ。このゲーム。
「・・・では僕たちも退散します。トーナメントで会いましょう」
「またね~」
そう言ってラーサーとシャンテも自分達のクランに戻っていった。・・・本当に顔見に来ただけか。
「・・・カオスもそうだったが、あの二人も強そうだな」
「うむ。【双星騎士団】と言えばこのゲームでもトップクラスのクランだ。中でもあの二人の実力は本物だ。トーナメントでも勝ちあがってくるであろう」
今まで口数が少なかったベルバアルが何故か得意げに説明する。
「・・・なんで何時もの魔王口調でアイツラに宣戦布告しなかったんだ?」
「・・・だって・・・初めて会ったし・・・」
人見知りか!? お前、初めて会ったとき、俺たちにPvP仕掛けて来ただろうが!?
「あの時はワタクシたちが無理矢理引っ張って行ったのですわ」
・・・こいつ、本当に魔王になる気があるのか? そしてレシトリーさんよ。こいつがクランのリーダーで良いのか?
「ほな、目的も達したし、うちらも行きましょうか」
レヴィーネ、君は相変らずマイペースだね。
「うむ、そうだな。今回のクエストの戦果で宴を開かねば」
「戦果?」
そういえば報酬はどうなったんだ? まだ見てなかった。
「おや? まだ見てなかったのかい? 今回の報酬の中に、【精霊界】産の食べ物が一杯あったんだよ。【精霊界】産の食べ物は格別だからね。今から楽しみさね!」
ライセーレのテンションが高い。たしかに【精霊界】産の食べ物は普段は値段が高くて滅多に食べられないって話しだからな。だから皆、そそくさと去ろうとしてんのか?・・・え? じゃあ、カオスやラーサーたちも実は・・・まさかな?
「と言うわけで我輩たちはこの辺りで失礼させてもらう。さらば!」
颯爽と去っていくベルバアルたち【ディアボロス】のメンバー。・・・リグシオン、挨拶しかしなかったがそれで良いのか。
「・・・嵐のように去っていったっすね」
「急にあんな大物たちが集まってくるとはね」
「偵察だろ」
おそらく今回のクエストの結果を見て要注意となるプレイヤーの顔を確認しに来たんだろう。なんとかビーを差し向けてきた秘密結社みたいにな。
「うんうん、やはりどこのクランもトーナメントに向けて余念が無いねぇ」
「うむ、なかなか珍しい顔ぶれじゃったわい」
「・・・ラング、ガット。いつからそこにいた?」
いつの間にかラングとガットが俺の後ろにいた。・・・この俺に気配を感じさせないとは、腕を上げたな、二人とも。
「今、来たばかりじゃ」
「僕たちのクランホームで打ち上げをやるから、君達を誘いに来たんだ」
さらっと平常運転に戻っているラング。って打ち上げ?
「いつも君達のホームにお邪魔していたからね。アーニャ君の負担になってばかりなのも悪いし、今回は僕たちに任せて欲しいと思ってね。丁度、食材も手に入ったし」
・・・そうか、ラングたちも報酬を貰ったんだな。まあ、俺たちも打ち上げはやるつもりだったが・・・確かに二日続けてアーニャに料理させるのも悪いな。
「・・・良いか? アーニャ?」
「勿論なのです! 楽しみなのです!!」
「・・・と言うわけで俺たちも行かせて貰う」
よく見ると、二人の後ろにロゼさんやヴィオレたち、【インフォガルド】と【アイゼンガルド】のメンバーが。・・・知らない顔が多いな。・・・駄目だ、全員の顔は覚えられそうも無い。カオスたちのキャラが濃かったせいだ!
「・・・よし! 皆打ち上げに行くぞぉ!!」
「「「「おー!!」」」」
俺は拳を天に振り上げ、大声で宣言する。アテナたち以外にも、ヴィオレたちノリの良いプレイヤーたちが同じように乗ってくれるが・・・全員ではない。
ノリの悪い奴らがいるなぁ
「今日の打ち上げはラングとガットの奢りだ!! 腹が破れるまで食いまくれ!!!」
「「「「「「おおおおおーーーーーーー!!」」」」」」
今度こそ全員から歓声が上がった。
「えええ!?」
「なにぃ!!」
そしてラングとガットの悲鳴も上がった。
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