劫火と業火
その影は空を飛んでいた。遠目だが翼のような物が見える。同じ鳥系だからフィオレが真っ先に気づいたのだろうか?
そしてその影は巨大だった。【禍白虎】にも劣らない巨体。
【大邪霊 禍朱雀 Lv.58】
大精霊たる朱雀が理性を失い、邪霊へと変貌を遂げた存在
「嫌がらせか!?」
思わずそう叫んでしまった俺は悪くないと思う。
しかし、俺の声を聞いた皆は一斉に俺が見ている方向を見てしまった。そして・・・
「オーマイゴッド!!」
「ジーザス!!」
「ガッデム!!」
「オーノー!!」
と口々に叫んだ。なお、何故英語風に叫ぶのかは不明である。・・・皆、意外と余裕あんじゃん。
しかし、これはまずいな。敵がこちらの事情なんて汲んでくれるわけは無いのだが、敵の動きが予想以上に早い。まだ残っている敵を倒していない上に、このままでは回復の間も無く2体のボスキャラと同時に戦う羽目になる。
しかも、この敵の名前。
白虎、朱雀と来て続きを想像できないはずが無い。このままさらにボスキャラが増えていったら全滅もありえるぞ!
・・・こうなったら余力もくそも無いな。せめて【禍白虎】か【上級邪霊】たちのどちらかでも倒す事ができれば残ったチームで【禍朱雀】に対処できるはずだ。・・・最後の手段でカイザーにアテナとアルマを乗せて、大規模の【魔法】連発で【邪霊】たちを一気に倒すほか無い!
「カイザー!来い!!【クランメカロイド】で残った敵を一気に敵を殲滅する!」
・・・問題は今【クランメカロイド】の力を使って【禍朱雀】以降の敵まで力と時間が持つかどうかだが・・・今はそんなことを言っている猶予は無い。
「了解「待ってくださいっす!!」・・・デス?」
・・・おい、誰だ。カイザーのセリフに被せてきたのは。って喋り方からして一人しかいないのだが。
「まだっす!まだボクは全力を出し切ってないっす!!」
当然、叫んだのはアシュラだ。・・・全力を出し切ってないって、そもそも相手のレベルはお前より上なんだぞ?どうするつもりだ?と思っていたら・・・
「ルドラ!!」
アーテルの背に避難させていたはずのルドラくんを呼んだ。
「まーうー!!」
ルドラくんの方も待ってましたと言わんばかりに、嬉しそうにアシュラの下に飛んでいく。何をする気だ?・・・って一つしかないよな。
「【精霊憑依】発動っす!!」
「うーっ!!」
アシュラとルドラくんが叫ぶと同時に、ルドラくんがアシュラの体の中に溶け込むように入り込む。するとアシュラの全身をオレンジ色のオーラが包み込んだ。・・・こら、そこ。サ○ヤ人とか言わない!
「【魔闘技:全装】!」
さらにアシュラが叫ぶと、虹色のオーラを手足に纏った。あれは・・・【全天の属性】と同じ、自分の持つ全属性を一辺に【魔法付加】するスキルか!?
「【竜撃乱舞】!!」
アシュラはその状態で【邪霊】たちに突撃し、次々と技・・・いやスキルをぶつけていく。ルドラくんとの【精霊憑依】の効果でアシュラの格闘系のスキルの消費BPは0になる。スキルのごり押しで一気に押し切るつもりか・・・だが、あんな戦い方ではBPはともかくMPは残らないだろう。
それにルドラくんのレベルがこれまでの戦いで上がっているとはいえ、【精霊憑依】を維持できるのはせいぜい数秒から十数秒だろう。あれではそう遠くない内に、力尽きて後に続かない・・・
と心配している俺に・・・
「こっちは大丈夫です!アルクさん!!ミコト!【精霊憑依】!!」
「あい!!」
いつの間にかアスターの近くにいたミコトちゃんがアスターの体の中に入り込む。アスターも全開で行く気か。あの状態のアスターはダメージを負っても直ぐに回復する。仲間達の盾になるつもりか・・・
「【グランディスバスターキャノン】チャージ・・・発射!!」
ラグマリアが巨大砲台で【邪霊】たちを一掃していく。
「キュイー!!」
「キュアー!!」
「キュウー!!」
ブラン、ノワール、テールもブレスで次々と【邪霊】たちを葬っていく。
「こっちは大丈夫なのだ!」
「そっちはまかせるのです!!」
アヴァンにアーニャまで・・・そう言われたら俺としても信じないわけにはいかないな。
すると、ポンと俺の肩に手を置く者が。
「・・・アルクさん」
アルマだった。そういえば【禍白虎】はどうしたのかと思ったらアテナ、レオーネ、フィオレ、そしてアーテルが食い止めていた。・・・余所見してすまん。
「あの【禍白虎】は私とアテナで何とかします。アルクさんはカイザーさんと一緒にあっちの【禍朱雀】へ向かってください」
・・・ここでさらに戦力を分散するというのか?しかし・・・
「大丈夫です。私達だって今の今まで遊んでいたわけではありません」
「・・・いや、ゲームの世界なんだから遊んでいたで合ってるんじゃあ・・・」
「余計なツッコミは不要です」
さいですか。
・・・だがアルマがここまで言うのだから、任せても良いのかもしれない。
「・・・分かった。だが、足止めだけは任せてもらおう。【結晶の牢獄】!!」
結晶で出来た柱で【禍白虎】を囲いこむ。直ぐに破壊されるだろうが足止めくらいにはなるだろう。
「ありがとうございます」
礼を言うアルマに頷くと、
「アーテル!カイザー!来い!」
「クルッ!」
「了解デス!」
「だう!」
・・・一人だけ呼んでいないのに返事をした奴がいるが、アーテル(+背にアウル)とカイザーが俺の元にやってくる。その間に・・・
「行きますよ!アテナ!!」
「わかったわ!!」
アルマは【魔杖ブルーゼブル】を地面に突き刺し、アテナは・・・空中で、両手を空に向けている。
「元○玉じゃないわよ!?」
まだ何も言ってねぇよ。・・・本人もそう思ってる証拠だな。
なんて思っているとアルマが地面に突き刺した【魔杖ブルーゼブル】に青い炎が、アテナが天に掲げた両手の上に赤い炎が集まっていく。
「罪深き汝よ、深く暗い闇の底で青き炎の裁きを受けよ!【地獄の業火】!!!」
アルマが叫ぶと同時に【禍白虎】の地面から青い炎が湧き上がる。その炎は【禍白虎】の足元から徐々にせり上がっていく。そして・・・
「あまねく太陽の輝きよ、灼熱の赤き炎であらゆる物を焼き尽くせ!【太陽の劫火】!!!」
アテナが上空で作っていた、まるで太陽のように巨大な赤い炎の塊を【禍白虎】に落とした。触れる物全てを焼き尽くさんばかりの炎が【禍白虎】に降り注ぐ。
「ガアアアアアア!!!」
【禍白虎】の断末魔の叫びのような絶叫が響き渡る。
「アルクさん!!」
「こっちは大丈夫だから行って!!」
【魔法】を放ちながらも俺に行くよう訴えかけるアテナとアルマ。
「・・・分かった!!」
俺はアーテルの背に乗り(ついでにアウルは俺の背に移動した)、カイザーと共に【禍朱雀】の元へ向かう。
・・・なお、地獄の業火と太陽の劫火にサンドイッチにされた【禍白虎】を少し哀れに思ったのは内緒である。
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