こんなのまで出るのか
一足先にアスターたちと合流し、ここからは全員で戦うことを伝える。
「分かった!・・・です!」
「了解っす!」
二人も状況は分かっているようですぐに承諾してくれる。・・・ここで出番が減ったー!とか言ったら拳骨食らわせていたところだ。
「それとミコトちゃんとルドラくんはアーテルに預けろ。・・・正直危なっかし過ぎる」
全員揃っていれば二人の背中にへばりついていなくてもお互いにフォロー出来るだろう。
「クルッ!!」
アーテルも任せろっ!と言ってるようだ。頼もしい。
「分かりました、ミコト!」
「行くっすよ!ルドラ!」
「あい!」
「うー!」
・・・素直にアーテルの背中に移動したのは良いんだが・・・何故楽しそうなんだ。状況分かってるのか?
「だう!」
ようこそと言わんばかりに二人を出迎えるアウル。・・・アーテルの背にアウル、ミコトちゃん、ルドラくんが順番に並んで座ってた。萌え。
「・・・おっと、アイツらはやらせないぞ!【火遁:乱れ花火】!」
無粋にもアーテル達に向かって行く【邪霊】たちをまとめて倒す。戦場にいる以上、アウルたちも標的になるのは仕方がないが、やらせるわけにはいかない。・・・俺たちの心の安寧のためにも。
「アルク!」
「加勢します!」
アテナも合流して来たが、【邪霊】たちの増援も到着していた。
「よしっ、行くぞ、お前ら!!」
さあ、ここからは総力戦だ!
・・・
次々と押し寄せてくる【邪霊】たちだったが、全員で対処しているおかげで順調に倒すことが出来ていた。
敵のレベルもLv.30、Lv.40と上がっていき、出現する【邪霊】も【中級邪霊】となっていた。当然数も多いので中々大変だが、何とか切り抜けている。ただ、アスターとアシュラに関してはほぼ同レベルの敵であるためか苦戦が多くなった。
しかし、それでも一歩も引くこと無く【邪霊】たちを相対する姿は素直に感服する。とある偉大な先生も言ってたもんな。諦めたらそこで試合終了だって。・・・試合じゃなくてゲームだけど。
それに、だ。
「ミコト!【ヒールサークル】だ!!」
「あい!」
アスターとミコトちゃんが叫ぶと同時に、地面に光の円が現れる。【ヒールサークル】は円の内側にいる味方全員を回復させるスキルだ。
アスターとミコトちゃんの絶妙な支援により、ここまでは誰一人死に戻ることなく善戦を続けられている。アイテムの消費も抑えられていて非常に助かっている。
・・・うーむ、俺もアテナもアルマも【回復魔法】を覚えているのだが、まったく仲間の支援が出来ていない・・・この差は一体・・・
「アルクたちは攻撃に特化し過ぎなのだ」
「強力な【魔法】を使いまくるのでMPが残らないのです」
・・・遠回しに俺たちが脳筋だと言われてるような気がする。・・・否定出来ないな。アテナもアルマも目を伏せているし。反省。
あと、とうとうアヴァンやアーニャにまで俺の心の声が聞こえるようになってしまったのか?俺のプライバシーは一体どこに?
「さっきから声が漏れてますよ?」
・・・どうやら知らない間に声に出していたうようだ。俺の心の平穏は守られたらしい。
「ちょっと危ないわよ!【フレイムボム】!!」
アテナが俺の背後に迫っていた【邪霊】に【魔法】を放った。
危ない、危ない。・・・今、俺が守らなきゃいけないのは心の平穏ではなく、自分と仲間の背中だった。
「【ブレイジングセイバー】!【マキシマムスラッシュ】!!」
巨大な気力の刃で【邪霊】たちを横薙ぎに薙ぎ払う。
・・・うーん、段々と敵のレベルが上がるごとに敵を倒す時間が長くなるな。最初は一撃だったが、次は二撃、その次は三撃と攻撃回数が増え、そのたびに消耗が激しくなっていく。
一応、ローテーションでBPやMPを回復する程度の余裕はあるのだが、それも追いつかなくなるのも時間の問題か。・・・その時が正念場だな。
改めて気合を入れなおしながら、【邪霊】たちを倒しまくっているうちに、とうとうLv.50の【上級邪霊】が出始めた。それと同時に・・・そいつは現れた。
ドシン!ドシン!と大きな足音を慣らしながら俺たちのいる場所に近づいてくる。
「あ、アニキ・・・」
ソイツは今まで出現してきた【邪霊】たちに比べて遥かに巨大で巨体だった。レイドボスにも引けを取っていない。
「あれはまさか・・・」
すぐ様【看破】で敵の情報を調べる。そして直ぐに理解した。あれは・・・
「間違いない・・・ボスモンスターだ」
【大邪霊 禍白虎 Lv.58】
大精霊たる白虎が理性を失い、邪霊へと変貌を遂げた存在
その姿はまさに巨大な虎である。しかし、その体は白ではなく灰色だ。・・・灰色なのに白虎とはこれいかに。
「【大精霊】ならぬ【大邪霊】か・・・まさかこんな奴まで出てくるとはな」
いや予想はしていたが・・・できれば出てきて欲しくなかったな。【上級邪霊】まで引き連れてきやがって・・・10体程度なのが救いだが、まだ増えるんだろうなぁ。
「・・・アヴァン、残り時間は?」
「30分を切ったのだ!!」
ようやく折り返しか。つまり、後30分以内にあの禍白虎を倒す必要があるってことだ。
・・・一応、制限時間まで敵を引き付けながら逃げ続けるという選択肢もあるが・・・
「ガアアアアアアアア!!!」
禍白虎の咆哮。その勢いだけで吹き飛ばされそうになる。
あー、これは駄目だ。アイツを止めるには文字通り体を盾にしないと止められない。逃げ回ろうにもこのフィールドは無限ではない。殺る気満々の奴相手では追い込まれて死に戻るのが落ちだ。
ではどうするか?
【クランメカロイド】のアークカイザーで一気に押し切るか?・・・いや、まだそれは早い。【クランメカロイド】は時間制限がある以上、おいそれと使うのはよろしく無い。
それにアークカイザーの巨体では禍白虎はともかく、他の【邪霊】たちは取り逃がす恐れがある。
何故かって?人間がねずみのような小さくてすばしっこい動物を素手で捕まえようとしても難しいのと同じ理屈だ。いくらパワーが上がっても当たらなければ意味が無いのである。
俺が【剣鎧の精霊】と戦った時に【クランメカロイド】のアークカイザーを使わなかったのも、そういう理由がある。
となるとやはり周りの【邪霊】たちが邪魔だ。敵の増援が来る前に何とか数を減らし、禍白虎を倒したい。
「俺とアテナ、アルマでデカイのを相手にする!残ったみんなは他の【邪霊】の討伐を頼む」
「分かったのだ!」
「行くのです!」
「お気をつけてっす!」
「行くぞ!」
全員が俺の言葉を聞き、それぞれの敵に向かって行く。・・・みんな素直だな。
「カイザー!お前は俺たちの切り札だ!やられるんじゃないぞ!!」
「了解デス!!」
カイザーが前線から一歩離れ、同時に俺たちはでっかい虎のまえに踊り出る。さあ、俺たちも行こうか。
「そんな堂々と切り札って叫んで良いの?」
「敵に丸聞こえですよ?【邪霊】たちが理解出来るとは思えませんが・・・」
・・・すまん、迂闊だった。反省しよう。
何回、反省すれば良いんだ、俺は。




