テールが行く
「ここはアーニャたちに任せるのです!!」
おお!アーニャがやる気だ。・・・食い物に釣られたのか?
「それはアルクさんでしょう?」
・・・人の心の声に反応しないで欲しい。・・・そうだ!心を無にすれば・・・
「・・・」
「ちょっとアルク!ボーっとしてちゃ駄目よ!!」
・・・おっしゃるとおりで。
「ブランちゃん!ノワールちゃん!テールちゃん!!【成体】化なのです!!」
「キュイ!!」
「キュア!!」
「キュウ!!」
悟りの境地を開くことを断念した俺を華麗にスルーしてブランたちが【成体】化していく。・・・そういえばテールの【成体】を見るのは初めてだな。【成体】できるくらいまでレベリングはしていたのは聞いていたがどんな感じだ?
四肢に鋭い爪と強靭な肉体、鋭い牙を持つブラン。
蛇のように細長い体ながら堅牢な鱗に覆われたノワール。
彼らに続いてテールが【成体】化していく。
そして現れたのはブランにも勝る巨体にしっかりと4本の足で地面を踏みしめ、全身をドラゴンの証でもある土色の鱗で覆われている。そして頭部には巨大化した角が三つ。トリケラトプスのように鼻先に一本、額部分にニ本の立派な角だ。余談だがトリケラトプスとは「3本の角を持つ顔」という意味らしい。・・・すまん、本当に余談だな。
「おぉ~、中々立派だな」
思わずテールの体の鱗を触ってしまう。・・・うむ。中々の硬さだ。
「キュウ~♪」
褒められたのが分かったのかテールも嬉しそうだ。さらにブランもノワールもウンウン頷いている。・・・弟分が褒められて嬉しいのだろうか。
「ムフフフ、驚くのはまだ早いのです!これからテールちゃんの実力をお見せするのです!!テールちゃん、【アースクエイク】なのです!!」
「キュウー!!」
アーニャの言葉に雄雄しく叫んだテールは大きな前足を体ごと大きく持ち上げ・・・そのまま地面へと振り下ろした。
ドォオオン
という地響きと共に地面が揺れる。同時にコチラに押し寄せてきていた【邪霊】たちの地面が爆発するかのように盛り上がり、【邪霊】たちは一体の例外も無く上空へと押し上げられた。
中々凄い勢いだ。例えるなら火山の噴火だ。今のレベルではあまり威力は無いようだが規模で言えばアテナやアルマの【魔法】にも負けていない。
「ブランちゃん【ホーリーブレス】!ノワールちゃん【ダークブレス】なのです!!」
「キュイー!!」
「キュアー!!」
この隙は逃さないとばかりに【邪霊】たちの元へと飛翔したブランとノワールが次々とブレスで【邪霊】たちを消し去っていく。
「トドメなのです!テールちゃん【アースブレス】なのです!!」
「キュウー!!」
アーニャの言葉に大きく息を吸いこんだテールは・・・鼻先の角ごと顔を地面に突っ込んだ!・・・何故?
・・・地面の下から振動を感じる。その振動が一際大きくなった時、上空に押し上げられていた【邪霊】たちの真下、盛り上がった地面の中からテールのブレスが!真下からの攻撃に【邪霊】たちはなすすべもなく倒されていった。
・・・
「うん、敵のレベルが低かったとはいえ、テールも中々やるじゃないか。これからが楽しみだな!」
「勿論なのです!ブランちゃんもノワールちゃんもテールちゃんもやれば出来る子なのです!!」
「キュイー!」
「キュアー!」
「キュウー!」
うんうん、皆強くて良い子だねぇ。・・・ドラゴン3体だし、そりゃ強いわな。
「クルー!」
「ピュイー!」
「がおー!」
「あい!」
「うー!」
「だーうー!」
他の【眷属】のみんなも、よくやった!と言わんばかりにテールたちを取り囲んでいる。・・・ちょっとうるさいけどな。
「むー・・・アーニャちゃんの【眷属】たちも激強っす・・・」
そりゃドラゴンだからな。アーニャ本人よりも強いし。
「・・・これは僕たちも本気で頑張らないと出番なくなりそうですね」
大丈夫だアスター。戦闘では出番が無くともお前には農業という輝ける舞台があるじゃないか!・・・アシュラ?・・・ルドラと一緒に頑張って欲しい。
それはともかく、ブランたちの活躍により果物の種は大量に手に入った!我が【アークガルド】の農業未来は明るいな!!・・・アスター!ミコトちゃん!!頑張れ!!(人任せ)
・・・こんな感じで敵第二陣も殲滅したわけだが・・・信じられるかい?・・・まだクエスト開始して5分くらいなんだぜ?
・・・あ、敵の第三陣が・・・長い一時間になりそうだ。
「ほらほら皆、次が来たぞ・・・アスター、アシュラ。行ってらっしゃい」
浮かれてる皆を引き締めるように言う。と同時に次に戦う奴を指名する。
「え?」
「ボクらっすか!?」
指名に驚く。・・・いや、アシュラは嬉しそうだな。
「そうだ。見ろ・・・敵のレベルが20になってる。この後もドンドンレベルが上がっていくだろう。それまでに慣らしておけ」
「慣らしっていう数じゃないと思いますけどね・・・」
といっても数は百くらいだ。・・・さっきより数は減ったが何故だろうか?レベルは上がっているが・・・偵察も兼ねて・・・な?
「カイザー、お前も行ってフォローを頼む」
「了解デス」
「ラグマリア、お前も行くのだ」
「了解シマシタ」
カイザーとラグマリアも一緒だ。最初から負けるとは思っていないがフォローも万全しないとな。
「・・・よっしゃあああ!行ってくるっすー!!」
「まうー!!」
と叫びながらアシュラは一人、いやルドラがくっ付いていったから二人か・・・が突撃していった。・・・お前とアスター、カイザー、ラグマリアだって言っただろうが。勝手に飛び出していきやがって・・・後で説教だ!!
「はぁ・・・では僕も行きますね。行くよミコト。カイザーさん、ラグマリアさん、宜しくお願いします」
「あい!!」
「コチラコソ」
「ヨロシクオ願イ致シマス」
それに引き換え、アスターはしっかり状況を把握し、NPCであるカイザーやラグマリアにもお願いできる礼儀正しい奴だった。アシュラはもうちょっとアスターを見習え。
「・・・よっしゃああ、行くぞオラアアア!!!」
・・・【魔法】で作り出した武器、【暗黒の大鎌】を携えたアスターが突撃して行く。ミコトちゃんは普通に付いていってるが、カイザーとラグマリアは置いてけぼりだ。・・・前言は撤回するとしよう。
「出撃シマス」
「今ノ現象ハ無視シテヨイノデショウカ?」
既に知っていたカイザーは普通に、ラグマリアは若干困惑気味に二人に続いていった。・・・お手数おかけします。
「・・・なんなのだ?今のは?」
アスターの豹変ぶりにアヴァン以下、他のメンバーが引いている。
「・・・武器を持つとテンションが上がってしまうんだそうだ。そんなことより・・・」
「「「「そんなことより!?」」」」
大きな疑問を華麗にスルーしてアヴァンに聞く。
「状況はどうだ?」
「そんな普通に聞かれても困るのだ・・・【ビートル君】を飛ばしてみたのだがある一定の距離まで飛ばした所で見えない壁みたいな物があって先に進めなかったのだ。左右の横幅はおよそ1キロ、上空も同じなのだ。前方の奥行きは【邪霊】たちがいるので分からないのだ」
俺がアヴァンに頼んでいたのは、このクエスト用のフィールドでプレイヤーがどこまで移動できるのかの確認だ。
現在、俺たちはだだっ広い草原を、後方にある【世界樹】及び防衛ラインを守りつつ、前方からやってくる敵を殲滅といった感じでクエストを進行している。では実際にこの戦場はどこまで移動できるのか、どこまで広がる可能性があるのかを知っておきたかったのだ。
アヴァンの話を聞く限り、このフィールドは巨大な直方体のような形をしているようだ。
「なるほど・・・じゃあ、【ビートル君】にはその行き止まり付近を監視させておいてくれ。もしかしたら端っこギリギリの所を敵が通り抜けようとするかもしれないからな」
「了解なのだ」
1キロくらいならアーテルたち【眷属】に乗っけてもらって移動すればすぐだ。こういう防衛線で大切なのはいつの間にか敵が防衛ラインを超えてしまっていた、なんていうことを防ぐ事だからな。余力があるのにクエスト失敗なんてしゃれにならん。
・・・さて、アスターとアシュラはどれくらいで敵を殲滅できるかな?
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