ガクガクですよ
遠くから大群が押し寄せてくるのが分かる。
火、水、氷、風、土、雷、光、闇・・・本来形無き物が人型になって襲ってくるとはなんというホラー展開。ここがゲームの世界でなければ、あらかじめ【邪霊】だと言う事がわかっていなければ、【看破】で見た結果せいぜいLv.10やそこらだとわかっていなければ裸足で逃げ出していたかもしれない光景だ。
しかしだ。人間というのは不思議なもので、ある程度敵の情報が分かっているのであれば大して恐怖は感じない物なのだ。相手のレベルが低いとなればなおさらだ。
「いえ、あの数は普通に恐怖ですよね?明らかに百・・・いえ、二百体以上いますよね?」
・・・ふぅ、やれやれだ。
「いかんぞ、アスター。あの程度でビビッているようでは。数はともかくレベルは大した事無いだろう?」
「そうっすよ!アスター!!弱気になっちゃ駄目ッす!!」
俺とアシュラの激励にもアスターは渋い顔をしたままだ。
「・・・さっき、敵のレベルと数が増えるってアナウンスであったじゃないですか。つまり、この後、アレ以上の数とレベルの【邪霊】たちが襲い掛かってくるって事ですよね?」
・・・今度はアシュラの顔が青くなってしまった。ムンクの叫びのような顔をしている。・・・気づいてなかったのか・・・
「・・・それは今更だろう?敵のレベルと数が予想外だろうとやる事は何も変わらない」
むしろ、いつも大体こんな感じだ。予想外に強い敵が出てくるのなんてな・・・言ってて悲しくなるが。
「・・・その冷静さと平常心と自信の強さは素直にすごいと思いますよ」
「「「「うんうん」」」」
・・・何故かメンバー全員が頷いている。いや、本当に何故?
「・・・まあ、それはともかく、そろそろこっちの射程距離に入るな。アルマ!」
「分かりました」
まずは一発目、アルマが先陣を切る。
「我が敵対者よ、凍れる時の中でその身、その命を散らしめよ【凍結氷山】!!!」
特大の氷山が【邪霊】たちを包み込む。相変らず呆れるほどの威力と規模だ。【邪霊】たち全部、氷の中に埋まっちゃってるじゃん。・・・開幕にふさわしいぶっ放しだ!
と、今までの敵だったのならここで終わりなのだが・・
「・・・お?」
アルマの作った氷山を通り抜けてこちらに向かってくる【邪霊】たちがいる。・・・あれは【水の邪霊】に【氷の邪霊】か。
「・・・やはり、私が使った【氷結魔法】の属性と相性が悪い【邪霊】がいるようですね。特に【氷の邪霊】はノーダメージのようです」
【邪霊】には物理攻撃が効かない。倒すには何かしらの属性(無属性を含む)属性付加した攻撃が必要だ。
【魔法】による攻撃がその最たる例なのだが、問題はその属性だ。火と水のように反対の属性による攻撃がもっとも有効な攻撃ではあるのだが、同じ属性での攻撃がまったくと言っていいほど効果が無い。火に火をぶつけても何の効果も無いのと同じである。
これが何かの武器に【魔法付加】した攻撃であれば、属性効果は低くても武器自体の攻撃によりダメージがあったりするのだが、【魔法】は属性そのものだ。純粋な属性の塊である為、属性効果のみがそのままダメージになる。
そして【邪霊】もまた属性の塊と言ってもいい存在だ。つまり・・・
「やはり【氷の邪霊】に氷系の【魔法】は効かないか。【水の邪霊】は氷に近い属性だったからダメージが少ないのか・・・まあ、予想通りだな。アテナ!」
「わかったわ!」
アルマに代わり今度はアテナが前に出る。
「怒れる炎よ、渦巻く嵐よ、すべてを焼き払え【大爆発】!!!」
今度はアテナの【魔法】で残った【邪霊】たちを一掃する。【爆発魔法】は火系の属性だ。水属性や氷属性の【邪霊】ならばイチコロだろう。
ついでに氷山も一緒に消し飛ぶ。後に残ったのは元の静かな草原のみ。
「カイザー!ラグマリア!!」
「敵、動体反応アリマセン」
「コチラモ異常アリマセン」
・・・ふむ、敵の反応は無しか・・・第一陣は倒し終わったようだ。
「ご苦労さん、二人とも。今のうちに回復しておいてくれ」
二人にMPポーションを渡す。・・・ん?アスターとアシュラがなんかガタガタ震えてるんだが・・・
「どうしたんだ?二人とも?」
「どうしたって・・・ああ、ここではこれが普通なんですね?」
「ボクら、足がガクガクっすよ・・・」
・・・ああ、二人の【魔法】の威力にビビッてたのか。大軍に対して開幕ブッパは基本(?)だろうに・・・
俺は安心するように二人の肩に手を置く。
「大丈夫だ、二人とも・・・」
俺の言葉にようやく落ち着いたのか体の震えが止まった。俺は安心させるように柔らかく微笑みながら話しかける。
「アテナもアルマもまだまだ全然本気じゃないから。・・・あいつらはもっと凶暴・・・おぐっ!!」
二人の凶暴さを語ろうとした所で俺の鳩尾に二つの拳が!?・・・フッ、アテナにアルマよ。自らの行動で凶暴さを証明してしまったな。ほら、アスターもアシュラもまた震えだしてしまったじゃないか。
「・・・なにを遊んでいるのだ・・・次の敵が出てきたのだ」
やや呆れ気味なアヴァンの声に腹を押さえながら前方を見ると、早くも敵第二陣がコチラに向かってきていた。インターバルが思ったより早いな。・・・そういえば討伐状況にもよるっていうアナウンスがあったな。早く全滅させればそれだけ早く次の敵が出てくるのだろう。
・・・それは良いのだが・・・
「・・・なんだ、ありゃ?」
こちらに向かってくるのは【邪霊】・・・だと思う。若干自信が無いのは初めてみる種類の【邪霊】だったからだ。
「あれって・・・モモにカキにリンゴ・・・よね?」
「スイカにバナナにパイナップルもありますね」
「イチゴにブドウにメロンもあるのです!」
女性陣から次々と果物の名前が出てくるが・・・間違ってはいない。確かにそれらの果物・・・ただし人間大サイズの巨大な果物たちがコチラに向かってきている。・・・飛んできていると言った方が正しいか。手も足もないし。・・・なんてシュールな絵なんだ。
「あれは果物系の【邪霊】ですね。体当たりしてきたり、果汁をぶっ掛けてくるくらいしか攻撃手段が無い【邪霊】ですが・・・」
「なんでそんな奴らがこの場面で出て来るんだ!?」
アスターの解説に頭を抱える。レベルはともかく、能力的に第二陣より第一陣のほうが確実に強いよね!?
一気に戦う気が抜けてきたのだが、逆にアスターはやる気にみなぎっていた。
「これはチャンスですよ!アルクさん!!」
「・・・チャンス?何をそんなに興奮してるんだアスター?」
「アイツらからはそれぞれの果物の種をドロップできるんですよ!!」
・・・種?・・・果物の種?・・・ミコトちゃんが創れるようになるための種か・・・
「おっし!お前ら!!アイツらを一匹残らず狩るぞ!!!」
「急に元気になったわね」
ええい、黙れ、黙れ!目の前に食い物が・・・じゃなかった貴重なドロップ品を落す敵がいるんだ!このチャンスを逃してたまるか!!
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