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歓迎タイム

俺はゆっくりとターゲットを見据える。


焦ってはいけない。


失敗は許されないのだ。


慎重に、確実に、その時を待つ。


勝負は一瞬だ。


ここをミスればもう後は無い。


見極めろ。


ベストのタイミングを。


まだだ、もう少し。


・・・今だ!!


「ほわたあああああ!!」


極限にまで研ぎ澄まされた集中力、それを一気に解放しターゲットを・・・ひっくり返した。


「・・・うむ、いい焼き具合だ」


なお、俺が今焼いているのは今朝も作ったお好み焼きである。


・・・


ラングが仕向けたしょうもない裁判を早々に切り上げて(裁判所セットを持ち込んだのはやはりラングだった)、いつもの新人歓迎の宴を開催した。料理に関しては既にアーニャが何故か大量に作り置きしていた。


「アルクさんが新しい世界に行った時からこうなると思っていたのです」


とのこと。何故だ。


それらの料理にアスターは感激しながら食べていた。


アシュラは美味い美味い言いながらひたすら食いまくっていた。


ミコトちゃん、ルドラくん、そしてアウルもリスみたいに頬を一杯に膨らませながら、それはもうおいしそうに食いまくっていた。・・・明らかに自分以上の体積の料理を食っているような気がするが気にしないことにする。


そんなちびっ子たちを取り囲むように、いや実際に取り囲んでいた女性陣たちが幸せそうにその様子を見ていた。頻繁にアレもおいしいよー、とかこれもおいしいよー、と言って料理を食べさせようとする。アウルたちもそれはもう嬉しそうに食べるから、いちいちキャーキャー言って非情に煩い。


特にアテナとアルマ。顔がやばい。でれでれである。しかし、アウルは渡さん!!


まあ、そんな感じでわいわいもぐもぐしている中で、食べさせてもらうだけでは申し訳ない、とアスターが食材を提供してくれた。無論、アスターたちが畑で育てた【精霊界】産の食材である。


昨日貰った【精霊キャベツ】もある。それを見たアーニャの【眷属】の新顔にして【地竜】のテールが、何かを期待したような目で俺を見た。そのキラキラとした目に抗う事は・・・俺には出来なかった。


と言うわけで庭に鉄板を用意し、即席屋台のような形で急遽お好み焼きを作る事になったというわけだ。


「じゃからって真剣になりすぎじゃろう。なぜ凄腕暗殺者みたいなんじゃ?」


そして話は冒頭に戻る。なお、この時の様子を後にガットは、激戦を潜り抜けた凄腕スナイパーのようだったとか語ったとか語らなかったとか。


フッ愚かなガットめ。料理はいつも命懸けの真剣勝負なんだよ!


「文句があるなら食うな」


「・・・」


・・・会話を放棄しやがったぞ、コイツ。テールと並んで美味そうにバクバク食ってやがる。ちなみにガットとヴィオレは、あのふざけた裁判の時から、傍聴席の隅っこで空気になっていた。そして宴になった途端、ちゃっかり同席し始めたのだ。ヴィオレはちびっ子の方に夢中だが。


ようするに何時ものメンバーが揃っているわけだが・・・余所のクランのプレイヤーの事を何時ものメンバーと呼ぶのは問題がある気がするが、大抵いつの間にか混ざっているので俺にはどうにも出来ん。・・・彼らのクランメンバーにはその内、差し入れを持っていってやりたいと思う。


まあ、それはおいといて、屋台と言ったら他にも作るべきものがある。


「へい、おまち!」


俺が作っていたのは屋台の定番、焼きそばである。材料は勿論、アスターから貰った【精霊ニンジン】【精霊タマネギ】も使った贅沢な一品である。


「キュウ~♪」


美味いか?そうだろう、そうだろう。


店主権限でちょくちょく味見をしていた俺も、唸るほど美味かったからな。普通の野菜でも美味いのだろうが【精霊界】産はやはり別格だな。


「クルー!」


「だう!」


おや?アーテル、アウル、いつの間に・・・これが食いたいのか?しょうがないなー。


俺は箸を用意し、焼きそばをクルクルとスパゲティのように箸に巻きつけ(行儀悪いかもしれないが勘弁してくれ)て二人に食べさせる。


「クルー♪」


「うまうま♪」


うんうん、お口に合ったようで何より。・・・今、アウルが意味のある言葉を喋ったような気がするが気のせいだろう。


モグモグ食べる二人にほっこりしつつ、俺はもう一つの定番の調理に取りかかる。


用意するのは屋台セットを買ったときに一緒に買っておいたたこ焼き器。・・・そもそも何故俺は屋台セットを買ったのか、自分でも不思議だが、こうして役に立っているのだから別に良いのだ。


作っておいた生地をたこ焼き器に流し込み、中に入れる具材を入れて、少し待つ。


焼き加減を見極め、ベストなタイミングで・・・


「ほわーたたたたたたたたたたぁー!!」


次々とほじくり返していく。このとき、外側からかきまわすようにひっくり返さないと上手く球形にならなので注意が必要だ。なお、中の具材は定番のタコのほか、【精霊キャベツ】や焼いた肉など色々用意している。それはもうたこ焼きじゃないだろう、と言われるかもしれないが色々食べ比べてみるのも楽しいと思うんだ。


・・・子供の頃、タコが苦手だった俺はたこ焼きを割って中のタコだけを取り出して先に食べ、その後にタコの入っていないたこ焼きを堪能するという、今にして思えばたこ焼き屋にけんか売ってのか!と言われそうなことをやっていた(実話)。


あの頃は俺も若かった・・・タコの入っていないたこ焼きが一番!と思っていた若き日のほろ苦い思い出である。・・・今の一番は何かって?フッ・・・それは俺も探している所さ(キリッ)。


おっと余計な脱線をした。


「ほれ、熱いから気をつけろよ」


フーフー言いながら冷ました後、アーテル、アウル、テールに食べさせてやる。・・・そういえば名前凄く似てるな、この三人。ガット?知らん、自分で食え。


「クルックルッ」


「はふっはふっ」


「キュウ~」


はふはふ言いながら食べる様は実に微笑ましい。出来たてが一番美味いのは当然だが熱いのが難点だな。やけどしないよう気をつけないとな。・・・やけどするのか知らんが。


「「「「じー」」」」


ハッ!殺気!?


と思ったらいつの間にか屋台の前に行列が出来ていた。


並んでいるヤツラの目は一様にこう、訴えかけていた。


俺にも食わせろ!!


と。


この宴の主役であるアスターやアシュラ(すっかり忘れてた)やミコトちゃん、ルドラくんまで並んでいるのだからNOとは言えない。


こうして屋台の親父と化した俺はしばらくの間、お好み焼と焼きそばとたこ焼きを延々と作り続ける羽目になった。・・・誰か手伝えや。


なお、最後の最後に余計な疲れをお見舞いしてくれたラングにはわさびとからしをブレンドした特製たこ焼きを俺からもお見舞いしてやった。


アテナやアルマ、ロゼさんにも食らわせてやろうかと思ったが、さすがにかわいそうかと思い直し、チョコレートを入れたキワモノたこ焼きで勘弁してやった。


・・・意外とおいしいと受け入れられてしまった。無念。


ラング?ああ、奴は安らかな眠りについているから大丈夫だ。


そんなこんなでわいわいがやがや騒いでいるうちに遅い時間になってきたので今日は解散する事になった。


・・・そういえばラングとガットに聞きたい事があったんだが・・・


・・・ラングはロゼさんが引きずって行ってるな・・・そっとしておこう。


ガットは・・・ヴィオレにアルゼンチンバックブリーカーを仕掛けられてるな。きっとガットがヴィオレに何か余計な一言を言ってしまったに違いない・・・そっとしておこう。


・・・今日は色々疲れたし明日にしよう。


では、お休み。


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