有罪か無罪か
「被告人は前へ」
・・・【アークガルド】のクランホームの庭に設置されていた机と椅子。その様相はまるで裁判所である。・・・野外だが。誰だ、こんな所にこんなもん設置したアホは。
(設備的な意味で)簡易な裁判所の証言台に立たされる俺。俺を連行したのはアテナとアルマである。俺を左右からがっちり拘束している。現在進行形で。
「腕に抱きついているように見えるのです」
傍聴人席に座っていたアーニャからのツッコミが。HAHAHAそんなわけないだろう?・・・確かに腕にやわらかい感触が・・・ゲフンゲフン。
「ではこれより被告への質疑応答を始める」
「異議有り!まずは状況説明を要求する!!」
裁判長を気取ってるラングにほえる。何がしたいんだお前ら。というかアテナ、アルマ。いつまで腕にくっ付いてるつもりだ。
「状況説明?被告人は自分が何をやったのかわかっていないと言うのかい?」
「お前らが何をやりたいかも含めて何もわかんねぇよ!」
クランホームに帰還した途端、待ち構えていたアテナとアルマにいきなりとっ捕まってここまで連れて来られたんだからな。なお、アスターたちは【精霊界】で待機してもらっている。アーテルやアウル、カイザーも向こうだ。新入りをメンバーに紹介する為に、俺は一足先にクランホームに戻り他のメンバーを招集しようとしていたからだ。
「ふー、分からないか・・・なら仕方が無いね。一から説明してあげよう。・・・ロゼ」
「はい」
いつの間にか原告側の席に座っていたロゼさんが起立し、説明を始める。・・・どうでも良いがラングの裁判官姿やロゼさんのスーツ姿はこの茶番のためにわざわざ用意したのだろうか?
「我々【インフォガルド】は先日、【アークガルド】の皆さんのおかげで知り得た【忍者】クラスやレイドクエストに関する情報を検証、精査し、情報の販売を開始しました」
うん、それは知ってる。大盛況で大忙しと聞いている。ぶっちゃけこんな所で遊んでいる場合じゃないんでないかい?
「そんなおり、緊急クエストのアナウンスを受けました。おかげで我々を含む情報系クランは混乱しました。一体誰が、どうやって、何故このタイミングで、などで」
ふむ、情報系クランともなれば敏感に反応するだろうな。金になるかどうかはともかく情報収集は基本だろう。
「そんなか、我々のリーダーであるラングは、まさかこれもアルクさんの仕業では?と思って直ぐに確認のメールを出しました」
そうだな。ラングだけでなくガットやアテナやアルマからも来てたな。・・・そもそも何で俺の仕業かと思ったのかが疑問なんだが?
「しかし、しばらく待ってもメールの返信が無く、不審に思ったラングは私を連れて【アークガルド】のクランホームを訪ねました」
それは遺跡から脱出していたからだ。アスターたちをクランに誘おうと思っていたし、メールの返信は後回しにしていただけだ。
「しかし、アルクさんは不在で、メンバーの皆さんに話を聞けば、まさに問題の【精霊界】に行っていると言うではありませんか。さらにアヴァンさんが作成した発信機を持っていたカイザーさんがエリア3に居る事を突き止めたラングは、これはアルクさんの仕業だと確信したそうです」
・・・発信機・・・だと。アヴァンの奴、そんな物まで作っていたのか!?もうこれはストーカー行為じゃないか?・・・いや、カイザーが分かっていて所持していたのならそうでもないのか?まさか盗聴までされてないだろうな。当のアヴァンは傍聴席で親指を立てている。・・・俺は奴の恐ろしさに戦慄した。
「・・・おい、待て。仮に緊急クエストを起こしたのが俺だったとしても、こんな扱いされる謂れはないだろうが!?」
売買する情報が増えたのなら情報クランとしてはむしろ歓迎すべき事なんじゃないのか!?
「謂れはない、だって?君はただでさえクソ忙しい僕達にさらに厄介な情報を売りつけようとしていたんじゃないのかい?緊急クエストだけではなくそこに到るまでの情報もね」
・・・確かにアスターたちとも相談した後で、【拳武王の遺跡】やシークレットクエストの情報なんかを売りつけようとしていたが・・・これ以上、忙しくなるのは嫌だったってことか?
「しかも君は僕やロゼには内緒で【精霊界】の極上な食材を持ち帰ったそうじゃないか?アテナくんたちには数が少ないと誤魔化したそうだが・・・僕には分かる。・・・自分だけで美味しい物を食べてたんだろう?ずるいじゃないか!?」
「そっちかよ!?」
確かに俺とアーテルだけで、アスターから貰った【精霊イチゴ】は食べたし、【精霊キャベツ】は調理した物をメンバー内だけに振舞ったが・・・
「数が少ないのは本当だっての!?自分たちのクランメンバーにならともかく、余所のメンバーにまでおすそ分けするだけの余裕は無かったんだよ!!」
「では自分だけで独占しておいしい思いをしようなんてことは考えていなかったんだね?」
・・・
・・・俺は目を逸らした・・・ら、その先にアテナが居た。彼女は真っ直ぐな目を俺を見ていた。いたたまれなくなった俺は反対方向を向いた・・・ら、今度はアルマがいた。彼女は凍えそうな冷たい目で俺を見ていた。
どうにも出来なかったので俺は天を仰いだ。
「・・・では有罪で」
「ちょっと待て!・・・俺の無実を証言してくれる証人がちゃんといる!!」
ざわざわとこの場に居る俺以外の全員があわただしくしている。俺の言葉が予想外だったのだろう。
「・・・証人?」
隣にいたアテナが呟いた。思い当たる人物が居ないのだろう。当たり前だが。
「そうだ!こんな事もあろうか・・・とは思っていなかったが、有力なプレイヤーをクランに誘って皆に紹介する所だったんだ!!」
これは本当の事だ。嘘は言っていない。
「・・・へぇ、それは面白い。ではその証人とやらを早速呼んでくれるかい?」
何故か偉そうにラングが俺に命令する。正直イラっとするが今はそれどころではない。
「わかった。今から迎えに・・・」
「メールを出して呼びなよ。既にクランのメンバーなら【転移装置】でこのホームに来られるだろう?」
・・・チッ!せっかくの逃亡のチャンスが。
「・・・まあ、どうしてもって言うのなら、そのままの格好で迎えに行ってもらう事になるけど?」
・・・俺はいまだにアテナとアルマに(物理的に)板ばさみにされている状態である。
「・・・アテナさん、アルマさん、いい加減に離してもらえませんかね?」
・・・ぎゅーっとより一層、俺の腕を抱きしめてきた。・・・それが答えか・・・腕の感触が素晴らしいから許そう。
仕方なく俺は【メニュー】を開き、メールを送る。向こうにはアーテルもカイザーも居るから大丈夫だろう。・・・腕を動かす度に、腕に当たるアレがあれしてあれだったのは言うまでもないだろう。
・・・
「アルクさん?来ましたけど・・・何をしているんです?」
到着した途端、出迎えた俺を見て驚くアスター。うん、俺も何してるのかよく分かっていないんだ。
「うわー・・・両手に花っすね!さすがアニキっす!!」
・・・アシュラよ。お前はこの異常な状況を見てそんな感想しか出てこないのか。お前の普段の生活が心配になってきたぞ。
「戻りましたマスター」
「クルー!」
そしていつも通りのカイザーにアーテル。・・・待て、何故お前達はこの状況を普通に受け入れてるんだ。
そして問題の・・・
「あい!」
「まうー!」
「だーうー!!」
ミコトちゃん、ルドラくん、そして我が新しい【眷属】のアウル。
ちびっ子三人を見た俺以外のメンバーがフリーズした。
・・・アテナさんにアルマさんや。
そんなに腕を締め付けられるとさすがに痛いんですが?
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