謎は残るが
「なんだか大変な事になってしまいましたね」
・・・確かにそうだが、何時もの事だ、と思ってしまった俺は大分毒されているかもしれない。・・・どうやらシークレットクエストのクリアがトリガーになっていたようだなorz
・・・まあ良い。クエストの内容の確認だ。
【緊急クエスト クラン対抗戦 制限時間内に出来るだけ多くの敵を倒せ!】
勝利条件:制限時間の経過
参加制限:クラン単位の参加。一人クラン、仮クランでも参加可能
備考:このクエストにおけるペナルティは発生しません
最終討伐ポイントによるランキングによって報酬が変化
各クランごとの独立フィールドで行われます
クラン対抗戦か。初めて見る形式のクエストだな。要するに一番多くの敵を倒せば豪華賞品ゲット、といった所か。
仮クランというのは普段ソロでやってるプレイヤーとか、パーティでプレイしているプレイヤー達が一時的にクランとして登録する為のものだ。用が終わればそのまま解散になる。一人でもOKと言う事は誰でも参加は出来るという事だが・・・人数が多いほうが有利だよな。
一応既にどこかのクランに所属していても、別に仮クランに参加する事ができるが人数制限がある。・・・そうしないと全プレイヤーが所属する仮クラン一つが参加して皆一位、みたいなゲスい事が出来てしまうからだ。実際に出来るかどうかはともかく。
討伐ポイントというのは倒した敵のレベル×数で累積されていくポイントの事だ。Lv.1一体を倒せば1ポイントだが、Lv.50一体を倒せば50ポイントといった具合だ。・・・この手のタイプのクエストって自分のレベルと敵のレベルの見極めが結構面倒なんだよなぁ。
この手のタイプのクエストの場合、時間制限があるから、必ずしも高レベルの敵ばかり狙っていれば良いというわけではない。極端に言えばLv.100の敵1体を一時間かけて倒すより、一時間でLv.1の敵を101体倒した方がポイントは高いわけだ。とはいってもより高いポイントを狙うなら、敵のレベルと数を見極めて効率よく倒していかなければならない。
逆に言えば高レベルのプレイヤーが居なくても、そこそこのレベルと人数のプレイヤーが揃っていて、効率よく敵を倒せれば1位になれる可能性があるってことだな。
「面白そうっすね。ルドラのレベリングにも最適っす!」
「うー?」
確かに手っ取り早くレベリングするなら、高レベルの敵をたくさん倒すのが一番だ。高レベルではなくとも敵が無限湧きするなら、数でかなり稼げるはずだ。・・・無論、倒せれば、の話だが。
「そうだね。管理AIからも参加を推奨されているし、僕たちも参加してみたいね」
・・・そういえば前回の緊急クエストは強制だったけど今回は強制じゃないみたいだ。まあ、クエストが発生するのが明日みたいだし、プレイヤーの都合次第では参加できない可能性もあるからな。・・・前回だって、何か用事があった可能性もあった訳で・・・さすがに強制はやり過ぎだと運営も反省したのかもな。
ん?・・・またメールだ。
『ぜひぜひ参加してくださいね? by精霊界総合管理AI【スピアリー】』
・・・念押しのメール?言葉の裏に、参加しなかったらどうなるか分かってんだろうな?という思いが込められているような気がするのは俺の気のせいか?・・・あと何故アスターとアシュラにはこのメールが送られていないんだ?なんか俺たちの会話が盗聴されてるみたいで怖いんだけど?
「と、とりあえず、ここでやるべきことは終わったんだし、アスターたちのホームまで戻ろうぜ?」
話したいこともあるしな。
「・・・そうですね。いつまでもここに居るわけにはいかないですし・・・」
「そうっすね!・・・というかホントにここで終わりなんすよね?実はまだ先があったりとかしないっすよね?」
・・・ふむ、良い所に気づいたな、アシュラ。実は俺もその事を懸念していた。・・・もしこれで先があったらシークレットクエストクリアのアナウンスは罠だった事になるな。
「一応、カイザーに調べてもらってる。・・・だが、無いと思うぞ?あの壁画を見る限りな」
「「壁画?」」
首を傾げる二人に俺は指で指し示す。それは部屋の奥の壁。最初に入ってきた時はボロボロで何も描かれていなかったが、謎の【精霊】パワーで復元されたこの部屋の奥には壁画が姿を現していた。
「・・・なるほどっす!」
「確かに」
「あい!!」
「まう!!」
「だう!!」
全員でその壁画を見る。そこに描かれていたのは・・・笑顔で手を繋ぐ二人の兄弟、そして大勢の笑顔の人たちの姿だった。
「【剣鎧王】と【拳武王】。・・・それに格好からして部下の連中かな・・・さしずめ大円団の壁画といった所か」
さすがにこれ以上先は無いだろう。無いと思いたい。・・・あったら運営に文句言ってやる。
・・・と言いつつ一応調べたが何も起こらなかった。今度こそ、ここがゴールだったようだ。
「ふー、良かった・・・ここを壊さずにすんで」
「え?」
「あ、いや。なんでもない」
・・・実は、【剣鎧の精霊】と戦う時に、いざというときは【メカロイド】形態のアークカイザーに乗って遺跡ごとぶっ壊そうとか考えてたんだが・・・危うく大円団の壁画まで壊す所だった。
「マスター・・・コレヲ」
周囲を調べていたカイザーが戻ってくる。その手にあったのは・・・俺が砕いた【剣鎧の精霊】が付けていた兜、その残骸だ。
「・・・やはりこれだけは消えなかったか。・・・結局これはなんなんだ?アウル?」
「だう?」
アウル本人に残骸を見えせる。当人はじーっと見た後、ぷいっとそっぽを向いてしまった。・・・どうやら知らんらしい。クエストはクリアしたが謎は残ってしまったな。まあ、その内分かるだろう。この残骸は俺の【収納箱】にしまっておくことにする。
カイザーからも何もなしの報告を受けたので、もうここでやる事は何も無いと判断し、さっさと地上に戻る事にする。
・・・
道中にて。
「あーい♪あーい♪」
「まうー♪」
「だーうー♪」
「クルー♪」
「皆仲良しさんっすねー」
「まるでピクニックに来たみたいだね・・・場所が物騒すぎるけど」
なんて暢気に歩いている集団から一歩はなれてカイザーと話をする。
「・・・でちゃんと録画できてたか?」
「問題アリマセン」
実は先ほどの【剣鎧の精霊】との戦闘を小型偵察メカ【ビートル君】で録画しておいたのだ。公開しようとかそんなんじゃないぞ?単に自分達の戦い方を客観的に見て研究する為だ。
特に【韋駄天の俊走】はピーキー過ぎる。今までは何となくで使用してきたが、もうちょっと意識した使用が必要だと判断したのだ。録画映像を見返せば、自分の思った動作と実際の動作の差異を確認できるだろう。スポーツ選手がフォームのチェックをするみたいに。
「ソレトマスター、コチラモ・・・」
カイザーがまた別の映像を見せてくる。これは外の遺跡・・・ピラミッドの映像だ。時刻は・・・ちょうど俺たちが【剣鎧の精霊】と戦い始めた頃か。
ピラミッドの頂上に何かが留まっている。こいつは・・・
「【ヤタガラス】か・・・」
「ハイ、外ニ待機サセテイタ【ビートル君】ノ映像デス」
俺たちがピラミッド内部に突入している間、外に変化が無いか後で確認する為に【ビートル君】を外に置いて来ていたが・・・思わぬ形で役に立ったな。
ただし、映像の中の【ヤタガラス】は特に何かをするというわけでもなく少ししたら飛び去っていた。
「・・・何しにきたんだ?」
「不明デス。内部ノ様子ヲ伺ッテイタヨウデスガ、何モセズ立チ去ッタヨウデス」
わけが分からんな。
・・・ああ、もしかして俺たちが【拳武の精霊】がいた部屋の隠し通路に気づかず引き返していたら、俺たちの前にも姿を現したのかもな。ここにはまだ何かあるっていうヒントのために。だが俺たちが自力で何とかしたから、何もせず去っていったと。
んー、相変らず目的が見えないな。【剣鎧王】と【ヤタガラス】の間に何があったのかも不明だし。
今すぐにとは行かないがその内スッキリさせたいところだな。
「だう!」
「クルー!」
アウルとアーテルが、早く行こうよ!と言わんばかりに俺の手を取り引っ張る。
はいはい、分かりましたよ。
・・・これから宜しくな、アウル。
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