君の名は・・・
「だうー♪」
「かわいいっすねー・・・」
俺の手に抱かれている男の子の頬を指でツンツンしているアシュラ。
「・・・いやいや、可愛いのは分かるけど、他に気になる事があるよね!?アシュラ!?」
うん、俺もそう思うぞアスター。
「何言ってるんすかアスター。アニキが戦い始めてからわけ分からん事ばっかりっすよ?」
・・・だめだ、コイツ。考える事を放棄してやがる。
「・・・それもそうだね」
なんてこった!アスターまで思考放棄してしまった!!・・・え?俺のせいなのか?
「だう?」
・・・可愛らしく首を掲げているが、この子が何かやったのは間違いないよな?
【豪剣アディオン】と【攻鎧アルドギア】の空欄だった装備SLOTに【剣鎧の精霊】という表示が増えている。説明文を見る限り、強化されたようだが、そういう効果なのか?というか依代ってなに?
【拳武の精霊】の時はこんな事なかったし、アスターが驚いている所を見るとミコトちゃんのときもこんな事は無かったんだろう。となると何で今回だけ?【剣鎧の精霊】が特別だったってことか?
腕の中の男の子を見る。男の子も俺を見つめ返す。
・・・まあ、良いか。なんか細かい事はどうでもよくなってきた。あとでラングやガットあたりに聞いてみれば良いだろう。
そんなことより、この子に名前を付けてあげないとな。
うーん、今回は何が良いだろう。
俺が悩んでいると男の子は俺の腕から抜け出し、とある方向へふわぁーっと移動し始めた。その先にいるのは・・・ルドラくんである。
「まう?」
ミコトちゃんと飛び跳ねていた(何の為かは不明)ルドラくんはこちらにやってくる男の子を見ると静かに対峙した。
「だう!!」
「うー!!」
・・・なぜかファイティングポーズで構えあう二人。まさかここで兄弟喧嘩をおっぱじめるつもりか?・・・ああ、いや、兄弟ではないのか?【拳武王】と【剣鎧王】は兄弟でも、二人に宿っていた【精霊】の方は無関係なのか?
何をするつもりなのかとハラハラしながら見ていると二人が動いた。ルドラくんは鋭く拳を突き出す!対する男の子は迎え撃つように掌を突き出す!!
二人はお互いに手を突き出しながら空中で静止した。
・・・ルドラくんがグーで男の子がパーである。
ルドラくんは膝から崩れ落ち、男の子が勝利の雄叫びを上げた。
「「「ジャンケンかよ!?」」」
俺とアスターとアシュラの心が一つになった瞬間である。
・・・どうやら二人の間に禍根は無いようだ。ミコトちゃんを加えた三人で飛び跳ねている(だから何で?)。
おっといかんいかん、三人の遊びを見てないで名前を考えないと。
・・・そうだな。アーテルはラテン語で黒色だったから、ラテン語で金色・・・アウルムだったか。・・・アウルにしようか。アで始まってルで終わるから、アーテルとお揃いだし。
「よし決めた!」
空高くジャンプしていた男の子が落ちてきた所をキャッチし、抱き上げる。
「だう?」
「君の名はアウル、だ!!」
声高らかに宣言する。男の子は最初、何を言っているのか分からない様子だったが、自分の名前だという事がわかったようで・・・
「だう♪」
と笑ってくれた。よしよし、気に入ってくれたようだ。
「クルー♪」
いつの間にか【幼体】となったアーテルが近づいてくる。
「よしよし。ご苦労だったな、アーテル。お前の弟分だ。アウルの事よろしくな」
「クルッ!」
「だーうー!」
うんうん、仲良くやっていけるようで何よりだ。アウルを背に乗っけたアーテルがそこらじゅうを歩き回っている。・・・はしゃいでるな。
と、その時。
ピコン。
と妙な音がなった。
この音は・・・アナウンスか?
【メニュー】を開いてみると・・・
『シークレットクエスト【ガティアスの呪縛を打ち破れ!】をクリアしました
クリア対象者に100万Gを贈呈します。
初回クリア対象者にSP20を贈呈します。
初回クリア対象者に称号【精霊の解放者】を贈呈します』
・・・なんかいつの間にかクエストをクリアしていたらしい。
ちなみにシークレットクエストとは発生条件やクリア条件が不明な特別なクエストの一種である。事前情報が無い限り狙ってクリアする事はほぼ不可能、今のところ運の良いやつしか出くわす事すらないという隠しクエストらしい。ソースはラング。
その代わり、シークレットクエストをクリアした場合は一風変わった報酬が受け取れるという話だったが・・・【収納箱】には何も増えていないな。・・・もしかして【豪剣アディオン】と【攻鎧アルドギア】のSLOTに【剣鎧の精霊】が増えたのが報酬かな。
そう考えれば、【拳武の精霊】のときに同じ事が起こらなかった理由も分かる。
あとは称号か。
【精霊の解放者】
ガティアスの呪縛から精霊を解放した者に贈られる称号。
パーティにいる精霊のステータスアップ。
【精霊】を強化する称号か。パーティにいる時だけ限定みたいだが無いよりずっと良いだろう。
「ア、アニキ!大変っす!!」
「・・・どうした、アシュラ?」
何故か焦っているアシュラ。
「ボクたちのところにもアナウンスが来たっす!」
「・・・なに?」
二人の【メニュー】を見せてもらうと、二人にもシークレットクエストのクリアのアナウンスが来ている。内容も報酬や称号も同じだ。
「どういうことでしょう?僕たちは見ていただけなのに・・・同じ部屋にいたからでしょうか?」
確かにクエストは1パーティ単位で受けるとは限らないが・・・
「これは駄目っすよ!見てただけで報酬や称号を貰っちゃったら単なる寄生っすよ!!」
・・・ああ、だからアシュラは焦ってたのか。わざとじゃないんだから素直に棚ぼた、ラッキー!ぐらいに思っていれば良いのに。
「落ち着けアシュラ。シークレットクエストがどこからどこまでの事を指してるのかわからんだろう?多分だが【拳武の精霊】との戦いから、いや、この遺跡に入ってからクエストは密かに始まってたんだろう。お前らにもクエスト報酬を貰う資格は十分にあるから!」
むしろ俺たちが最後のおいしい所だけ掻っ攫った形になっていないだろうか?もしそうなら、非難されるべきなのははむしろこっちの方である。
「・・・仮にそうだったとしても、あの【剣鎧の精霊】は僕たちだけでは絶対に倒せなかったはずですからね。アルクさんたちのおかげなのは間違いないですよ」
・・・チッ、上手く丸め込めると思ったのに、そこに気づいたかアスターは。
「・・・まあ、僕たちが今更どうこう言っても取り消しは出来ないでしょうし、この借りは別の形で返しますよ」
・・・物分りが良くて義理がたいのは良いことだと思うんだが、本人が良いって言ってるんだからそれで納得して欲しい所だ。別に恩を着せる為にやったわけではないんだし。
あれだな。シークレットクエストがシークレットなのは仕方が無いのかも知れないが、シークレット過ぎるとプレイヤーに余計な軋轢を生みそうだ。・・・運営に要望出しておこう。
ピコン。
え?また?
と思ったら今度はアナウンスではなくメールだった。
・・・んんー?アテナ、アルマ、ガット、ラングから?皆一斉になんなんだ?
・・・内容は皆同じだ。
今度は何をやらかした?
だと?
一体何のことなんだ?と首をかしげていると。
「あれ?アナウンス、シークレットクエスト以外にも来てるっすよ?」
アシュラの言葉で確認してみると確かにアナウンスがもう一つきていた。内容は・・・
「緊急クエストの予告?」
・・・バリバリに嫌な予感がするんだが。
『精霊界のとある場所の封印が解かれ、スタンピードの発生予兆が確認されました。スタンピード発生予想時刻は明日○月×日12:00です。緊急クエストを発令致しますのでプレイヤーの皆さんは予想時刻までに精霊界エリア1に集合し、スタンピードに対処してください』
・・・あれー?・・・いや、まだだ。俺たちが原因とはどこにも・・・
ん?またメール?
『トリガーとなった皆さんもぜひご参加ください。 by精霊界総合管理AI【スピアリー】』
・・・やっぱ俺たちだったorz
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