新たなスキル
【剣鎧の精霊】は大剣を構えながら突進してくる。少しは休ませろよな。
・・・なんて、俺の心の叫び(割と切実)なんて聞こえるはずも無く、迫ってくる【剣鎧の精霊】を迎撃するしかない。
「【結晶の障壁】!!」
俺が唱えた魔法により、【剣鎧の精霊】の前面に半透明の結晶の壁が地面から生え、その足を止める。
説明しよう!俺が使ったのは【結晶魔法】という無属性の魔法である。効果は単純、様々な形の結晶を作りだす、規模や硬度はMPに依存する、以上である。
なのでこんなこともできる。
「【結晶の短剣】!」
俺の周囲に結晶で出来た十数本の短剣が宙に浮き、【結晶の障壁】を綺麗に真っ二つにした【剣鎧の精霊】に向かって飛んでいく。一つ一つを大剣で打ち落としていた【剣鎧の精霊】だが、数の多さに諦めたのか、大剣を盾にして防御の構えを取る。
・・・足を止めることには成功したが、ダメージはあんまりないな。なら次だ。
【結晶魔法】は無属性ながら魔法であるため、物理攻撃の効かない通常の【精霊】や【邪霊】にも効果がある。ただし、無属性の為、属性効果は期待できない。相手にもよるが単純なダメージだけを考えるならアテナの【爆発魔法】やアルマの【凍結魔法】のほうが上だろう。
だが、【結晶魔法】にはこの魔法でしか出来ない利点もある。
「【結晶粒子】」
俺の周囲に今度は無数の結晶の粒が浮かび上がる。キラキラと光を反射して中々綺麗だが、鑑賞のために出した物ではない。
「【全天の属性】!行けぇ!!」
無数の結晶の粒はさらに虹色の光を放ちながら【剣鎧の精霊】へと向かっていく。
【結晶魔法】は魔法の中では珍しく他の属性を【魔法付加】できるのだ。通常、魔法に他の魔法属性を付加することは出来ない。例を挙げるなら【火魔法】に水属性を付加することが出来ない、と言う具合だ。
そもそもの話、【火魔法】に水属性を付加するより、【火魔法】と【水魔法】をそれぞれ使った方が効果的だし、簡単だ。それなりの理由が無い限り大抵のプレイヤーもそうするだろう。
ただし、ここで一つ、不思議な話だが、確かに【火魔法】に水属性を付加することは出来ないのだが、火属性と水属性を同時に付加することは出来るのである。まあ、【魔法付加】は基本、武器や防具に使うのが普通なのでその兼ね合いもあるのだろう。
それはそれで便利ではあるのだが、武器攻撃は魔法攻撃に比べて規模が小さい。剣での攻撃は剣が届く範囲でしか効果が無いが、アテナの【爆発魔法】やアルマの【凍結魔法】はその何倍もの規模で効果がある。
では魔法攻撃力の低い俺が何とか効果的に魔法を使えないかと考えに考え抜いた末に取得したスキルが【結晶魔法】である。攻撃だけではなく、防御にも使える中々優秀なスキルであり、【魔法付加】と組み合わせれば大規模な属性付き魔法攻撃も出来るのだ!
・・・なんだかルールの穴を突いているような気がしないでもないが【メニュー】の【ヘルプ】にある【結晶魔法】の説明にもちゃんと載っている内容なのでバグ利用とかではないはずだ。
実はあんまり人気のあるスキルではないらしいが、俺は【スキル獲得券】があったこともあって取得した。・・・決して目立ちたいからとか、他の奴が持っていないとかの理由で選んだわけではない。
なお、このスキル、対【精霊】向けに取得したスキルではあるのだが、バトルトーナメントでアテナやアルマにぶつかった時用に考えて取得したものでもあったりする。私見だが、【全天の属性】と【結晶の障壁】のコンボはアテナの【爆発魔法】やアルマの【凍結魔法】も防げると思う。・・・おそらく・・・多分・・・そうであってほしい。
そんなわけで、俺が持つ魔法属性全てが付加された結晶の粒が無数の弾丸となって【剣鎧の精霊】に向かっていく。さすがにこれを防ぐのは不可能だと悟ったのか大きく後退して行く【剣鎧の精霊】だったが、【結晶粒子】はしつこく追いかけていく。遠隔操作が可能なのもこの魔法の利点だな。
やがて逃げ切れない事を感じたのか、防御姿勢を見せる【剣鎧の精霊】に容赦なく結晶の粒が雨のように降り注ぐ。一発一発の威力は低くても、チリも積もればの精神で攻撃を続けていく。さらに・・・
「【グランディスガトリングガン】斉射」
「クルー!!」
カイザーのガトリングとアーテルの【シャイニングフェザーインパクト】でさらに追撃する。鬼のような猛攻に【剣鎧の精霊】も防御一択である。・・・結晶と弾丸と光の羽の雨あられだな。【剣鎧の精霊】にはちょっと同情する。・・・おっと今の内にMPポーションで回復しておかないとな。
さて、そろそろ、攻撃が終わるがどんな塩梅かな。
・・・さすがに少しは効いているか?鎧がちょっと汚れた程度にしか見えないが。
通常の防具であれば攻撃を受ける度に損傷度が増えていき、100%になれば効果がなくなるはずだが、【剣鎧の精霊】はどうなんだろうか?防具扱いなのか、体の一部扱いなのか・・・防具扱いならば、今までの攻撃で、損傷度が増えていったはずだ。この調子で攻撃を続ければ、いずれ鎧が壊れ、本体にダメージを与えられるようになるはずだ。
一方で体の一部扱いなら、今までの攻撃でHPにダメージを与えられているはずだ。ただし、その場合、終始あの硬い鎧を相手に攻撃を続けなければいけないことになる。
出来れば前者だとありがたいのだが、【精霊】という性質上、後者だろうな。魔法による属性攻撃も有効のようだし、ひたすら攻撃あるのみ、かな。幸い【剣鎧の精霊】の武器は大剣だけのようだし、遠距離攻撃をメインにすれば・・・
なんて思っていた時が俺にもありました。
【剣鎧の精霊】はその場で大剣を上段に構えた。俺たちとの距離は30メートル近くあるので、どんなに頑張っても届くような距離ではないのだが・・・
「!?」
【剣鎧の精霊】が剣を振った途端、斬撃が飛んできた。
「【結晶の障壁】!!」
咄嗟に結晶の壁を作るが、スパンッといともたやすく真っ二つにされた。その隙に避ける事は出来たのだが・・・
マンガやアニメでよくある飛ぶ斬撃・・・いつか俺もやってみたいとは思っていたが、敵に先を越されるとは・・・おのれ。
・・・それはともかく【剣鎧の精霊】さんは遠距離攻撃もできるようだ。距離を取っていても全然安全じゃなかったわ。となるとポーションによる回復も厳しくなってくるな。
当の【剣鎧の精霊】は斬撃を飛ばすと同時にこちらに向かってきていた。より一層の凶悪なオーラを身に纏いながら・・・容赦ないな、まったく。
魔法も使わず、剣しか持っていないのに遠距離攻撃も出来き、パワーもスピードも向こうが上とはなんて理不尽なんだ。
・・・いよいよもって、マジで全力で行かないと勝てないな、これは。
「・・・行くぞ、アーテル、カイザー。出し惜しみは無しだ」
「クルッ!!」
「了解デス」
3対1で悪いな、【剣鎧の精霊】。
そうでもないとお前には勝てそうも無いんでな。
代わりに終わらせてやるよ。
長年続いた、お前の悪夢をな。
作者のやる気とテンションを上げる為に
是非、評価をポチっとお願いします。
m(_ _)m




