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待ち受ける者

「なんか今までと様子が違うっすねー」


隠し通路を発見した俺たちは再び階段を下っていた。


「そうだね。あいかわらず壁は光ってるから暗くは無いんだけど・・・」


暗くは無いが、そのせいで周囲の状況もはっきり見えてしまう。つまり・・・


「ボロいな」


そう、先ほどまでとはうって変わって隠し通路はもう何十年、何百年と放置されていたかのように朽ち果てていたのだ。さすがに崩れて生き埋めにはならないだろうと思いたい。


「遺跡と言う意味ではむしろ正しい姿だがな。むしろ今までのほうがキレイすぎた」


そう、今にして思えば遺跡の中も外も、遺跡というわりに朽ちた様子はほとんど無かった。石作りの構造物は一見、歴史を感じさせるような物だったが、よくよく見ると、ホコリすらなかった。


「本機ノスキャン結果デハ、コノ遺跡ハ【レイタイト鉱石】ニ蓄エラレタ【精霊】ノ力ニヨッテ、保存サレテイタモノト推測サレマス」


・・・便利な存在だな【精霊】ってのは。・・・ん?待てよ?


「ということはこの先には【精霊】は居ないって事なのか?」


「・・・回答不能、スキャンガ弾カレマシタ」


ありゃりゃ。カイザーでも奥に何があるかはわからんか。まあ、カイザーのスキャンを弾くなにかがあるというのはわかったが。


「そういえば、さっきの部屋以降、壁画もないっすね」


「そうだね。様子が全然違うし、なんだか別の遺跡に紛れ込んだみたいだ」


別の遺跡・・・それは俺も感じていた。もしこの場所が()()なのだとしたら、【拳武王の遺跡】とはつまり・・・


「あ!扉っすよ!!アニキ!」


アシュラの言葉にハッとすると、彼女の言うとおり、巨大な扉があった。やはりこの扉も朽ちている・・・いや、このボロボロな感じは・・・壊そうとした跡か?それに扉にかかれた紋様みたいな物も気になる。


「・・・なんだか、猛烈に嫌な予感がするんですが」


・・・俺もだアスター。気が合うな。


「クルルルルッ」


「あーうー」


「うーーー」


【眷属】ズもなにやら気がたっている様子だ。中に居るものを警戒しているのか?


「・・・とりあえず、さっきみたいにちょこっとだけ開けてみて様子を見てみるか・・・」


俺は扉に手をかけて少しだけ開けてみる。・・・すっごい重たいんだけど。


ちょこっとだけ開いた扉の隙間からそろーっと中の様子を見る。


・・・


・・・直ぐに扉を閉じる。


「ふーー」


思わずため息が出た。


「・・・え!?ど、どうしたんすか?アニキ!?」


「・・・やっぱり中に何かいたんですか?」


心配そうに詰め寄るアシュラとアスター。しかし、俺は無言で扉を指差す。自分で見てみろ、と。


ごくり、と唾を飲んだ二人が、俺がやったように扉を少し開いて中の様子を見る。・・・扉が重くて二人がかりだったが・・・中を見て直ぐに扉を閉じた。


「・・・やばいのが居たんですが」


「なんなんすか!?あれは!?」


言いたいことは分かる。俺も()()を見たと同時に【看破】を使ったからな。それで見た結果がこれ。


【剣鎧の精霊 (ガティアス) Lv.57】

???????????????????????


・・・ガティアス~!!あいっかわらず余計な事をしてくれるな!!


「おかしくないっすか!?エリア3になんでLv.50台の敵が出るっすか!?」


「そうだね。【拳武の精霊】だってLv.39だったはずなのに・・・」


・・・そうか、二人は【ガティアス】の事は知らないのか。


「あの【ガティアス】っていうのは何にでも取り憑いてレベルを激上げするっていう、迷惑なワールドエネミーだ。正体はよく分からんが、プレイヤーのレベルが40以上になると姿を現す厄介な敵だ。・・・今までモンスターや【機械兵】に取り憑いてるのは見たが、【精霊】も例に漏れず、らしい」


本ッ当にどこにでも出てくるな。たしか、カイザーの時にも出てきたぞ。というかカイザーも取り憑かれてたし。まったくなんなんだ【ガティアス】ってのは。


「ワールドエネミー・・・【ガティアス】・・・あれがそうですか。掲示板でもたまに話題に上ってますね。まさかここで遭遇するとは思ってもいませんでしたが」


それは俺もだよ。【ヤタガラス】の画からして神様関係かと思ったら【ガティアス】がらみでした。


「確かに【ガティアス】ってのもあのレベルも気になるっすが、いましたっすね。【剣鎧の精霊】」


そう、【ガティアス】も気になるが、目的であった【剣鎧の精霊】は見つけたことになる。


一瞬見ただけだったが直ぐに分かった。全身を黄金の全身甲冑(フルプレートアーマー)で覆い隠し、これまた黄金の大剣を持って、何故か部屋の中央に仁王立ちしていたのだから。


顔まで(ヘルム)で覆い隠されていて、表情は確認できなかった。【精霊】と言うよりは、どこかの騎士団長といった風体だ。おまけに強そうな闘気を【ガティアス】のオーラがごちゃ混ぜで強敵の雰囲気をバンバン出していた。


というか普通に【ヤマタノオロチ】よりレベルが高いんですが?・・・アテナたちも連れてこればよかったな。


「・・・ちなみにアシュラ、あの【精霊】を【眷属】には・・・」


「無理っす!!」


・・・きっぱりばっさり断られた。だよね。


「・・・あの【剣鎧の精霊】に【ガティアス】が取り憑いているのは仕様なんでしょうか?それとも今回たまたま偶然出くわした?」


・・・ああ、そうか。偶然出くわしたんなら、ここで出直した次来たときも同じように【ガティアス】に取り憑かれた状態とは限らないって事か。でもなぁ・・・


「・・・仮に偶然だとすると、逆に今の【剣鎧の精霊】の状態に出くわしたのはレアなのかも知れんぞ?つまり、チャンスでもあるのかもしれん」


もっともあの状態がデフォである可能性もあるが。というか、それなら色々説明が付く事がある。


「・・・もし、【剣鎧の精霊】が最初からあの状態のままだったとしたら、【拳武の遺跡】っていうのはもしかしたら・・・封印なのかもしれないな」


俺の言葉にアスターがピンと来た様だ。


「・・・なるほど。何らかの事情で【ガティアス】に取り憑かれた【剣鎧王】をこの場所に隔離して、その上にこの場所を守るための遺跡を用意した、ってことですね?【拳武王】に【拳武の精霊】が宿っていたように、【剣鎧王】に【剣鎧の精霊】が宿っていて、一緒に【ガティアス】に取り憑かれてここに・・・」


「・・・もしかしたら上にあった【剣鎧王】と【ヤタガラス】が対峙していた壁画も、【ガティアス】に取り憑かれた【剣鎧王】を【ヤタガラス】が封印した場面だったのかもしれん。そして【拳武王】自らがここの番人になったという可能性もある」


もしくは【ガティアス】に取り憑かれたとはいえ、兄を見捨てることが出来なかった弟が、兄を守るために守護者になった、とかな。そう考えればこの遺跡の不自然さにもつじつまがあう。


「しかし、そうなると『剣鎧王と拳武王の伝説』に載っていた伝説とは随分展開が違いますね?」


「いや、もしかしたら肝心な部分が抜けているのかもしれないぞ。【ガティアス】や【ヤタガラス】の事をはしょった結果、ああいう伝説になったとも考えられる」


意図的に隠されているのか、語り継がれる中で美化されいった結果なのかは、今の俺たちには判断できないな。


「・・・」


・・・もし、仮にだ。この考えが当たっているとなると、あの【剣鎧の精霊】は【ガティアス】によって長年、そして現在進行形で苦しめられている事になる。


いや、【剣鎧の精霊】だけじゃない。


「うー?」


【拳武の精霊】・・・ルドラもそうだったことになる。


・・・なら迷う事はないよな。


「・・・うっし!決めた!!意地でも【剣鎧の精霊】を俺の【眷属】にしてやる!!」

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