遺跡の謎
「【ヤタガラス】?・・・神様っすか?」
疑問符を浮かべて首を掲げるアシュラ。そしてアシュラの真似をして首を掲げるミコトちゃんとルドラくん。・・・緊張感ないな。
「・・・その言い分だと遭遇したことがあるみたいですね?」
お!アスターは鋭いな。
「ああ。前にレイドクエスト絡みで見かけたことがある。・・・見かけただけで何も無かったけどな。ラング・・・情報クランの話だとレイドクエストや隠しクエストなんかの近くで目撃するプレイヤーがいたらしい。ただし、高レベルのプレイヤーばかりな上、情報を隠している奴もいるだろうから、情報は少ない。導きの神というリアルのほうの伝説から考えると何かしらのヒントを与えるためのNPCなんじゃないかと予想されてる」
ぶっちゃけラングの奴も情報集めには難航しているらしい。掲示板にはどこにも載っていないし、たまたま顧客のプレイヤーに聞いてみたら何人か目撃した奴がいたという程度だ。
「え?・・・じゃ、じゃあ、ここにもレイドクエストがあるんすか!?」
「・・・わからん。そもそも壁画・・・画であって【ヤタガラス】本人・・・本鳥?ではないからな」
【ヤタガラス】本鳥がいれば何かあるのは確定なんだが画じゃあな。それに何故か【ヤタガラス】に敵意を持っているアーテルが無反応だし、本鳥がいる可能性はほぼ無いと思う。
「・・・そうなると、この画がそもそも何なのか疑問が残りますね。見た感じ【剣鎧王】と【ヤタガラス】が敵対しているように見えますが・・・」
「ああ、だがそんなことは『剣鎧王と拳武王の伝説』にはどこにも載っていなかった。神様と戦ったんならそれこそ伝説で語られても良いはずの大事件だったはずだ。それにこの壁画がここ・・・【拳武王の遺跡】になんであるのもわからん」
【拳武王】の姿が無い以上、彼に関する画ではないはずだ。なのに何故ここに、しかも【拳武の精霊】がいるこの場所にあるのか。
「【剣鎧王の遺跡】にあるのならまだ納得がいったんだが・・・近くにあるはずの【剣鎧王の遺跡】も無いし・・・やはり『剣鎧王と拳武王の伝説』に載っている話と実際の出来事には差異があるとみていいだろう」
伝説に限らず、昔の話なんていうものは伝えられている内にどこかで歪められてしまうものだ。それが意図的でアレ偶然でアレ、だ。ただし、最初に発見できなかった【拳武王の遺跡】が『剣鎧王と拳武王の伝説』という本を読んで発見できた事を考えると、載っている内容全てが異なるというわけでもないと思う。
問題はどこまでが本当でどこからがそうでないのかということなんだが・・・
「もしかしたら【精霊界】にある遺跡だけ調べても分からないのかもな」
「・・・【武術界】にある実際の遺跡も調べないといけないってことですか?」
あるいはこっちの遺跡がヒントで【武術界】にある遺跡に本命となるなにかがあるのかもしれない。そうなるとここで悩んでいても埒が明かないかもしれないな。
「うー、なんだか難しい話っす」
・・・アシュラが頭から煙をプシューっと出して唸っている。・・・そんな難しい話してたか?
「・・・ルドラは何か知らないっすか?」
「うー?」
そしてとうとう【拳武の精霊】であるルドラくん本人への直撃インタビューである。いや、確かにそれが一番手っ取り早いのかもしれないが、そもそも言葉が通じないだろう。・・・そもそも記憶とかあるのか?俺には生まれたての純真無垢な子供にしか見えないんだが?
「まう!!」
なんて思っていたらルドラくんがある一点をちっちゃい指で指差した。ルドラくんが指差したのは壁画の剣士の部分・・・【剣鎧王】が描かれている部分だった。
「・・・ここか?」
壁画自体は巨大だったが、描かれている【剣鎧王】は普通の人間サイズだったので普通に手が届いた。その部分に手を触れながらルドラくんに確認する。ルドラくんはうんうん頷いている。・・・言葉分かるんだね。
「ここに何か・・・なんだ?」
俺の体が光りだした?・・・いや違う。光っているのは俺が装備している【攻鎧アルドギア】と【豪剣アディオン】だ。まるで何かに反応するかのように二つの装備が光りだした。
「アニキ!?」
「大丈夫ですか!?」
「クルー!?」
「マスター!?」
アシュラ、アスター、アーテル、カイザーが心配そうに駆け寄って来る。
「あうー!!」
「まーうー!!」
ミコトちゃんとルドラくんは何故か万歳をしている。・・・なんでだよ?
「いや、大丈夫だ・・・おお?」
今度は壁画に触れた手が震えだした。いや違う。壁画が動いている?
ゴゴゴゴゴ、と壁画の一部分、【剣鎧王】が描かれている部分がスライドして、ぽっかりと四角い穴が空いた。
「・・・おーっす」
「・・・隠し扉、ですか?」
「・・・だろうな、どう見ても」
よく見ると、穴の先に階段が見える。さらに地下へと続く道の入口のようだ。
「・・・す、すごいっす!本当に隠しクエストがあったっす!!」
アシュラがまるで隠し財宝を見つけたかのようにはしゃいでいる。だが一方でアスターは怪訝そうに俺を見ている。
「・・・今の、どう見てもアルクさんの大剣と鎧に反応して開きましたよね」
「ああ」
どう見ても、な。いつの間にか光は消えているが、どう考えても無関係ではないだろう。
「その装備には何か曰くがあるんですか?」
「いいや?この二つは素材から集めてガット・・・知り合いの【鍛冶士】に作ってもらったプレイヤーメイドの装備だ。素材も【剣鎧王】に関係ある物なんて使ってないし、特殊な効果も付いていないはずだ」
強いていえば☆12の強力な装備というくらいだ。・・・まさか、ガットが何か仕込みを!?・・・なわけないか。仮に何か仕込んでいたとしても奴のことだ。必ず近くにいて何かが起こったときにドヤ顔を見せてくるに違いない。・・・まさか尾けられてないよな?
「では何故でしょう?・・・ルドラが指さしたからでしょうか?」
「まう?」
「おー!きっとそれっす!偉いっすねー、ルドラは!!」
「うー♪」
アシュラによしよしされてご機嫌なルドラだが、どうだろう?確かに場所に関してはそうだろうが、俺の装備が光った理由が分からん。銃も刀も装備してたのにそっちは光ってないし、戦闘服もそうだ。何故、【攻鎧アルドギア】と【豪剣アディオン】だけが反応する?
「・・・悩んでいても始まらない、か。俺たちは先に進むがアシュラたちはどうする?」
気を取り直して先に進むことにするが、その前に確認だ。
「勿論アニキたちと一緒に行くに決まってるっす!!」
当然、と言わんばかりに胸を張るアシュラだが・・・
「だが、お前らの目的は既に果たしただろう?」
ルドラくんを指差す。元々ここに来た目的はアシュラのための武術系の【精霊】を見つけることだったはずだ。そしてその目的は十分に果たされている。この先に何があるのかはわからないが補給的な意味でも一度引き返す手もある。・・・まあ、それでも俺たちはこのまま行くが。元々そのために【拳武の精霊】をアシュラに譲った面もあるしな。
「みずくさいっすよ、アニキ!ここまで来たらどこまでもお供するっす!!」
いや、そんな事をしてもお前らにメリットは無いぞ、といいたいんだが・・・
「そうですよ。それにもしかしたらこの先でもルドラの力が必要になるかもしれませんよ?」
・・・む。確かにアスターの言うとおり、その可能性は否めない、か。
何より、引き返す気が無いな、コイツラ。
「・・・分かったよ。ただし、この先に俺が気に入った【精霊】がいたら俺の【眷属】にするからな」
「もちろんっす!」
「分かっていますよ」
・・・これ以上言いあうのも面倒だ。
「・・・なら、行くか」
こうして俺たちは先に進み始めた。
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