認められた者たち
先程までとはうって変わって怒涛の攻めをみせる【拳武の精霊】。
正拳、貫手、手刀、膝蹴り、上段蹴り・・・一つ一つの技のすさまじいキレ。長年の研鑽により培われたものだというのが分かる。・・・とてもじゃないがNPC・・・AIによる動きとは思えん。
武道家としての技量は完全にアシュラより上だ。逆に今も戦えているのはアスターのフォローが大きい。しかし、【拳武の精霊】も引き出しが多いな。・・・山突き、カウロイ、うぎゅうはい・・・惜しい、避けられた。・・・違う違う、よく避けたな、アスター。
「【サイコシールド】!!」
ここに来てアスターの戦い方も変わった。アスターが防御役なのは変わらないが、正面から受け止めるのではなく、シールド自身を使って上手くいなす方向へチェンジしていた。・・・まあ、さっきのを見れば正面から受け止めるのは無理だと思うよな。
「【竜脚乱舞】!!」
そして、体勢を崩した【拳武の精霊】にすかさずアシュラの蹴り技を叩き込む。二人の動きのキレは落ちていない。攻撃の合間を縫ってアスターが自身とアシュラを回復させている。【拳武の精霊】に回復手段があるかどうかは不明だが、このまま攻め込み続けられれば勝機はあるかもしれない。
・・・そういえば、そういえば【拳武の精霊】の闘気も小さくなっている。パンチも先ほどより威力が落ちているように見えるし・・・本気を出したんじゃなかったのか?・・・いや、そういえば【拳武の精霊】は最初から・・・今もそうだ・・・だとしたらさっきのがもう一度来る。後はそのことをアシュラたちが気が付くかどうか・・・
「うおりゃあああ!!」
アシュラはこれまで以上に猛攻を仕掛けている。手を緩めるつもりは一切無いようだ。もう後が無い事が分かっているのだろう。そして、やはり【拳武の精霊】はアシュラの攻撃を防御している。そして・・・
「がぁあああああああ!!」
先ほどと同じ【拳武の精霊】の咆哮!そして膨大な闘気!!
やはり、そうか。
詳細は分からんが【拳武の精霊】はダメージを蓄積するスキルを使っているようだ。そして一定以上蓄積すると自分の力として解放する事ができる。避けられる攻撃を避けず防御していたのがその証拠。そして一度解放して攻撃を行うとスタンダードな状態に戻るわけだ。
「でぃぃやぁあああああ!!!」
二人に迫る【拳武の精霊】。どうする気だ?あの威力とスピードではいなす事も避ける事も・・・
「【サイコクラッチ】!!【サイコシールド】!!【サイコキネシス】!!全開だ!!!」
【拳武の精霊】の全闘気を込めたパンチをアスターは受け止める気だ!
だが、それでは・・・
バリィィィン!!
やはり破られた!!このままじゃ二人とも・・・さらに・・・
「あう!!」
!?【精霊憑依】が解けたのか!ミコトちゃんがアスターの体の中からはじき出された。これじゃあ・・・
「【暗黒の大鎌】!!」
なんとアスターはパンチをくらいつつ、同時に漆黒の大鎌を出して【拳武の精霊】に突き刺した!捨て身のカウンターだと!?
「!?」
さしもの【拳武の精霊】も驚いたのか、一瞬パンチを緩めてしまった。その隙を・・・
「もらったっす!!」
逃すことなくアシュラが【拳武の精霊】の背面に回りこみ、
「【竜撃双掌】!!!」
渾身の両手掌打が無防備な【拳武の精霊】の背中に直撃した。
・・・
崩れ落ちる【拳武の精霊】。
しかし、それはアシュラも、アスターも同じだ。
ダメージもそうだが気力も魔力も使い果たしたのだろう。
「両者ノックダウン・・・か?」
といってもこれは試合ではなく勝負だ。アシュラもアスターも死に戻ってはいないし、【拳武の精霊】も消えてはいない。決着はまだ着いていない、ということだ。
「うぅ・・・あーうー・・・」
おっとまだミコトちゃんがいた。よわよわしくアシュラとアスターに近づいて回復させようとしている。・・・が、MPがもう残っていないのだろう。何も起こらない。
「あうー・・・あーうー・・・」
・・・なんかとてつもなく切なくなる場面を見せられているんだが・・・思わず駆け寄って手伝ってあげたくなる。しかし、まだ勝負が・・・
そんな理性と本能のせめぎあいに苦悩している間に・・・
「・・・う、大丈夫だよ、ミコト」
「もーへとへとっす」
おお!二人とも立ち上がった。根性あるな二人とも。だが・・・
「・・・」
【拳武の精霊】も立ち上がっていた。さすがにダメージはあるようだが、あれだけやってまだ立ち上がれるとは・・・
「う・・・」
「クッ・・・」
「あう!!」
それを見てアシュラ、アスター、そしてミコトちゃんまでも戦闘体勢を取る。・・・ミコトちゃん、君のファイティングポーズは意味があるのか?
しかし、そんな三人とは対照的に【拳武の精霊】は動こうとしない。構えようともしない。ただただ、三人を見ているだけだ。・・・と、その時。
パリ・・・パリィィィン!!
【拳武の精霊】の仮面にヒビが入ったかと思うと砕けて床に落ちた。そしてあらわになる【拳武の精霊】の素顔・・・と思ったが・・・なんだ?よく見えない。
短髪にもかかわらず、何故か目元に影が出来ていて素顔を見ることが出来ない・・・これは・・・あれだ!!マンガなんかでよくある覚悟を決めた男の顔、なぜか目元が黒い影のような物で見えなくなり口元で微笑んでいる様子だけが見えるという、カッコいい男・・・いや、漢の描写だ!!
・・・なぜそこまで素顔を隠したがる?
いやいやいや、それよりも勝負はどうなったんだ?見た感じ、闘気もないし【拳武の精霊】はもうこれ以上、戦う気が無いみたいだが・・・ああ、覚悟を決めた表情ってそう言うことなのか?
「・・・何をしてるんだ、アシュラ」
「・・・へ?アニキ?」
今度こそアシュラたちに歩み寄る俺たち。
「相手が待ってるぞ。【契約】だ」
「・・・え?」
「・・・アルクさん?それじゃあ・・・」
「・・・認められたんだろう、【拳武の精霊】に」
ここまで近寄っても【拳武の精霊】は一向に反応を返さない。ついでに目元も見えない。・・・それは置いておいて、何かを待っているようだ。
「・・・早くしろ、アシュラ」
「・・・は、はいっす!!」
俺にせかされてようやく理解したのかアシュラは【拳武の精霊】に近寄り、その胸に手を添える。
「・・・あ、あの!!・・・ありがとうございましたっす!!【契約】!!」
最後にお礼を言い、【精霊】と【契約】を結ぶアシュラ。・・・やはり笑っているな、【拳武の精霊】。単純にアシュラたちが規定量までHPを減らせたからなのか、ひたむきに頑張る二人の姿の心打たれたのか、それとも・・・二人の姿に誰かさんたちの面影を重ねたのかは・・・本人のみぞ知るって所か。
抵抗無く【契約】を受け入れた【拳武の精霊】が光に包まれた。その姿はモンスターを【眷属】にするときの【幻獣卵】・・・卵のようだった。・・・新しく生まれ変わるって事なのかもな。
【拳武の精霊】を包んだ光の卵はどんどん小さくなっていく。・・・小さくなっていく?なぜ?
一定の大きさまで小さくなった所で光の卵にヒビが入り、やがて砕け散った。
そして後に残ったのは・・・
「まう!!」
・・・何と言うことでしょう。
そこにいたのはなんとも元気で可愛らしい男の子ではあーりませんか。
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