不屈の闘志
「【竜貫突】!!」
先手を取ったのはアシュラだった。指を真っ直ぐに伸ばした突き・・・貫手か。あれはリアルだと指先を相当鍛えていないと逆に指を痛めるはずだ。だが、普通にパンチするよりも殺傷力が高い危険な技でもある。要するに素人が使うような技ではないということだ。
「!!」
お、【拳武の精霊】が腕を使って受け止めた。だが先ほどよりも威力が高かったのか、少し後ずさった。本当に少し、だが。
しかし、あの【拳武の精霊】、何故避けないんだ?余裕で反応していた以上、避けることは可能なはずだ。自分の防御力に自身があるのか?それとも・・・
「【竜撃掌】!!」
おお、アシュラが畳み掛ける。今度は掌打か・・・内部にダメージを浸透させる技だが、リーチが短く殴り合いには向かないが・・・やはり、相手の【拳武の精霊】は腕で受け止めたな。ボクサーが腕でパンチをガードするように。しかし、仮面のせいで表情は分かりにくいが、いくらガードしてもダメージは通っているはずだ。
「・・・」
今度は【拳武の精霊】の方が反撃に出た。アシュラの攻撃後の隙を逃さない、的確なカウンターだ。しかも拳に闘気が集中している・・・ように見える。あのパンチを食らったらただではすまなさそうだ。
「【サイコシールド】!【サイコキネシス】!!」
「・・・!!」
パリィィン!!
むむ!アスターが二人に間に割って入った。そして【拳武の精霊】のパンチを十字にクロスさせた腕で受け止めた。・・・いや、アスターに当たる直前、パンチの勢いが落ちた。何かが砕けるような音も聞こえた。おそらく【サイコシールド】とかいう見えない盾で防ごうとしたんだろう。もっともアスターに当たったということはその盾も破られたということだが。
それにしてもアスター、あのパンチを受けてよく吹っ飛ばなかったな。・・・ああ、【サイコキネシス】って触れずに物を動かす力だっけ?その力で自分の体を固定したのか。なるほど。
「【竜星脚】!!」
そしていつの間にか上空へジャンプしていたアシュラの空中からの蹴り。相手のカウンターをさらにカウンターで返す形になったな。
「!?」
さすがに驚いたのか、その場から飛び退く【拳武の精霊】。・・・アシュラの蹴りを受けて地面にクレーターが・・・馬鹿力だな。恐ろしや。
なんて戦々恐々としている間も攻撃を繰り返すアシュラとアスター。いや、正確にはアシュラが攻撃に専念し、【拳武の精霊】からの攻撃はアスターが防御している。そのアスターが受けたダメージも【生命の精霊】であるミコトちゃんとの【精霊憑依】の効果で自動回復していくから、こちらサイドは事実上ダメージが無い事になるのだが・・・
まさかアスター、アシュラの盾に徹する気か?【暗黒の大鎌】も消してるし、大胆な事を考えやがる。ある意味、理にかなった戦闘スタイルなのかもしれないが・・・アシュラのスキルラッシュで押し切るつもりか。
「【サイコクラッチ】!!」
「【竜撃乱舞】!!」
アスターが【拳武の精霊】の動きを止めた一瞬の隙を突いて、アシュラのパンチラッシュだ。・・・息ぴったりじゃないか。合図も何も出していないのにしっかり連携できている。まるで熟練の夫婦のようだ。・・・え?実はリアルではそう、とかないよね?・・・考えないようにしよう。
それにしてもアスター、アシュラは勿論だが、【拳武の精霊】の動きにもちゃんと対応できている。相手のパンチやキックもよく見てるし、防御の仕方もちゃんとした型になってるしな。・・・あいつもリアル武道経験者か。
というか、本当に何で俺とアシュラがPvPしたときに加勢しなかったんだ?今の戦いぶりを見れば、こっちが危なかったかもしれないのに(意地でも負けたかもしれない、とは言わない)。
しかし、敵もさる者。アシュラの攻撃の直撃をいまだに食らっていない。巧みにガードされている。並みのモンスターや【邪霊】だったら、とっくに倒していただろうに・・・敵ながらアッパレだ!!
「でりゃああああ!!」
バキィィン!!
お、仮面が割れた。アシュラのハイキックがかすったらしく口元の一部だけだが【拳武の精霊】の顔面を覆っていた仮面が割れた。これはアシュラの気迫勝ちか?
割れた仮面の下からわずかに口元が見える。そして・・・
「ぐ・・・がぁあああああああ!!」
【拳武の精霊】が初めて言葉を発した。言葉と言うより咆哮だが・・・
「うわっす!!」
「ウグッ!!」
同時に発せられる圧倒的な闘気。その闘気に二人は一瞬ひるんでしまった。隙ができたとも言う。そして【拳武の精霊】はその隙を逃さなかった。
「あああああああ!!」
「アグッ!!」
「グフッ!!」
【拳武の精霊】の強烈なパンチによって、吹っ飛ばされるアシュラとアスター。・・・先ほどよりさらに強くなっている。パワーもスピードも。アシュラはともかく、防御を固めていたアスターですらパンチ一発で・・・
これはまずいな・・・俺の見通しが甘かったか。あの【拳武の精霊】、俺が思っていたよりも大分強い。加えて二人の装備がまずかった。今更言ってもどうしようもないが、武器はともかく防具については二人の装備はそこそこの物だ。俺が今装備しているヴィオレが作った戦闘服やガットの作った鎧とは比べ物にならない。
現状の二人のレベルに防具が追いついていない。そのせいで余計にダメージを受けてしまっている。幸い二人とも、まだ死に戻ってはいないようだが、このままでは時間の問題か。
見通しが甘かった事は深く反省するとして、このままでは・・・
・・・手を貸そうか、アシュラたちに。俺たちも戦闘に加われば【拳武の精霊】も倒せるはずだ。【眷属】化についてはアシュラに譲るか次回持越しでも良い。少なくともここまで来てで横から掻っ攫うつもりは無い。
「アーテル、カイザー・・・」
周囲を警戒していたアーテルとカイザーに声をかけ、参戦しようとした時・・・
「アニキ!!」
止められた。
アシュラに。
アスターも。
いや、二人とも立ち上がっていた。
ダメージは相当深そうだが、それでも二人の眼は死んでいなかった。
「最後までやらせて欲しいっす!!」
「僕たちは大丈夫ですから・・・」
二人は【拳武の精霊】から目を離すことなく、俺に力強く言い放った。そんな二人を【拳武の精霊】も黙ってみている。
・・・ここで俺たちが手を出すのは無粋かな。
俺たちは一歩下がった。手を出さない事を示すためだ。
二人は再び戦闘体制に入る。
それに答えるように【拳武の精霊】も構える。戦闘再開だ。
・・・仮面の下にうっすら見える【拳武の精霊】の口元が、心なしか微笑んでいるように見えた。
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