拳武の精霊
「ボクたちだけ・・・っすか?」
アシュラが若干不安そうな視線を送ってくる。が!俺は心を鬼にして突き放さなければならない!
「そうだ。正確にはアシュラとアスター、ミコトちゃんで、だな。元々のパーティで行けってことだ。パーティ編成を組みなおそう」
ポチポチっと【メニュー】で操作して2パーティに分かれる。
「・・・言ってる事は分かるんですが、随分と急ですね?」
アスターも不安げ、いや、何かを怪しんでいる様子だな。
「・・・急って事はないんじゃないか?ここまで来るのに協力はしてきたが、元々は武術系の【精霊】の【眷属】化が目的だっただろう?【拳武の精霊】は一体しかいない。つまり、今回目的を果たす事ができるのは一人しかいないってことだ」
「うっ」
ようやく二人にも分かったらしい。本来であれば【拳武の精霊】を巡って、俺とアシュラが争う事になるのだが、それをアシュラに譲る、と言っているのだ。代わりに自分たちの力で手に入れろ、と。
そもそもの話、アシュラの【拳武の精霊】の入手に、今のところ部外者の俺が手を貸す理由はあまり無い。成り行き上、ここまで一緒に来たわけだが・・・あの壁画さえ見なければ手を貸しても良かったんだけどなぁ。
「・・・なるほど、おっしゃりたい事は分かりましたが・・・アルクさんは他に気になる事があるみたいですね?」
・・・するどいね、アスターくん。
「・・・まあ、そうだがお前達が気にするような事じゃない。それにお前達の実力からしても勝てない相手じゃないはずだ。俺が居たら、むしろ横から掻っ攫っちまうかもしれないぞ?」
これも本心だ。敵が大軍とかならまだ、手助けを考える余地があるが、敵が一体ならレベルから考えても十分に勝ち目があるはずだ。それに武闘派のアシュラには自分たちの力で【精霊】を入手して欲しい、と言う思いもある。
「・・・わかったっす!!ボクたちの力で【精霊】を【眷属】にしてみせるっす!見ててくださいっす!アニキ!!」
・・・どうやら伝わったようだ。
「・・・そうだね。ここまで僕たちはオマケみたいなものだったし、最後は自分たちの力でなんとかしないとね」
「あい!」
アスターとミコトちゃんも分かったようだ。ミコトちゃんがアーテルの背から離れてアスターの傍に。・・・アーテルが若干寂しそうだ。よしよし。
三人は準備を整えると扉を開け、中へと入っていった。俺たちも見学がてら中に入る。もっとも隅っこの方でジッとしているが。それと・・・
「・・・アーテル、カイザー。念のため、妨害が無いよう、周囲に気を配っていてくれ」
「クルッ!!」
「了解デス」
何も聞かず従ってくれるのは素直にありがたいな。もしくは俺と同じ懸念を抱いているのかもしれん。
そんな俺たちに構わず、【拳武の精霊】に近づいて行く3人。・・・アシュラよ。何でそんな堂々と歩み寄っていけるんだ。もっと警戒しろ。
「さあ!勝負っすよ!!」
ビシッ!っと指差すアシュラ。うん、気持ちは分かるが、いらないよねその宣言。
それを聞いたのかは知らないが【拳武の精霊】が組んでいた腕を解き、構える。・・・ファイティングポーズだ。
それにしてもあの精霊、よく見ると仮面を被ってるな。あれじゃあどんな顔なのか分からないな。黒の短髪だということが分かる程度だ。あと着ている服が・・・拳法着か?装飾が施された拳法着を着ているが、足はブーツ、手の部分は素手だ。本当に武器は持っていないらしい。
・・・にしてもあの仮面、泣き顔のように見えるが、気のせいか?まあ、仮面に反比例して【精霊】さんのやる気はマックスみたいだが。闘気が全身からにじみ出てくるようだ。
先手を取ったのは【精霊】の方だった。アシュラに向かって突進し、大きく拳を振りかぶる。
「おぅわっす!!」
当のアシュラは【精霊】の拳を受け止めるも吹き飛ばされた。・・・うん、今のはアシュラが悪いな。体格もパワーも上そうな【精霊】の拳を真正面から受け止めるとは・・・そこは避けるか、いなす所だろう。壁にぶち当たって土煙が凄い。
「アシュラ!クッ!・・・【サイコクラッチ】!!」
すかさずアスターが先ほどのように敵の動きを抑えようとしているが・・・
「・・・!!」
バキィンという何かが砕け散る音と共に【精霊】の動きが自由になる。なるほど、パワー負けしているとあんな風になるわけだ。・・・だが、一瞬でも動きを止められれば十分か。
「【魔闘技:脚風】!!」
速攻で戻ってきたアシュラが【精霊】に突進して行く。
「【竜星脚】!!」
アシュラは大きくジャンプすると、その勢いのまま蹴りを放つ。ライ○ーキックとも言う。
「・・・!!」
しかし、【精霊】はその蹴りを・・・片腕でガードしやがった。しかも後ずさりすらしないとは・・・何と言うパワーだ。そして強靭な足腰。【武術界】風に言うのなら間違いなく達人クラスだな。
「おりゃああっす!!」
おお!アシュラが【精霊】の腕を踏み台にして頭上にジャンプ!そのまま踵落しを!!・・・器用な奴。
「!?」
【精霊】の方も驚いたのか、バックステップで距離を取る。・・・仕切りなおしのようだ。
「・・・強いっすねー」
アシュラが足をプラプラさせている。・・・痛かったのだろうか?【拳武の精霊】さんは実はコンクリート並に硬いのだろうか?
「・・・だが、勝ち目はあると思う」
アスターが手を見ながら言う。
「【サイコクラッチ】で捕まえた時、体を掴む感触があった。【槍の中級精霊】の時は槍ごと掴んだが、あいつにはちゃんと全身がある」
武道家の武器は己の肉体そのものってか?どういう理由かは分からんが【拳武の精霊】は完全に実体化しているようだ。つまり、MPが尽きて、魔法攻撃が出来なくなっても戦う手段があるってことだ。ただし・・・
「・・・アイツの見切りもパワーもスピードも半端じゃないっす。下手な攻撃は通用しないっす!」
「長引けばこちらが不利、か・・・」
そう、戦えば戦うほどこちらの技を相手に見せることになる。そして見切りの上手い奴には同じ手は何度も通用しない。一度見た技は二度と、って奴だ。長引けば長引くほど攻撃が当たらなくなる。となると・・・
「全力で一気に決めるっす!!」
「・・・わかった!ミコト!!」
「あい!!」
アスターがミコト呼んだ。アレをやるのか。
「【精霊憑依】!!」
ミコトちゃんが光を発しながらアスターの体の中に吸い込まれるように入っていく。そして今度はアスター自身が緑色の光を発した状態になる。【眷属】の【精霊】と一体化する【精霊憑依】だ。
「行くっすよー!!【魔闘技:拳火】【脚風】【手凍】【雷足】【光指】【闇蹴】!!!」
おお、アシュラは【魔闘技】とやらの重ねがけか。昔は俺もよくやったなー、属性の重ねがけ。今の俺には【全天の属性】があるから一回一回スキルを発動しなくても良いんだけど。
ふむ、二人とも全力で行くみたいだな。だがそれは相手も同じようだ。
今の間に【拳武の精霊】も闘気全開で構えている。それはもうサ○ヤ人のように。
さてはて、どんな戦いになるのか、見ものだな。
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