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剣鎧王と拳武王

「・・・おっと、これだな」


「あったっすか?」


ミコトちゃんとアーテルの面倒をアスターに押し・・・頼み、俺とアシュラで目的のブツを探し、ようやく見つけることができた。


「アニキ、それが例のブツですかい?」


「おうとも。これがいずれ金の卵に化けるんだよ」


・・・すまん、ちょっと危ない連中ごっこをしてしまった。でもこの本に載ってる情報にも期待しているのは本当だ。


本のタイトルは『剣鎧王と拳武王の伝説』だ。早速、中を読んでみる。


『とある国に幼い二人の兄弟がいた。

当時、その国は隣国との戦争が激しく、戦争孤児がどんどん増えていた。

二人の兄弟の両親もまた、戦争に巻き込まれ命を落としていた。

二人の兄弟は大切な物を守るため、武の道を歩む事に決めた。

兄はどんな敵をも切り裂く剣士へ、弟はどんな敵をも打ち砕く武道家へ。

二人はお互いに手を取り合い、どんな苦難にもめげず己を鍛え続けた。

 : 

 :

やがて時は経ち、二人の兄弟はその類稀なる才能とたゆまぬ努力により、国で一、ニを争う戦士へと成長を遂げていた。

その武勇は国の王からも認められ、常に戦争の最前線に立って国を守り続け、数多くの武勲を挙げていた。

そんな二人を国の民たちも国の守護者として大いに称え上げた。

兄は強大なる剣と鎧を身に纏い、国で最強の戦士と呼ばれていたことから剣鎧聖、

弟はあらゆる武術を極めながらも己の体のみで戦っていた事から拳武聖と呼ばれていた』


「おお、なんだか本格的な伝説っぽくなってきたっす!でも呼び名が違うっすね?王、じゃなく聖、って書いてあるっす」


「多分、ここからさらになにかあるんだろ。この話の中では国の王が別にいるみたいだし、国一番の戦士だからって王を名乗るのは問題があったんじゃないか?」


「ああ、なるほどっす」


・・・しかし、逆に言えば・・・さっきの冒険者エルクスの話といい、この本のタイトルといい、王を名乗っているっていうことは・・・なんか嫌な予感がするな。


『剣鎧聖と拳武聖の存在は隣国を震え上がらせた。

しかし、二人に脅威を覚えていたのは隣国だけではなかった。

二人の功績が認められ、貴族としての地位を与えられる事になった時、それは起こった。

二人に与えられた領地はなんと国の中でも、もっとも危険なモンスター達の蔓延る広大なジャングルだったのだ。

当然、そのような危険な場所に暮らす領民などいるはずもなく、褒美として与えられる土地としてはあまりにも過酷な場所であった。

当時の彼らを慕う多くの者達が異議申し立てをしたが、国の大臣を始めとした貴族たちが強引に取り決めを行ったのだ。

国の王もこの決定には反対したのだが、大臣をはじめとした王以外のほとんどの者がこの決定を支持し、強引に押し切られた形となった。

当然のように彼らを慕う部下や国民たちが不審感を抱くようになった。

このままでは国を真っ二つに分けての内戦になるかと思われたが、二人の兄弟は喜々としてその決定を受け入れた。

こうして二人の兄弟は未開の地の領主となった。

 :

 :

二人の兄弟は未開の地であり危険なモンスターのひしめくジャングルを瞬く間に攻略していった。

そこにいたのは二人の兄弟だけではない。

二人の部下にして彼らを慕う多くの勇猛なる兵達がいた。

彼らは皆、戦争孤児だった。

二人の兄弟は自分達と同じ境遇の者を決して見捨てず、己の部下として大切に育てていた。

その結果、彼らの率いる部下達は国の中でも最強と言われるまでの兵となっていた。

そんな彼らの活躍により未開の地は瞬く間に平定されていった。

 :

 :

未開の地ゆえに手付かずの自然と豊富な食材に溢れたその地は国を潤すきっかけとなった。

それまで貴重な食材の宝庫だったその地は、その危険性故に誰も近づく事が出来なかったが、二人の兄弟とその部下達の手により、その恩恵を多くの国民の下へ運ぶ結果となった。

それのみならず、貴重な食材は国外へも輸出され、その国の国力をより一層強固な物へとするのに一役買っていた。

無論、国の王も大変喜び、二人の兄弟にはより一層の地位と名誉が与えられる結果となった』


「おお!逆境を跳ね返すどころか、それを利用してのし上がるとは・・・正に英雄譚っすねー」


「・・・」


「・・・どうしたんすか?アニキ?」


「・・・いや、何でも」


『それを快く思わないのがその国の大臣や貴族たち。

そして、その国と戦争を行っている隣国である。

両者共に二人の兄弟が邪魔者ではあるが、一騎当千の二人の排除は困難を極める。

そこで両者はあろうことか裏で手を結び、二人の兄弟を亡き者にしようと画策し始めたのである。

 :

 :

そして運命の日。

 :

 :

大臣より、隣国からの侵入者の報を聞いた二人の兄弟は部下数人を引き連れ、侵入者の討伐へと乗り出した。

しかし、その報は罠だったのだ。

10人にも満たない侵入者たちにより巧みに誘導され、おびき出された先にあったのは10万もの隣国の兵。

いかに二人の兄弟が強かろうと多勢に無勢であった。

退けば10万もの兵が一気に国へ攻め入ってくる事になる。

かといってこのままでは死は確実。

そこで兄は決断した。

たった1人で10万もの兵を相手取る事を。

そして弟と部下たちを逃がすための盾となることを。

無論、弟も部下たちも反対した。

死すならば共に、と。

しかし、兄は言った。

ここで全員討ち取られれば皆、犬死である、と。

生きて戻り、兵を率いてこの地へと舞い戻るのだ、と。

それがこの国を守る事に繋がるのだ、と。

その言葉を聞き、弟と部下たちはその場より立ち去った。

血の涙を流しながら・・・

 :

 :

弟が兵を率い、戦場へ戻ってくる頃には3日が経過していた。

そこで弟と兵達が見たのは衝撃の惨状であった。

動く者は誰一人としておらず、ただただ物言わぬ屍が積み上げられ、あたり一面血の海と化していた。

弟は探した。

幼き頃よりずっと一緒だった兄の姿を。

常に憧れ、その背を追いかけ続けた兄の姿を。

そして見つけた。

数え切れぬ屍の上に立つ兄の姿を。

剣は折れ、鎧は砕け、全身を真っ赤な血で染めた兄の姿を。

体中に剣と槍と矢が刺さり、既に息絶えながらも、その両の足で立ち続ける兄の姿を。

弟の慟哭が戦場に木霊した。

その悲痛な叫びを兵達はただただ聞き続けるしかなかった。

 :

 :

怒りに燃える弟と兵達は、その足で隣国へ攻め入った。

なみいる敵を駆逐し、隣国へと進軍して行く弟と兵達。

一方で10万もの兵を失った隣国は浮き足立ち、また、長年の戦争による国力低下のために、鬼神のごとく攻め入ってくる兵達相手になすすべもなかった。

弟と兵達は1週間にも渡る不眠不休の強行軍を敢行し、瞬く間に隣国の首都へと攻め入った。

そこからさらに3日にも及ぶ激戦の末、ついに隣国は滅ぶ事となった。

 :

 :

隣国を滅ぼした弟は、その際に捕らえた隣国の首脳の1人により真実を聞かされた。

隣国と結託し、自分と兄を亡き者にしようとした祖国の大臣や貴族たちの裏切りのことを。

兄を殺された弟は復讐を果たすべく祖国へと舞い戻ろうとした。

しかし、そこで弟の足を止めたのは亡き兄の言葉だった。

国を守れ、と。

兄の言葉に従い、復讐を思い止まった弟は兵達と共に祖国へ凱旋し、事の次第を王に報告した。

事情を知った王は激昂した。

そして弟に命じた。

大臣と貴族たちを粛清せよ、と。

その命に従い、謀略に関わった大臣や貴族たちは一人残らず弟の手にかかり粛清されたのであった。

 :

 :

その後、弟は王の娘と結婚し、次代の王となった。

しかし、弟は言う。

真の王は兄である、と。

国を守り、国のために死んでいった兄こそ真の王である、と。

その言葉に前王も、彼らを慕う部下達も、そして国民皆が賛同し、二人の兄弟が切り開いた彼の地に真の王の墓が建てられた。

そして、弟は言った。

自分が死す時、自分の墓も兄と同じ場所に建てよ、と。

こうして王となった弟の死後もなお、この国は武人の国として現在も名を馳せることになる。

そして二人の兄弟の物語は伝説となり、兄が剣鎧王、弟が拳武王と呼ばれるようになった。

この伝説は今でも語り継がれており、二人の兄弟の墓は武を志す者の聖地として今でも多くの者が訪れる事となる。

また、この伝説により、武人を軽んじる者は国を滅ぼす、という諺が各地に広まったと言う』


・・・


「うう・・・ぐすっ」


「・・・マジ泣きするなよ、アシュラ」


どんだけ感情移入してんだよ。これでも色々はしょったんだぞ。・・・まあ、俺も感化されてしまったが。


うーん、単なる調べ物だったはずが、予想外の物語を見ることになってしまった。

作者のやる気とテンションを上げる為に


是非、評価をポチっとお願いします。


m(_ _)m

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