図書館ではお静かに
だが、この本を読んで疑問に思っていたことがいくつか解消されたな。
「そうですね。【剣の精霊】のような人間の作り出した武器の【精霊】というのも、この記述で何となく分かりますよね?」
それぞれの世界で進化した【精霊】か。【銃の精霊】なんて良くわからない存在にもこれで説明がつくか。もしかしたら遺跡っていうのも【遺跡の精霊】みたいなのがいるのかもな。
・・・ん?待てよ?
「ってことは、俺がまだ行っていない各世界の各場所の情報とか、まだ見ぬモンスターの情報もここで見れるってことか?」
まさかの攻略wikiがここに!?
「あー、それなんですが、自分たちが直に行ったことの無い場所とか、エンカウントしていないモンスターの情報なんかは読むことが出来ないんすよ」
「何故に!?」
「それについてもここの本に書いてありますよ?」
今度はアスターが持ってきたのは『異世界人について』という本だった。
『異世界からやって来た人間には、世界から言語翻訳というギフトが与えられる。
ギフトとはスキルとは異なり、自分の意思で制御するものではなく、その人間の一部として機能するものである。
このギフトにより、異世界の言葉を理解し、意思の疎通を図る事ができるのだ。
ただし、言語翻訳というギフトは完璧ではない。
実際にその言語と何らかの形で触れ合うことで、その言語を解析し、効果を発揮するのだ。
なお、言語の解析は属する世界でのみ有効である。
したがって別の世界で別の世界の言語に触れても解析は行われない』
・・・もったいぶった事を言っているが、要するにネタバレ対策か。よくある、異世界なのになんで言葉が通じるんだ問題はこういう裏設定があったらしい。他にも色々あるのかもな。
「わからないことも多いですが、逆に分かる事もありますよ?例えば、このモンスター図鑑なんかは名前や種族の他にも、属性や種族なんかも載ってますし。」
アスターが渡してきたのは『モンスター図鑑 武術界編』とある。
なになに・・・本当だ。バケネコは大きな音が苦手?ヌリカベは斬るより突く攻撃が有効?・・・色々載ってるな。こういうところは攻略wikiっぽいな。・・・べヒーモスやヤマタノオロチの情報とかもあるかもな。また今度探してみようか。
「なるほどな。まあ、何となくわかった。今後もお世話になりそうな場所だな。・・・それで、肝心の武術系の【精霊】に関する情報が載ってるっていうのはどの本だ?」
「こっちっす!」
案内されたのは【精霊界】のコーナーにある本棚の一つ。・・・熱心に本を読んでるプレイヤーが結構いるな。だが、この膨大な本の中から目的の情報を見つけるのは至難の技のように思えるんだが・・・お疲れ様です。
「これです」
俺が誰に対してかわからない敬礼をしているところにアスターが一冊の本を持ってきた。・・・そんな怪訝そうな顔で俺を見ないでくれ。
本のタイトルは『冒険者エルクスの冒険録 vol.52』とある。
「・・・なんか手作り感丸出しのようなタイトルだな。どっかの冒険者が残した自叙伝って所か」
「そうみたいですね。一応、冒険者エルクスっていうのは100年くらい前の冒険者みたいですよ。世界各地を巡って著書を書き、寄贈している、と」
この本もその内の一つってことか。さっそく本を開き、読み進めていく。
『やあ!僕は偉大なる冒険者エルクス!!未知と神秘を求めて冒険を続ける冒険者さ!!』
・・・
・・・俺は1ページ目の1行目の文を読んだ後、そっと本を閉じ、アスターへと返す。
「いやいやいや、ちゃんと読んでくださいよ。重要な情報が載ってるのは確かなんですから」
「しかし1行目から読む気が失せたんだが。自分で自分を偉大とか言っちゃってる痛い奴の自叙伝だろ?これ?」
「・・・気持ちは分かりますが、まずは読んでみてくださいよ。出だしはアレですが中身は普通・・・ですから」
出来ればそこは言い切って欲しかった。だが、ここまで来て読まないというのも負けた気がする(誰にかは不明)ので仕方なく本を開く。最初の方は読む価値がないと判断し(自己紹介が延々と続いていた)、パラパラと本をめくって目的のページを開く。
『XX月XX日
精霊界のエリア1、2と探索を続け、様々な精霊と出会い、様々な邪霊との戦闘を行った。
それらの日々は苦しくも充実した日々だったと僕は確信している!
しかし、魔法系の精霊とは出会えているが、武術系、機械系の精霊とはまだ出会えていない。
今日からエリア3の探索を開始するが、エリア3のジャングルに武術系の精霊がいると僕は考えている。
というのも、武術界でジャングルといえば、あの伝説が思い出されるからさ!
そう、剣鎧王と拳武王の伝説さ!
武術界に行った事があるくらいなら、誰もが一度は耳にしたことがあるだろうこの伝説の舞台にはジャングルが出てくる。
精霊は強い思いの篭った物や場所ほど宿りやすいといわれている。
だから、有名な伝説の舞台となった場所やそこにある遺物なんかは精霊が宿りやすく、精霊界に還ってきた後も似たような環境に住み着く可能性が高いんだ!
・・・まあ、僕の経験則による予測だから絶対ではないんだけどね!
とにもかくにもジャングルの中に何かしらの発見があると見て、僕と仲間達は早速、冒険の旅へ出発することにしたのさ!!
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XX月XX日
ジャングルを探索すること3日。
僕たちはとうとうジャングルの奥地で見つけたんだ!
武術界ではとうに失われたといわれる伝説の地を!!
こここそが伝説にある拳武王の遺跡に違いない!!
僕は今、猛烈に感動している!
精霊界に来て、精霊に関わるだけではなく武術界の伝説にも触れることが出来るなんて!!
さあ、みんな!!
さっそくこの遺跡を探索だ!!
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XX月XX日
先日発見した遺跡には確かに武術系の邪霊がいた。
ただ、魔法系の邪霊のようにはいかないようだ。
僕たちは魔法系のパーティで固めていたのだが、存外の苦戦を強いられ一時撤退を余儀なくされてしまった。
しかし、僕は諦めない!
今度は武術系のメンバーも加えてリベンジする予定さ!!
今後も僕の活躍をご期待あれ!!』
・・・一体、誰に向かって言ってんだ?コイツ?
「読み終わったっすか?」
同じく何かの本を読んでいたアシュラに声をかけられる。アスターは・・・ミコトちゃんに絵本を読んでいた。絵本もあるのね、ここ。
「ああ、とりあえず重要そうな箇所だけだけどな。・・・ちょくちょく余計な一言が入っていて、何度か本を閉じそうになったがな」
「・・・タハハー、まあ、ちゃんとした小説とか資料ってわけでもないっすから、ある程度主観が入っちまうのはしょうがないんじゃないっすか?」
・・・だとしても寄贈するんならもっとちゃんと体裁を整えて欲しかった。・・・それとも体裁を整えてこれなのか?
「・・・まあ、良い。この本を信じるなら確かにジャングルの奥地に武術系の精霊がいるようだ。ただ気になるのが・・・」
「武術界に伝わるっつー伝説のことっすね?剣鎧王だか拳武王だかいう」
俺は武術界に何度も足を運んでいるがそんな伝説は聞いたことが無い。・・・もっとも、そんな伝説があるかどうかなんて人に聞いたことがないから、案外適当なNPCに話を振れば教えてくれるのかもしれないが。
「・・・そうだ。ここには武術界について書物もあるんだろう?武術界のコーナーに行って調べてみようか」
「良いっすねー。自分もお供するっす。」
アスターは・・・ああ、ミコトちゃんが絵本に夢中なのね。・・・アーテルがミコトちゃんの隣で一緒になって絵本を読んでるな。
なんの絵本を読んでいるんだ?
えーっとなになに?・・・『桃の精霊の邪霊退治』?
・・・
・・・楽しんでるみたいだし邪魔しないでおこう。
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