農業って大変だな
===移動===>【精霊界】エリア0
「お疲れ様っす!アニキ!!」
新たに仲間になった地竜、テールをひとしきり可愛がったあと、アーニャは早速ブランたちと共にテールのレベリングへと向かった。早いうちに【成体】化できるようにしたいらしい。これでアーニャの戦力も大幅アップだろう。俺たちもうかうかしていられない、とそれぞれの目的に向かって行動開始となった。
俺とアーテルは昨日の約束どおり、【精霊界】に来ていた。約束の時間や場所などは特に指定していなかったのでメールしようと思っていた矢先、【転移装置】の前でアシュラが待っていた。
「何でここに居るんだ、アシュラ。まさか、ここで待っていたんじゃないだろうな?」
時間も場所も約束してないのに待ち伏せしてたら、軽いストーカーだぞ。・・・ストーカーにしては明るすぎて元気すぎるけどな、コイツ。
「いえいえ、ボクもたまたまここでアスターと待ち合わせしてたんすよ。そこにアニキが来たんで挨拶しただけっす!!」
ああ、そうなのか。人を待たせといて楽しく騒いでた、なんて気まずいからな。迷惑になっていないようなら何より。
「あ、アルクさん、こんにちは!」
「あーうー!!」
丁度そこへ、アスターとミコトちゃんがやって来た。ミコトちゃんは今日も元気いっぱいだね。お?フワフワと俺の・・・ではなくアーテルのところへ。仲が良いね、君たち。
「こんな所で奇遇ですね。これから僕たちの畑兼ホームに向かうんですが・・・」
「そうか。それじゃあ、邪魔じゃなければ連れて行ってくれ」
「邪魔だなんてとんでもない。約束ですからね」
「そうっす!アニキならいつでも大歓迎っすよ!!」
「あーうー!!」
・・・たった一日で随分懐かれたような気がする。もうちょっと警戒したほうが良いんじゃないかしら。お兄さん心配になっちゃうよ。
とにもかくにも、俺たちは【転移装置】を使って目的の場所へと移動を開始するのだった。
「・・・なあ、アスター。アシュラってあんな話し方だったか?」ボソッ
「ああ、アシュラ、敬語になれていないんで、あんな話し方になるんですよ。ついでにアニキの舎弟キャラで行く、と」ボソッ
「・・・そうか」ボソッ
・・・まあ、本人のやりたいようにさせとこう。
===移動===>エリア0 農業区画1
「ほー」
「クルー」
【転移装置】を抜けて先にあったのは・・・畑だった。そりゃそうだよね、うん。その畑の先には日本家屋らしき建物がある。
「あれが僕たちのホームです。畑とセットになっていて住居兼農具小屋といった感じですね」
アスターの先導で家屋に入っていく。・・・この和風な感じも良いな。広さで言えば俺たちのクランホームの方が上だが、これはこれで、なんというか懐かしい感じがある。
俺たちは畳が敷かれた広い居間に通された。戸を開けると目の前に畑が見える。今は何も植えられていないようだが作物が育っている風景を見るのも一興だな。
「・・・おっと、そうだ。話の前に、はいこれ、お土産」
そう言って俺は【収納箱】から用意しておいた物を居間のちゃぶ台(懐かしいな、これ)の上に置く。
「おおー!」
「あい?」
アシュラはテンション上がっているが、ミコトちゃんは首を傾げている。もしかして見た事がないのだろうか?
「・・・」
「どうした、アスター?」
「・・・いえ、お土産と言って、できたてほやほやのカレーライスが出てきたのは初めてだったので・・・」
「・・・奇遇だな、俺もだ」
できたてを【収納箱】に入れておけば、いつでもできたてほやほや!うーん、リアルでも是非欲しい物だ。無理?・・・分かってるよ。
「うちのクランメンバーが作った甘口カレーライスだ。材料は他の世界の物だから、お前らにとっても珍しいかと思ってな。」
【精霊界】の食材は俺よりも詳しいだろうと思い、せっかくだから、他の世界の食材の料理を食べてもらおうという試みだ。無論、俺とアーテルの分もある。え?ここに来るまでに散々食ってきたんじゃないのかって?それはそれ、これはこれ。
「おお!それは楽しみっすねー!」
「すいません、ありがたく頂きます」
「あーいー!!」
うんうん、とりあえずカレーが嫌いな奴がいないようで何より。
「それでは皆様」
「「「いただきます」」」「クルー!」「あーうー!」
まずは皆で一口。
「・・・んまーい!!」
「うまうま!」
「本当ですね、全然辛くない、それでいて甘すぎず、するっと食べられます」
どうやら、お口にあったようだ。俺もカレーは辛い方が好きなんだが、この甘口も普通に美味い。さすがアーニャだ。俺たちが美味いモンを好きなだけ食べられるのもアーニャのおかげだ。感謝感謝。
余談だが、普通の食材でアーニャと共にお好み焼きを作ったのだが、俺が作った物よりアーニャが作った物のほうが美味しかった。【料理】スキルの差らしい。俺はひそかに【料理】スキルのレベリングを行う事を誓った。
「このカレーライスの材料は一部、モンスターのドロップ品だがほとんどは各世界で店売りされている普通の食材だ。だがもし、【精霊界】産の食材を材料にできたら・・・」
それはもう凄い事になると思うんですよ。
「・・・なるほど。それで畑が見たいと言っていたんですね」
ガツガツとカレーライスを頬張るアシュラとミコトちゃんを横目に、アスターたちの畑を見る。昨日もらった【精霊イチゴ】と【精霊キャベツ】から察するに店売りの物より、プレイヤーの畑で収穫、つまり自分たちで作った方が品質も高く、味も良いと考えられる。
農業に専念、とまでは行かないが、手間と時間次第で自分たちで作れるのも有りだと思う。厳しいようなら既に畑持ちのプレイヤーに売ってもらう。その筆頭候補がアスターだったりする。場合によっては手伝いや支援しても良い。それを確かめるために畑を見たかったのだ。正確には畑を含むアスターたちの状況を確認したい、だが。
畑の大きさは20m×20mくらいの広さの正方形だ。家庭菜園考えたら十分広いのかもしれないが農業で考えると小さすぎるだろう。
「畑の方は【農業ギルド】で1m×1m単位で売っていますよ。ただし、畑とは別にホームが必要ですが。ホームは【精霊界】に無くても、ホームオブジェクトとしての【転移装置】がありますので設置すれば簡単に行き来する事ができます」
ふむふむ、資金さえあれば【アークガルド】で【精霊界】に畑を持つことは問題ないわけだな。
「あとは畑にも種類があります。僕たちの畑は普通に耕した畑に種を植えて育てるスタンダードな物ですが、樹木を育てる果樹園や稲などを育てる水田もありますね。これらは一度設定すると途中で切り替えることは出来ないので注意です。まあ、リアルでは出来ない移動をさせることが出来るので、深く悩む必要はないのですが」
ふむ、自分が育てたい野菜にあわせた畑を用意する必要があるのか。今の話だと果物やお米も作れるようになるようだな。ただ種類と量を考えるとそれだけ広大な畑が必要になるってことか。
「収穫期間については種類にもよりますが、【農業】スキルのレベルが高いほど早く収穫できます。通常、2週間かかるような作物でも【農業】スキルのレベルが高ければ1日で収穫できたりします」
ほう、収穫期間を短縮できるのは良い情報だな。今すぐとは行かないが、地道にレベリングしていけばそれだけ数を揃えられるようになる、か。
「後は作物の種や苗木を入手する必要がありますね。これに関しては店売りしている物を買うか、【邪霊】からのドロップ、もしくは【精霊界】の各地での【採取】で入手できます。あ、あとは当然農具も必要になります」
おっと、種を入手しておく必要があったのか。まあ、畑だけあっても植える物が無いと駄目だよな。・・・こうしてみると農業って大変だな。用意する物がたくさんある。
「ただ・・・僕たちは種や苗木の入手に関してはクリアしているんです。ある意味ズルですけど」
クリアしている?入手する目処が立っているってことか?しかしズルとは・・・?
アスターは隣でカレーを食って満足そうにしているミコトちゃんの頭を撫でながら言った。
「ミコトは【生命の精霊】なんです。この子はスキルで種や苗木を生み出す事ができるんです」
・・・なんだって?
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