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お好み焼きと地竜

===ログイン===>【アークガルド】クランホーム


おはようこんにちこんばんは。


突然ですが、皆さん。


ふと、あ、アレが食べたいな、と思うことはないだろうか?


俺は今、まさにその状態であったりする。


昨日、アスターから頂いた【精霊キャベツ】、早速アーテルと共に実食してみました。さすがに丸かじりするのはなんなのでホームにある台所で端っこの方を少しだけ切り取って頂きました。


その味は素朴ながらも美味の一言。みずみずしく、しゃきしゃきしているのに硬くなく、するっと優しく胃に収まる。普段、マヨネーズがないとサラダを食べない俺でも、いくらでも食べれそうなほどおいしかった。


ただし、同時にキャベツはあくまでキャベツ。単体を生で食べるより調理しておいしく頂くのが正義なのではないかと感じたのだ。


そこで普段はアーニャに料理を頼むのだが、あいにく彼女はまだログインしていない。・・・決して【精霊キャベツ】を食べるのが楽しみで早めにログインしたわけではない。【精霊イチゴ】?とっくに俺とアーテルの腹の中ですが何か?


ま、まあそんなわけで俺でも作れそうな料理、ということでふと浮かんだのだ。お好み焼きが食べたい、と。実は関西で暮らしていたこともある俺にとってお好み焼きはたこ焼きに並んで馴染み深いものだったりする。俺も子供の頃、よくお好み焼きをひっくり返しては型崩れさせてしまったりしたもんだ。


話が逸れたが、材料はクラン倉庫に十分に揃っている。クラン倉庫の中にある物は各自自由に使ってよいことになっている。なので俺がお好み焼きを作るのに何の障害も無い。


・・・強いて言うなら【精霊キャベツ】は一玉しかないので量は作れない。なので他のメンバーがログインしてくる前にこっそり作って、俺とアーテルだけでおいしく頂こうというわけだ。フッフッフ。


だし汁に小麦粉と卵を混ぜて作った生地に、みじん切りにした【精霊キャベツ】を混ぜ合わせる。リアルではここに豚肉とかいかとかも一緒に入れて焼いたりするんだが・・・今回はいいや。これだけでも十分おいしそうだし。


予め油を引いて熱しておいた鉄板にジュワーっと流し込んで円状になるように焼く。円は大きすぎず、小さすぎず、適度な大きさに保つのがコツだ。・・・うん、いいにおいだ。


ある程度焼けてきたら、こんな事もあろうかと買っておいたコテを使って・・・ひっくり返す!!


「おりゃーーー!!」


・・・よし!上手にひっくり返したぞ。型崩れせずひっくり返すには熟練の技と長年の勘が必要なのだ。・・・必要なのだ。


ふっくら焼きあがった所で最後に表面にソースを塗り、鰹節と青海苔を振りかけて完成。さすがに鉄板をテーブルにもって行くことはできないので皿に盛り付ける。量は俺とアーテルの二皿分で限界だった。俺たち二人しかいないからいいんだけどね?


「クルルー♪」


・・・アーテル、よだれが出てるぞ、はしたない。俺も出そうだけど。実は久しぶりに作るので若干不安だった(ゲームの中だし)が案外覚えているもんだ。


俺とアーテルの分のお好み焼きを一口サイズに切り分け、いざ!


「いただきます!」「クルー!」


・・・


・・・


・・・ほう。


思わずため息が出る。貧困なボキャブラリーで申し訳ないがあえて言わせて貰おう。美味い。


ふっくら焼きあがっているのにしっかりとした歯ごたえ、口の中に広がる濃厚な味。俺が作ってきたお好み焼きの中で一番だと断言できる。・・・まあ素材のおかげなんだが。


「・・・クールー・・・」


・・・そうか、アーテル。お前も美味いか。アーテルも一口食べただけなのに、その味に惚けている。言葉が出ないとは正にこのことだな。


「本当においしいのですー。」


「キュイー・・・」


「キュアー・・・」


「キュウー・・・」


・・・


「・・・アーニャ?いつからそこにいた?」


そしていつの間にお好み焼きの一切れを奪った?


「アルクさんが、おりゃー!って叫んだ辺りから居ましたのです。」


・・・よりにもよって一番見られたくなかったところを見られた、だと?


「そうしたらアルクさんがなにやらおいしそうなものを作っているのがわかったので、咄嗟にテーブルの下に隠れたのです。」


・・・そうか、それで俺もアーテルも今の今まで気づかなかったのか・・・なんで隠れた?


「で、隠れている内に、あまりにもおいしそうな匂いがしたのでこうして出てきてしまったのです。」


「キュイー。」


「キュアー。」


「キュウー。」


・・・そうですか。ブランたちも同様らしい。・・・なんか一体増えてね?


「テールちゃんの歓迎のために腕を振るって料理するつもりだったのですが、まさかアルクさんに先を越されるとは思わなかったのです。」


「キュウ、キュウ。」


・・・大きさはブランたちと同じくらいでおそらく【幼体】なのだろう。四足歩行の・・・サイ?いや頭の立派な角から見て・・・トリケラトプスのような外見をしている。そして全身の鱗の色が土色だ。なるほど、たしかテールってフランス語で大地とか陸って意味だったか。


「あ、アルクさん。紹介するのです。【地竜】のテールちゃんなのです!!」


「キュウ!」


テールを抱き上げるアーニャと、よろしく!と言わんばかりに片足を上げるテール。そうか、アーニャは【地竜】を眷属にする事に成功していたのか。・・・にしても、もうちょっとちゃんとした紹介できなかったか?テールがかわいそうだろう。


「キュウ!キュウ!!」


・・・なんかキラキラした目で見られている。そういえばこの子もお好み焼きの一切れを食べてたな。もしかしておいしいものを作る人認定されてしまったのだろうか。


「・・・ああ、よろしくな、テール。」


「キュウー!!」


にしても初っ端からこんなおいしいものを食べられるとは運のいい奴だな。もっともこれからアーニャが美味いもの一杯食べさせてくれるんだろうけどな。


さて、せっかく仲間になったんだからもう一口くらい・・・もう半分なくなっている、だと?


「これ、おいしいー!」


「本当ですね!アルクさん、料理も出来たんですね!」


「うむ、いつもアーニャが作る料理と遜色ないのだ。」


「がお!」


「ピュイ!」


「オイシイデス。」


「トテモ美味ナ食ベ物デス。」


・・・いつの間にか全員揃っている、だと?


さらに俺とアーテルの皿からお好み焼きが奪われている、だと?


「・・・お前ら、いつの間に・・・」


「アルクさんが、おりゃー!って叫んだあたりから居ましたよ?」


お前らもかよ!?


「そうそう、アルクが台所で何か作ってるから庭のほうにある窓からこっそり覗いてたのよ。」


だから何でこっそり覗いてんだよ!?


「そうしたら、なにやら美味そうなものを食べているのだ。アーニャも絶賛していたのだ。ならば我々も乗り遅れるわけには行かないのだ!」


・・・要するに食い物に釣られて出てきただけだろうが!?図らずもこのクランの固い結束を見てしまった気がする。・・・俺とアーテルを除く。


「それで?どうしてこんなおいしいものを独り占め、もとい二人占めしようとしたの?」


・・・やべぇ、他のみんなに内緒にしようとしたの、ばれてーら。


「・・・独占しようとしたわけじゃない。昨日たまたま品質の高い【精霊界】産の野菜を手に入れたからな。ただ、キャベツ一玉しかなかったからそんなに量を用意できなかっただけさ。・・・一玉しか無い以上、まずは俺とアーテルで食べても良いだろう?見つけてきた者の特権で。」


「・・・なるほど、それは確かに一理ありますね。」


・・・ふぅー、何とか誤魔化せたぞ。


「それで、その品質の高い野菜はまた手に入りそうなのです!?」


アーニャが目をキラキラさせている。さすが料理人、新しい食材に敏感である。


「・・・正直、まだ分からん。品質の低い店売りの物はあったが、今のは畑で育てた貴重なものらしいから、もう一度手に入れようとすると時間がかかるかもしれん。まあ、今日も【精霊界】に行ってみるつもりだから、また探してみるよ。・・・さあ、まだあと全員に一口ずつくらいは残ってるから、さっさと食ってテールの歓迎会といこう。」


「キュウー!」


おお、喜んでる喜んでる。本能で今から美味いもんが一杯食えるのが分かっているのか。


・・・結局、お好み焼きは全員に二口ずついきわたったので、俺とアーテルの取り分は少なくなったが、俺もアーテルも気にしていない。なぜなら、既に【精霊イチゴ】を俺たちだけで・・・フッフッフ。


「なーんか、まだ隠してそうね。」


「なにか悪い顔してますね。」


「さ、さあ、アーニャ!料理並べるの手伝うぞ!!」


危ない危ない、危うく俺たちだけで美味いもん食ってた事がばれる所だった。なぜ俺の考えてる事が見抜かれるんだ。プライバシーの侵害だぞ。


その後、庭に出て何時ものお祭り騒ぎである。テールも楽しそうだし、今後の活躍に期待したい。


作者のやる気とテンションを上げる為に


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