師匠って呼ぶな
「すみませんでしたー!師匠ー!!」
・・・
・・・アシュラちゃんとのPvPに勝利した俺は、約束どおり、というか約束するまでも無い事だと思うのだが、俺の話を聞く態勢になったアシュラちゃんに事情を説明した。その結果がこれである。
「ボクがいない間にアスターを助けてくれたばかりか、ボクの未熟さを気づかせてもらえるなんて・・・ありがとうございます!師匠!!」
「師匠って言うな。」
勝ったのは良い事だし、事情が伝わったのは良いんだが、この子、微妙に何かを勘違いしている気がする。つまるところ、俺はただ単に降りかかる火の粉を振り払っただけなんだが。
「アシュラがタイマン勝負で負けることなんて滅多に無い事ですからね。しかも魔法を使わず、武術系のスキルだけで圧倒されるなんてこれまでなかったですから・・・彼女はアルクさんの実力を認めたんだと思いますよ。勿論、僕もですけど。」
「あい!!」
アスターくんが苦笑いしながらそう言ってくるが・・・その理屈で言うとアシュラちゃんは強そうな奴に片っ端から弟子入りしているように聞こえるんだが・・・そんな事はないよね?
第一、今の俺より強い奴一杯いると思うんだが。プレイヤーじゃなくてもNPCの、例えばギルドマスターとか・・・あ、もしかして知らないのか?その辺の情報を教えてあげても良いかもな。喜びそうだし。
「・・・とりあえず師匠って呼ぶな。俺はアルクだ。名前で呼ぶかもしくは・・・アニキと呼べ。」
「分かりました!アルクのアニキ!!」
・・・本当にアニキって呼び出したぞ。いろんな意味で冗談が通じないな、この子。
「・・・それで、アルクさん、改めて僕とアシュラが迷惑をかけた分の謝礼ですが・・・」
おっとそういえば、そんな話をしていたんだっけ・・・
「ああ、アスターくんからは【精霊界】の情報を教えてくれるんだったな。」
「アルクのアニキ!ボクは・・・」
「アシュラちゃんも同じだ。情報を提供してくれれば良い。勿論、貴重な情報なんかはきちんと情報料を払う。」
ここはしっかりしておきたい。雑談レベルの情報ならお茶を飲みながらでも話せば良いのだろうが、価値のある情報はしっかりやり取りをしないと情報系クランの皆々様に怒られそうだ。
「そんな!アニキからお金を貰うなんて出来ないっすよ!!」
案の定、アシュラちゃんは難色を示しているが・・・
「経緯はどうあれ、けじめはしっかりつけないと駄目だ。アシュラちゃんが気にしなくても俺が気にする。俺の話をちゃんと聞くって約束だったはずだぞ。」
「うっ!」
俺の言う事を聞く、ではなく俺の話を聞く、っていうのがミソだな。俺の言う事に盲目的にYESと答えるのではなく、俺の話を聞いた上でYESかNOか決めろっていうことだ。・・・ホントに人の話を良く聞いて、考えて行動して欲しい。お兄さん、君の将来が心配になっちゃうよ?
「あ、情報はアスターくんとすり合わせといてくれよ。二度手間になると面倒だし。アスターくんの話を聞くのも約束だっただろ?」
「ハッ!そうでしたー!!」
暴走しがちな子だが約束は守る気質のようだ。なのでどさくさでアスターくんの話も聞くよう約束に組み込んでおいた。今後はアスターくんの話も聞いてくれるようになるだろう、多分。・・・決して自分でやるのが面倒だからアスターくんに丸投げしたわけではない。
・・・アスターくん、そんなキラキラした目で俺を見ないでくれ。その尊敬と感謝の目が旨に痛いんだが。今までの苦労が目に浮かぶようだ。これからは何かある度に約束のことを引き合いに出すと良い。
「・・・分かりました!アニキ!!あとボクの事は呼び捨てにして欲しいっす!」
「あ、僕もお願いします。」
「あーうー!!」
アシュラちゃ・・・アシュラはちゃんと分かってくれたらしい。これでアスターの苦労も少しは軽減するだろう。・・・するかな?・・・して欲しいな。あとミコト・・・ちゃんはミコトちゃんでお願いします。なんとなく。
「それじゃあ早速・・・っていってもこんな場所じゃ落ち着かないな。いつ【邪霊】が出てくるかわからんし。それにもう良い時間だな。・・・明日、エリア0の適当な所で待ち合わせにしないか?」
なんだかんだで時間を食ってしまった。移動だけでも結構な時間がかかったし、探索となると、この広さだ。時間がかかるのは間違いない・・・だからこそ情報が欲しいわけだが。
「分かりましたー!!」
「僕も問題ありません。」
「あい?」
・・・何故かミコトちゃんだけ首をかしげているが、問題は無いようだ。・・・ミコトちゃん、こっちの言葉が分かっているのかいないのか微妙だな。喜怒哀楽は表情と声で何となく分かるが・・・【精霊】の【眷属】って皆こんな感じなんだろうか?・・・まあ、それも明日分かるか。
俺たちは互いにフレンド登録した後、近くにあるというエリア2の【転移装置】までアスターたちを送っていった。俺とアーテルはもう少し探索を続けるつもりだ。
「そうですか・・・あ!ならこれを是非受け取ってください!!」
そう言ってアスターが取り出したのはイチゴと・・・キャベツだった。・・・イチゴはともかくなんでキャベツ?
「これは僕の畑で採れた【精霊イチゴ】と【精霊キャベツ】です。店売りの物より品質が高いのでおいしいですよ?」
「・・・ほほう?それは興味深いな。」
アスター、まさかの畑持ちだった!・・・いや、そういえばツナギを着ていかにも農家の人のような格好をしてたな。なるほど。そして店売りより品質が高くておいしい野菜・・・ごくり。
「・・・イチゴの方、食べてみて良いか?」
「ええ、是非。」
見た目は普通、サイズも普通のどう見てもイチゴなイチゴをパクリと一口で食べる。
・・・
・・・
・・・あれ?頬が濡れている。視界も滲んでいる。
・・・そうか、俺は泣いてるのか。
「クルル!?」
ああ、アーテル。慌てなくても良い。これは感動の涙だから。ほらお前にもやろう。
「・・・クルルー・・・」
アーテルも至福の声を漏らす。
なにもつけていない素のイチゴなのに凄く甘い。それでいてしつこくなく、程よく後を引く甘さだ。果汁もたっぷり含まれていて喉の渇きもたちどころに癒される。わずか数センチほどのイチゴでこれほど満たされるとは・・・
「フフーン!アスターの畑の野菜は凄いでしょう、アニキ!!ボクもミコトちゃんも大好物なんすよ!ハグハグ!!」
「うまうま!」
どさくさにまぎれてアシュラとミコトちゃんも【精霊イチゴ】を食べている。・・・これを毎日食べられるなんて羨ましい。これは【精霊キャベツ】も十分に期待できるな。あとでおいしく頂こう。
「確かにおいしいんですが数を用意できないんですよね。畑もまだまだ小さいですし、他の野菜を育てようと思うとどうしてもスペースが・・・」
・・・毎日食べられる、というわけでもないらしい。それでも十分羨ましいが。数が用意できないらしいが、出来れば定期的に売って欲しいところだ。その辺も明日話してみようか。
「それじゃあ、アニキ!また明日!!」
「ああ、ついでに畑とやらも見せてくれ。」
「分かりました!ご招待しますよ!!」
「あいあーい!」
「クルー!」
挨拶を済ませて別れる俺たち。ミコトちゃんもちっこい手を振ってバイバイしてくれた。かわいい。しかし、あれだな。ミコトちゃんを抱っこして帰っていくアスターとアシュラを見ているとなんというか・・・新婚夫婦とその子供を見てるみたいでなんか和むな。
「クルルー。」
おや?心なしかアーテルが寂しげだ。ミコトちゃんがいなくなって寂しいのか?よほど気に入ったらしい。
「また、明日会えるさ。さあ、俺たちもエリア3、4の【転移装置】に登録して戻ろうか。」
「クル!!」
こうして俺たちはもうしばらく探索を続け、【転移装置】に登録した所で、今日の冒険を終えることにした。
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