種族の特性
このゲームでは種族によって成長や特性に違いがある。
例えば【人間】という種族は突出した力は無いが全体的にバランスよく成長してく。【ドワーフ】という種族は戦闘よりも生産向けのステータスになる。【ハーフリング】なら【眷属】の使役向き、【魔族】なら魔法に特化し、【天使】は魔法よりだが武術も使えるステータス、といった具合だ。
ただし、あくまで向き不向きの話であって、その特性に合わせた戦い方をしなければいけないというわけではない。キャラ作成時はステータスの振り分けは自分でできるし、クラスによってもステータスは変動する。話に聞いただけだが【転生】によって別の種族になることもできるらしいしな。
ようするにガチな攻略勢でもなければ自分のなりたい種族を好きに選ぶというわけだ。そんなガチな攻略勢がどんな種族を選ぶかと言われれば当然、強力なステータスの種族を選ぶわけだ。
長々と話したが、そこで選ばれる種族として人気がある種族の一つが【竜人】だったりする。言葉の通りドラゴンの力を宿す種族だったりする。物理攻撃が得意で武術系に人気があり、また【魔族】や【天使】ほどでないにしろ魔法系のステータスも高いらしい。その反面【眷属】系には向いていないらしいが・・・
何が言いたいかっていうと・・・
「でやー!!!」
「おっと!!」
目の前で猛攻を仕掛けてくる【竜人】のアシュラちゃんが思ってたよりずっと厄介だ、ということだ。
「もー!全然当たんない!!【ラッシュパンチ】!!!」
「いや、こっちも結構ギリギリだぞ?【バックステップ】!」
とうとうスキルを使ってくるアシュラちゃん。こっちもなかなかヒヤヒヤしつつ避けてるんだけどね。うーん、どうやらレベルの方がこっちが上のようだな。その分ステータスで勝っているみたいだが・・・油断したら負けるな。
「【正拳突き】!【上段蹴り】!【練気掌打】!!」
「【サイドステップ】【バックステップ】【フォワードステップ】」
避ける、避ける、避ける。やはり対人戦ではステップ系の【体術】が有効だな。ヤマタノオロチのような巨大モンスターなら移動が間に合わないが、人間サイズなら使いやすい。
「すごい。アシュラ相手に一発も貰わないなんて・・・」
「あーいー!!」
外野で感心しているアスターくん。アシュラちゃんはリアルでもおそらく強い部類だと思う。スキルによる攻撃も自然に行えてるし、【竜人】という種族のステータスの高さも相まって、苦戦することなんてそうそうなかったんだろう。・・・ミコトちゃんがなんか興奮してるが気にしない。
「もー!避けてばっかりいないでかかってきてよ!!」
・・・敵に対して何言ってんの?この子あれだな。試合の経験は豊富みたいだが、戦闘・・・いわばケンカの経験はあんまりないみたいだな。実力はあるが実戦経験が少ない感じ。戦いの駆け引きみたいなのがなっていないな。
「・・・それじゃあ遠慮なく。」
俺は左手で【霊刀ムラクモ】が収まった鞘を持ち、いつでも抜けるよう構える。居合いのような型だが、待ちの姿勢にならず、そのまま体勢を変えず接近する。
「!?【正拳突き】!!」
迎撃しようとしてくるアシュラちゃんだったが、
「【フォワードステップ】」
で斜め前方向にかわしつつ接近し、彼女の横を通り抜けざまに
「アイタッ!!」
ポコッ、と鞘に入ったままの刀で頭をはたく。素手の相手に刀を使うのは少々ずるい気がしないでもないが、かといって素手では勝てる気がしないからな。そもそも素手で戦った事なんてないし、俺。
「っつぅ~!やったなー!!【ラッシュパンチ】!【ラッシュキック】!!」
おおう、激しい猛攻だが、適当に打っても当たらんよ。スキルが強力でもちゃんと考えて打たないとほら・・・隙が出来る。
「【一刀突き】!」
拳を引いた瞬間に出来た隙を逃さず、鞘に入ったままの刀で突きをお見舞いする。狙いは彼女のお腹辺り。これで決まったかな。と思ったが・・・
「【魔闘技:硬土】!!」
俺の突きは確かに届いた。届いたが手ごたえがおかしい。まるでコンクリートの壁を突いたような異様な手ごたえを感じる。
すばやく【バックステップ】で距離を取る俺。よく見ると、彼女の腹部分が土色のオーラの様なもので包まれている。防御系のスキルか。察するまでもなく体を硬くするスキルのようだが・・・俺の知らないスキルだな。
「【魔闘技:拳火】!【魔闘技:脚風】!!」
今度は腕に炎のような赤いオーラと脚に風のような緑のオーラを纏う。
「でぇやーーー!!」
再度突進してくるアシュラちゃんだが、先ほどよりさらに速くなった!避けきる事が出来ず刀で受け止めるが・・・一発一発が重い。そしてパンチは火のように熱く、キックは風のように鋭い。名前からして予想できたが、属性が付加されている。【魔法付加】を使っていない魔法を付加した物理攻撃だ。
確か【魔闘技】って言ったか?物理攻撃の効かない【邪霊】相手に戦えるのはこのスキルのおかげなんだろう。成り行きで始めた戦い(PvPをふっかけたのは俺だけど)だったが思わぬ収穫だ。
「【ジャンプ】!」
俺は彼女の猛攻を掻い潜り、跳躍スキルで彼女の頭上を飛び越える。空中で宙返りしつつ、無防備になった彼女の背中に、
「【一刀突き】!」
「カハッ!!」
突きを入れつつ、彼女の後方に着地し、距離を取る。
一方、アシュラちゃんの方はといえば予想外だったのだろう、背中からの攻撃に前のめりになる。が、直ぐにこちらに振り向き、体勢を立て直すのはさすがだな。肩で息をしているがダメージはあまり無いようだ。さっきの体を硬くするスキルのおかげかな。
「・・・アンタ、何者?」
・・・そんなお約束な問いかけを今更されてもな。
「何者って言われてもただの一ゲームプレイヤーだぞ。」
しかし、アシュラちゃんは納得がいかないのか首を振る。
「うそだ!アンタの動き、スキルだけのものじゃない!!体捌き、反応速度、見切り、どれを取っても普通じゃないよ!?」
・・・お褒めに預かりどうも。
「・・・確かに俺はリアルでも武道をかじった事が少しあるが、ほとんど我流だぜ?君みたいに正式な型を習ったわけじゃない。単にゲーム内のレベルとステータス、戦闘経験の差さ。・・・と、言うわけでこのまま君とまともにやりあったらこっちが負けるかもしれないから、そろそろ・・・マジで行くぜ?」
そう言い、今度こそ本気で居合いを構える。本来、居合いは待ちの技。地面を踏みしめてどっしりと構え、向かってきた敵を迎え撃つ技だ。今度は本気で抜く。その覚悟と殺意を込めて彼女を睨む。
「うぅ・・・うわああああ!!」
その気迫に押されたのかアシュラちゃんがこちらに向かってきた。これまでに無いスピードと、これまでにないほど力を貯めた拳が俺を打ち貫く、が・・・
「!?」
「残念、それは【分身】だ。」
一度言ってみたかったセリフを言ってみた俺。幻を打ち抜いた彼女の真横に出た俺は居合いの体勢を崩さず、刀を抜き放った。
「【刀身一閃】!!」
抜き放たれた貫通ダメージを与える一撃は、彼女の腹部分を捉える。やはりコンクリートのように硬い手ごたえだが、今度はちゃんとダメージが通り、彼女のHPは0になった。
同時にPvPも終了となる。
・・・大人げなかった?いや、アシュラちゃんの実力は本物だったよ。
レベルが追いつかれたら、マジにやっても勝てないかもしれない、と思わせられるくらいにな。
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