ちょっと違う
俺が声をかけられた方向に目だけを動かすとそこには青年がいた。
「あう?」ツンツン
おそらくプレイヤーだろう、茶髪に茶色い瞳でメガネをかけている。メガネ越しだが、やや大きめの目はどこか少年のようなあどけなさを残しているが・・・立派なイケメンだ。耳の形からして、どうやらエルフのようだ。年齢も身長も・・・俺より少し下くらいかな。・・・だが問題なのはその格好だ。これから農作業でもするのか?と言いたくなる・・・ようするにつなぎを着ていた。どうみても戦闘向けの格好ではない。
「あーうー。」ツンツンツン
「・・・心配ありがとう。しかし、どうか俺のことはお気になさらず・・・」
俺は見ず知らずの(多分)年下に丁寧に言葉を返す。
「え?でも・・・」
「うーうー。」ツンツンツンツン
「同じ男として、無様に倒れこんでいる男が黙って見なかった事にするのが情けだと思わない?」
「え?いや、人として倒れている人がいたら助けるのが人情だと思いますよ?」
おお、なんと心優しき青年エルフよ。しかし・・・
「あーうー。」ツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツンツン
「助けるのなら、さっきから痺れて動けない俺をツンツン突っついてくるこの幼女をどうにかしてくれない?」
まったく、俺が痺れて動けない事をいいことにツンツン突っついてくるとは・・・今の俺は全身が、正座で足が痺れたー、っていう状態なのに。・・・まあ、俺も正座で足が痺れたラングやガットの足をツンツン突っついた事はあるが。
「こら、ミコト。イタズラしていないで回復してあげて。」
「あい!」
ミコトと呼ばれた幼女が手をかざすと、俺は不思議な光に包まれ・・・痺れがとれた。
「・・・回復した?」
「あーうー!!」
「大丈夫ですか?よくやったね、ミコト。」
やったー、と言わんばかりに喜ぶ幼女と心配そうにこちらを見ながら幼女の頭を撫でる青年エルフ。
幼女の方は、黒髪のおかっぱになぜか・・・巫女服?を着た大変可愛らしい女の子だった。見た感じ、小学生・・・いや幼稚園児のような外見をしている。そして・・・宙にぷかぷか浮いていた。どうやらこの子も精霊らしい。
・・・おっと、俺としたことがお礼がまだだった。
「助けていただきありがとう。俺は・・・「クルー!!」・・・あ。」
おっと忘れてた。上空ではアーテルと【雷の邪霊】たちが交戦していた。本来であればアーテルが手こずるような相手ではないのだが、俺がダメージを受けて動揺しているのと、俺のほうへ敵が行かないよう足止めしてくれていたようだ。
クッ!すまんアーテル!俺が情けないばっかりに!!
「すまんが話は後で!【エナジーフェザーマント】!フェザーモードだ!!」
「え?あ、はい!」
「あーうー!!」
青年の返事を待たず俺は宙へ駆け出す。【エナジーフェザーマント】はアヴァンが作ってくれた兵器だ。光のマントを作り出し、さらにフェザーモードになるとマントが展開し、光の翼となって空を移動できる。それも飛行時間を大幅に上昇させた最新版だ。
・・・幼女が興奮気味にキャッキャ、キャッキャ言ってるが構う余裕は無い。
「すまん、アーテル。待たせたな。」
「クルー!」
大丈夫だよー、と言わんばかりに身を寄せてくるアーテル、フッ、頼もしくもカワイイヤツめ。
「それじゃあ、一気に片付けるか。」
「クルッ!!」
俺は【霊刀ムラクモ】を取り出し、構える。
「【風魔法】を【魔法付加】!」
念のため風属性を刀に付加し、
「【疾風連斬】!!」
高速で移動しながら次々と【邪霊】を切り払っていく。そして・・・
「トドメだ!アーテル!!」
「クルルー!!」
アーテルの【レーザーブレス】で残りの【邪霊】を一掃した。
「す、すごい・・・」
「あい!あーうー!!」
その様子を青年エルフは呆然と見ていた。幼女の方は興奮気味にはしゃいでいたが。
・・・
「お待たせしたな。改めて助けてくれてありがとう。俺はアルク、こっちはアーテルだ。」
「クルー♪」
地上に降り、改めて青年エルフと幼女にお礼を言う。
「い、いえ。無事で何よりです。僕の名前はアスター。この子は僕の【眷属】で【精霊】のミコトです。」
「あい!」
なぜか申し訳なさそうに自己紹介する青年エルフと幼女。幼女の方は元気一杯だが、青年エルフの方は少し気弱そうに見える。見た目はクールなメガネイケメンなのに。・・・服装が農夫みたいだが。
「クルー!」
「あーいー!」
アーテルと精霊幼女・・・ミコトちゃんは早速仲良くなったようだ。アーテルの背にミコトちゃんが乗り込んではしゃいでいる。・・・俺の場所を取られた。かわいい。
「あ、あの・・・すいません!!」
平和な風景に和んでいると突然、青年エルフ・・・アスターくんに謝られた。何故?
「じ、実はあの【邪霊】たちを連れて来たのは僕達なんです。僕とミコトは元々エリア3を周っていたんですが、途中であの【邪霊】たちに出くわしまして・・・数が多かったのでここまで逃げてきたんですが・・・その途中でアルクさんが・・・」
ああ、話が見えた。ここはエリア2の上空なのに、何故Lv.30オーバーの【雷の中級邪霊】が出てきたのかと思ったら、彼らを追っかけてきたからか。で、その途中で俺が巻き込まれた、と。だが・・・
「謝る事はないだろ?フィールドならどこで敵に出くわしてもおかしくは無いからな。油断していた俺が100%悪い。それにちゃんと助けてくれたじゃないか。」
俺はアーテルの背ではしゃいでいるミコトちゃんを見た。・・・アーテルはゆっくり、ミコトちゃんが落ちないように気をつけながら低空、低速で走り回っている。・・・もう仲良くなったらしい。
「そう言ってもらえて助かりますが、助けてもらったのはむしろこちらの方ですよ。あのままでしたら確実に死に戻りでしたからね。・・・僕はどうでも良いですが、ミコトが敵にやられてしまうのはどうも・・・ねぇ・・・」
「ああ、なるほど。」
あの可愛らしい幼女が敵の毒牙に・・・駄目だ!想像したくない!!
「・・・しかし、それならなぜ、エリア3に?」
そう問いかけると、アスターくんは何故か言いづらそうな表情を浮かべた。
「・・・実はもう一人のプレイヤーとパーティを組んでたんですが、どこかに行ってしまったんですよ。僕が【採取】する係、彼女が護衛の戦闘する係だったんですが、どうも彼女は戦闘に夢中になると・・・そのー・・・。」
・・・ようするに、その彼女というのが戦闘に夢中でどっかに行ってしまっている間に襲われてしまったってことか。護衛の意味無いじゃん。戦闘に集中するのは良いことだが、夢中になってはいけないってことだな。
「それは・・・災難でしたね。」
「ええ、しかし彼女も悪気があったわけではないんですよ。僕もミコトもLv.30を超えてますから、ある程度なら自力で何とかできますし・・・ただ、今回は運悪かっただけで・・・」
俺が巻き込まれたのは不幸中の幸いだったのかもしれないな。全員無事だったわけだし。
・・・俺はてっきり作者の嫌がらせかと思ってたけど、本当に不慮の事故だったようだ。・・・そうだよね?
「そんなわけでして助けてもらったお礼を・・・」
改めて頭を下げてくるアスターくん。正直気にしすぎだと思うんだが、アスターくんの誠実な態度は素直に好感が持てるな。・・・ちょっと気が弱そうだが。
「いやいや、そんな事は・・・」
「いえいえ、それではこちらの気が・・・」
「いやいや・・・」
「いえいえ・・・」
・・・なんだろう、なんか営業のサラリーマン同士が頭を下げあっている光景が頭に浮かぶんだが・・・アーテルとミコトちゃんが俺たちを見て首を傾げてるじゃないか。これ、どっちかが妥協しないとキリが無いやつだな。
「・・・それなら【精霊界】について詳しく教えてくれないか?俺たち、実は初めてきたばっかりなんだよ。」
妥当な落しどころとして情報提供をお願いする。勿論、貴重な情報なんかがあったら買い取るつもりだ。
「分かりました!僕の知っている事でよかったらなんでもお話します。」
快く引き受けてくれたアスターくんに俺は手を差し出す。和解の握手だ。・・・別にケンカしてたわけではないが。アスターくんも照れくさそうにしながら手を差し出す。
しっかし、結果を見てみれば、アーニャやアヴァンのときと同じ展開のような気がする。別に不満も何も無いが。
そう思いつつ握手しようとした瞬間・・・
「ちょっと待ったー!!!」
俺たちではない、第三者の女性の声が響き渡った。
・・・同じ展開ではなかったか。
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