ヤタガラス
「【ツクヨミ神社】か・・・文字通り神様を祀っている神社だよな?だが何でこんな所に?」
こんな場所じゃあ、誰も来られないだろうに。キキョウも初めてきた場所みたいだしな。もっとも、神社はおろか地面の石畳でさえ掃除の必要もないくらい綺麗な状態だから、最初から人が立ち入るような場所でもないのかもしれないけどな。
「わかりません。私も御伽噺で聞いたくらいしかありませんでした。」
御伽噺、ねぇ。・・・フラグだよな、間違いなく。
「その御伽噺と言うのを聞いても?」
ラングも興味あるみたいだ。
「・・・遥か昔、この地では巨大で凶悪な魔物が暴れまわっていました。当時の人々の抵抗もむなしく多くの命が奪われ、この地は蹂躙されていき、人々は神に祈るしかありませんでした。その祈りを聞き届けた三神、【アマテラス】様、【スサノオ】様、そして【ツクヨミ】様がこの地に降り立ち、魔物を退治されました。人々は三神に感謝し、三神を崇めるためにこの地に社を建てたと伝えられています。」
・・・巨大で凶悪な魔物ねぇ。べヒーモスみたいな?・・・神様が出てきたんならそれ以上か?しかし、退治された・・・ねぇ。【アマテラス】神と【ツクヨミ】神はともかく、【スサノオ】神が倒した魔物と言えば思い当たるのは一つしかないな。
「その御伽噺だと、崇めるための神社なんだろう?結界に覆われて隔離されているのはおかしくないかい?」
確かにラングの言う事ももっともだ。感謝しているのなら頻繁に訪れて拝むぐらいはしそうな気もするが・・・その御伽噺がどれくらい昔の話なのか分からないからな。それに・・・
「ラング、結界と言ったのは単に俺がそう感じたから言っただけだ。実際には逆かもしれん。」
「結界の・・・逆?・・・封印ってことかい?」
それならこの場所が隔離されている事にも納得が行く。あと、キキョウがこの場所の事を知らないこともな。・・・ハンゾウ殿なら何か知ってる気がするな。流れ的に。
「・・・と、言う訳で戻るか。」
俺の言葉に三人はガクっとずっこけそうになる。
「戻るって・・・ここを調べないのかい?神社の中になにかとんでもない物が入ってるような気がするんだけど。」
・・・やれやれ欲深い奴だな。
「お前、あの中に入れんの?というか近づけんの?」
「・・・え?」
俺の言葉にラングは神社へと足を進めようとするが・・・
「あ、足が動かない。いや、進もうとしているのに前に進めない!」
まるで見えない壁に阻まれているかのように、あるいは、とんでもない強風で押し返されるかのようにラングはその場から進むことが出来ずにいた。
「・・・仕方がありません、ラング殿。ここは神の力・・・【神気】が満ちています。並の人間では意識を保つ事もできないでしょう。」
・・・要するにレベル不足ってことだろう。もしくはスキルか何かか。いずれにせよ、俺だってこれ以上近づく事は出来ない。・・・だからこそ余計に中に何があるのか気になるんだが。
「ここが神聖な場所だっていうのは一目瞭然だろう?下手な事はしないほうが良いし、できないだろう。おとなしく里に戻ってハンゾウ殿に聞くのがベストだと思うぞ?」
「・・・どうやら、そのようだね。」
それにロゼさんがさっきから辛そうだ。ヒュントやヒュームもだ。さっきキキョウの言っていた常人では意識も、と言う話はハッタリでもないということだ。・・・今更だが、モンスターが入っても大丈夫だったのだろうか?
「アーテル?」
ヒュントとヒュームは辛そうではあるが、特に命に関わるような事はないようだ。そうなれば当然、俺の心配はアーテルに行くのだが・・・アーテルは一点を見つめたまま応えない。見ているのは・・・神社?いや・・・
「・・・!?」
俺は【豪剣アディオン】を構える。それを見つけてしまったから・・・
「アルク、どうし・・・」
「神社を見ろ!屋根の上!!」
俺の言葉に全員が神社の屋根を見て驚愕する。そこにはいつの間にか巨大なカラスが止まっていたのだ。どう見ても見逃すようなサイズじゃない。にもかかわらず、今の今まで気がつかなかった。
「クルルルルルルッ!!」
いや、アーテルだけは気が付いていたか。しかも敵意むき出しだ。こんなアーテルは初めて見る。それだけの相手ってことなのか?
「・・・」
しかし、警戒する俺たちを他所に巨大なカラスは俺たちを見回した後、
「カーーーー!!!」
大きな声で鳴くと大空へと羽ばたいて行った。この神社を覆っていた結界、あるいは封印を軽々と破って・・・
「クルルッ!!」
「よせ、アーテル!!」
巨大カラスを追いかけようとするアーテルを止める俺。・・・追っても勝てないぞ、多分。
「・・・驚いたね、なんだったんだい?アレは?」
ラングが聞いてくるが、俺のほうが聞きたい。
「・・・皆さん、気がつかれましたか?あのカラス、足が三本ありました。おそらくあれは導きの神とも呼ばれる【ヤタガラス】でしょう。・・・私も初めて見ました。」
【ヤタガラス】・・・導きの神、か。
「今、わかった。俺とアーテルが感じた気配は神社ではなく【ヤタガラス】だ。アイツからは神社と同じ・・・【神気】ってやつを感じた。・・・どうやら俺たちはアイツに誘導されてきたみたいだな。」
「誘導・・・まさに導きってことかい?しかし、なんで僕達、いや君達を?」
「さあな。それが分かれば苦労しない。なんでアーテルがアイツに敵意を抱いているのかもな。」
【ヤタガラス】がいなくなってアーテルはようやく普段どおりに戻った。だが、アーテルが敵意を抱くってことはイコール俺の敵ということなんだが・・・少なくともアイツからは敵意を感じなかった。何が目的だ。
「皆さん、とりあえず里に戻りましょう。ここに長居するのはよろしくないようですし。」
「そうだな。ラングとロゼさんもそれで良いな?」
「分かったよ。」「・・・はい。」
こうして俺たちは大きな謎を残したままその場を後にした。・・・フラグがどんどんでかくなっていく気がするのは俺の気のせいだろうか?
===移動===>忍の里
「そうか、あれを見つけてしまったか・・・」
あの後俺たちは大急ぎで忍の里まで戻ってきた。なお、ロゼさんたちはあの空間から出た途端、急に元気になった。やはり、あの空間が特別なんだろう。
「長、あれは一体・・・」
キキョウはハンゾウ殿に食って掛かるが・・・
「まあ、待て。まずはお客人の用事を済ませよう。キキョウ、そちらの方はどうだ?」
「ハッ!申し訳ありません。お客人三方とも問題なく。」
「そうか、それではお三方に忍の技を学ぶ事を認めよう。」
そういったところでアナウンスが流れた。
『クラスクエスト【忍者クラス取得試験】をクリアしました。
【忍者】クラスが解放されました。』
・・・そういえばそうだった。ちょっと色々あって忘れかけてた。
「里にある武器・防具・道具屋と【転移装置】を解放しよう。忍の技については私を含め、里の者に聞けば教えてもらえるだろう。」
ふむ、予想通り、【転移装置】が解放されたか。とりあえず忍の里にまた訪れる時に一々遠出しなくても良くなったな。
「さて、それでお主らが知りたがっていることは三神の神社の事だな?」
「・・・教えてもらえるんですか?」
「うむ、本来であればみだりに人に話すことではないのだが、【ヤタガラス】まで現れたとなれば放ってはおけん。・・・これも何かの導きなのだろう。キキョウ、お前にもまだ話してはいなかったことだが・・・」
ごくり、と誰かが喉を鳴らす音が聞こえた。
「我らの里に伝わる御伽噺はキキョウから聞いたな?あの御伽噺は概ね実際に起こったことを語っておる。唯一つ、魔物は退治されたのではなく封印された、と言う部分を除いてな。」
「封印・・・もしやあの神社に?」
「いや、封じられたのは別の場所だ。あの神社は封印の要と呼ぶべき場所だ。人々が建てた社に三神がお力をお分けになられ、その力を用いて魔物を封印しておられるのだ。」
・・・なるほど。だから、あの神社は【神気】で溢れていたんだな。そして結界で封印されていたのはその封印の要を壊されないようにするためのいわば二重の封印ってことか。
「・・・そして何を隠そう、不死山の樹海をさ迷う亡霊武者こそ、当時魔物に立ち向かい死んでいった兵たちの成れの果てなのだ。」
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