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【WEB版】最強の底辺魔術士 ~工作スキルでリスタート~  作者: 萩鵜アキ
二部一章 それぞれの思い

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フォルセルスの思い

 歯がみするエルメティアを無視し、アルトは態勢を整える。


「く!」


 体を動かすより早く【ハック】を発動。

 フォルセルスの体を床に押付けるようとした。


 だが、フォルセルスは踏ん張って耐え抜いた。


【罠】での攻撃は通じる。

 だが決定打にはならない。


 相手に因子をまさぐられぬうちに【罠】を回収。

 次にマナを練り上げ、フレアを生み出す。

 避けようと動くフォルセルスに、【ハック】で追従。

 その背中に付着。

 瞬間、発火。

 轟音と共に大気が中心に引き寄せられ、炎が黒々と燃え上がる。


「はぁっ!!」


 しかしそれも、フォルセルスの気合いの声でかき消えた。

 恐るべき【魔術耐性】だ。

 だが、以前のように魔術が前の空間で止まるということはない。


 耐性は異様に高いが、魔術は当たる。


 続いて体を動かし、アルトはフォルセルスに迫る。

 今度は勢いを調節し、誤っても部屋から飛び出さないようにする。


 接近。

 拳を打ち抜く。

 フォルセルスが反撃。

 互いの拳が接触。


 まるで空気が割れるような音が響き渡った。


 続けてアルトが連打。

 フォルセルスも両手を使い攻撃する。


 接触は僅か。

 コンマ5秒の間隙。

 相手の攻撃を食らう前に、離脱。


 即座に反転。

 床に落ちている数々の武器を手に取り、前へ。


 メイスと杖の二刀流。


 メイスでフォルセルスの胴を切り払う。

 先端の棘が胴に引っかかり、伸びる。


「ぬ?」


 その柔軟性にフォルセルスの眉がピクリ反応を示す。


 メイスには以前、中心部分が柔らかくなる【刻印】を刻んでいた。


 使い勝手はバネ付き肩たたき棒。

 ただし威力は凶悪。


 遠心力と引き戻すバネの力が作用するから、攻撃力が倍増する。


 だが重い攻撃を受けても、フォルセルスはびくともしない。

 重量攻撃は駄目。次。


 メイスを即座に手放して反転。

 回転の勢いのまま左手で杖を叩きつける。

 接触、

 瞬間、

 爆発。


「ふお!?」


 これにはさすがのフォルセルスも驚いたようだ。

 魔術と体術を絡めて、爆発を凌ぐ。


 杖は1度きりの使い捨てタイプ。

 もったいないとは思ったが、この世界では杖の意義があまりに低すぎる。

 杖を装備しなくても魔術は放てる。ただ、威力が若干落ちるだけだ。

 若干程度ならば、杖に縛られる意義はあまりない。


 そのため、売ることも使うこともないドラゴンの杖は、習作として「爆発棒」になってもらった。


 次に斧と弓を持って構える。

 まず斧を投げつけ、弓に矢を番う。


 投擲された斧は容易く躱される。

 その隙めがけて、矢を射貫く。


 フォルセルスはその矢すら回避。

 しかし、


「ぐぉ!!」


 フォルセルスの背中に、舞い戻ってきた斧が接触。

 彼の体を大きく傾がせた。

 そのタイミングで戻ってきた矢が、フォルセルスの腹部に直撃した。


【刻印】により【風魔術】を付与した斧と矢は、放てば必ず戻って来る。

 その戻る位置を調節することで、背後から攻撃を当てられる。要するに、ブーメランと同じだ。


(しかし……)


 態勢を整えながら、アルトはフォルセルスの体を眺めた。


「刺さる攻撃もダメか」


 あれほど攻撃が直撃したというのに、彼の体には傷一つついていない。


 物理攻撃は見えない壁に阻まれているようだ。

 ダメージが、まったく通らない。


 アルトは体勢を立て直し、呼吸を落ち着かせる。


 大体、いまのでやるべき事が判った。

 自分に足りないものも。

 さてそれをどう補うか……。


 アルトが思考を巡らせていると、フォルセルスが神官衣を払いながら口を開いた。


「……一つ、教えてほしい」

「答えられることなら」


 神様に教えを請われるなど、おそらく人類史上アルトが初であろう。


「変態のアルト」

「…………」

「メイスと杖。斧と弓で二刀流を試みた、変態のアルトよ」

「あの、もう、変態って呼ぶの辞めて頂けます……?」


 こちらは大真面目に攻撃しているのだ。

 決して奇妙なことをしているつもりはないのに……。

 何故変態などと呼ばれなければいけないのか?

 しかも、よりにもよって正義の神様に!


 ああ、心が泣いている。


「そこの英雄を救って、お前は何がしたい?」

「なにも。ボクは、ハンナが救えればそれで良いだけです」

「英雄を救ったことで、何万人と死者が出たとしてもか?」


 フォルセルスの皺がさらに深くなる。

 ここへきて、初めて彼は僅かな怒気を滲ませた。


「エアルガルドは魂の保養地として、我々が生み出した。あらゆる世界で、魂が傷付いたもの達の楽園にするつもりだった。

 集った魂は受肉し、傷を癒すための生活を営んだ。人間が集まった国、獣人が集まった国、龍族が集まった国、エルフドワーフが集まった国、神が愛した者達のみを集めた国、そしてそれらが融和した国。6つの国が誕生した。

 それらは、人種が心安らかに過ごせるよう配慮した結果だったが、失敗の原因でもあった。


 人種から生まれた英雄が他国の秩序を乱し、敵対し、戦争状態に突入したのだ。

 そこで死んだ者、魂が砕けた者は万を遙かに超えた。魂の保養地として用意したエアルガルドで、魂が砕ける。こんな悲しいことが在って良いだろうか?


 ――いいや、良くない。

 故に予は、世界を作り替えた。

 予が統治することで信仰を失うことを恐れ、邪魔立てした低級神を浄化し、エアルガルドを創造した盟友である原初神5柱を封印し、予は、決して魂が砕けない世界を目指したのだ」


 フォルセルスが一度、天を仰いだ。


「人は上を見ると止めどなく欲をかく。だからこそ、予は魔法で階級を分離させ固定した。努力では階級が超えられぬようにすることで、自分達が良くなるために他人を虐げる可能性を除去したのだ。


 結果、はじめは様々な軋轢はあったものの、いまはあらゆる種族が融和している。

 神代戦争後は、戦争が起らなかった。万単位で人が死ぬこともなかった。つまりこれは、予の行動が正しかったからだ。


 だがそこに、英雄が現われた。

 また英雄だ!

 英雄が動けば再び戦乱の世となり、魂の保養地は保養地として機能しなくなるだろう。だからこそ予は英雄を排除するのだ。魂の保養地を、保養地として守るために……」


 フォルセルスが空から視線を下ろし、アルトを睨んだ。


「予は正義と秩序を司る神フォルセルス。予の行為のすべてが人種のためだったとその名において誓おう。

 人を救えるのならば、何千年、何万年、予の力が尽きるまでエアルガルドに平和をもたらし続けるだろう。予はそのために、予の命を捧げている。

 あらゆる生命が、この地で安息を得るために、全力を尽くす。この言葉に、決して嘘偽りはない」


 胸の中にいる穴蔵同盟が沈黙する。それは否定ではなく、有無も言えぬほどの肯定だ。

 若干の憐憫も、どこかから滲んでくる。


 彼は――彼らは、人が好きで好きでたまらなかった。

 だからこそ、神々は魂の保養地としてエアルガルドを生み出した。

 あらゆる星で傷付つく魂を、放っておけなかったから……。


「予が英雄を捕らえた理由は、理解出来たな?」

「はい」

「ならば再度問おう。お前は、英雄を取り戻すのか? たとえそれが、世界を破壊しうる存在だとしても」

「あなたは何か勘違いしているようですけど……」


 神に対して勘違いしてる、と口にする恐れ多さに、アルトは眉尻を下げた。

 別の言葉があったら迷わずそれを用いただろう。

 だが、「勘違い」以外で適切な言葉が見つからなかった。


「ハンナは、むちゃくちゃなことはしませんよ? 自分の力の無さに悲観せず、前を向いて一心不乱に努力をする。肩書きにおごりはなく、純粋で、純朴で、誰であっても一人の人として尊敬を持つ。たとえそれが平民であったとしても。ハンナは、そういう奴なんです。だから、世界を壊すなんて野望は、絶対に抱きません」

「英雄とはいえ人間だ。どこでどうなるか判らない」

「なら話は平行線ですね」


 フォルセルスが首を振り、アルトは落胆する。

 少しだけ、彼は胸襟を開いてくれたと思った。

 けれど、まったく違う。


 彼は教科書を朗読する教師のように、ただ歴史を口にし、事実を伝えたにすぎない。


 彼は人を、愛している。

 だが、一切信じていない。


 だからこそ彼は、完全なる統治を選んだのだ。

 それが少しだけ、残念だ。

 けれど反面、ホッとする。


 自らの願望のために低級神を根絶やしにし、エアルガルドを創造した原初神5柱を封印した。彼の行為は間違いなく邪道であり、邪神と言われても仕方がない。

 でも彼は、間違いなく彼の正義を貫いている。


(彼に統治されたこの世界は、ハンナを生んだこの世界は、間違ってなどいないんだ!)


 アルトは素早く移動。

 床に放り投げた魔銃を拾い、マナを籠める。


「――ッシ!!」


 即座にフォルセルスが反応。

 アルトの魔銃を奪おうとする。


 その手を【ハック】で避け、発砲。


 残響。

 淡い光。


 魔弾がフォルセルスに直撃する、直前。

 彼は手の平で魔弾を弾いた。


 まだ、足りない!


 アルトはMPをふんだんに魔銃に籠めて、再度発射。

 しかし銃口は真上。


「一体どこを――なに!?」


 直上へ射出された魔弾が、【ハック】にて進路を急転換。

 右へ左へ縦横無尽に動き回る。


 さらにアルトは魔弾をいくつも射出する。

 数十発の魔弾が疑似的に跳弾し、設置された数十、数百の【ハック】を踏んで速度を高めていく。


 アルトの目ですらもう、残像しか捕らえられない。

 その跳弾した魔弾が、いくつかのステップを踏んだあと、フォルセルスに向かう。


「な、っく!!」


 彼は大声を上げ、次々と超音速で迫る魔弾を弾いていく。


 ある魔弾は10のステップでフォルセルスに到達し、またある魔弾は100のステップでフォルセルスに飛来した。


 時間差と速度差をつけて迫る魔弾に、さしものフォルセルスも限界が来た。

 足を動かし魔弾の射線から逃れる。


 次の瞬間、


「な!?」


 フォルセルスの足が【グレイブ】にすっぽり埋まった。

 その隙に、アルトは【重魔術】を発動。

 彼の中心にセットし、重力を発動。

 射線から逸れたフォルセルスへと、魔弾が引き寄せられる。


「うおおぉぉぉぉぉ!!」


 数十発の魔弾がフォルセルスを直撃。

 彼の体で破裂し、辺りが真っ白に染まっていく。


 それでもアルトは決して警戒態勢を解かない。

 こういう時こそ、もっとも警戒すべきなのだ。


 その予測通り、光の中からヌっとなにかがうごめいた。


 咄嗟に【回避】

 目と鼻の先を、それが掠めていく。


 腰を落として次の攻撃に備えたアルトは、自らの頬から生暖かいものが流れ落ちる。


「舐めるなよ人間」


 光が消え、姿を現わしたフォルセルスは長巻を手にしていた。


(なんというレア装備……!!)


 アルトが保持するレア魂と、ドワーフに植え付けられた職人魂が疼き出す。


 だがそれも一瞬。

 すぐにアルトは己を強く諫める。


 あれは侮って良いものではない。

 恐ろしい威力と能力を秘めている。


 見た目は長巻だが、よく見れば先端の形状が変化するように【刻印】が組み込まれている。

 更に切れ味強化がこれでもかというぐらいびっしり【刻印】されていた。

 それも4次元的に。


 用いられている金属はオリハルコンとヒヒイロカネ。

 それだけでもう最高の切れ味だ。加えて【刻印】がある。


 おそらくエアルガルドで最も切れる武器だろう。

 ドワーフが産みだした最強の盾と戦っても、矛盾など生まれるまでもなくあの長巻が勝つ。


 さて、どうする……。


 体の周りにマナを噴射して魔弾を中和させたのか。フォルセルスに傷らしい傷はほとんど見られない。

 多少、神官衣が所々痛んでいる程度だ。


 いまの攻撃でも傷すらつけられないなんて……。

 若干自身を失ってしまう。


『これじゃフォルセルスに勝てないじゃない!』

『俺に体を貸せ。フォルセルスくらい簡単にひねり潰してやる』

『いいや儂だ。儂に貸せば最強の武具を作ってやるぞ!』

『そんな時間ないでしょ! 馬鹿なの?』

『(うずうず)』

『メヒトはダメ。アルトには尻尾がないから満足に戦えないでしょ』

『……ないなら、作ればいい』


 なんかもう、邪神ってこの神達のことじゃないの?

 というか、ないなら作ればいいって、尻尾って生えるもんなの!?

 心の中の声が気になって集中力が乱れてしまう。


 いいから黙って見ていて欲しい。

 まだ出来ることはあるんだから。


 それに……。

 神に体を貸してハンナを取り戻したって、つまらない。

 アルトはここまで、ハンナだけを目指して生きてきたのだ。

 ハンナが生きる世界を想像してきたから、ここまで頑張ってこられたのだ。

 神だからって、人の楽しみを奪うのだけは、絶対に赦さない。


『あ!楽しみだって言ったこいつ!』

『……神との戦闘が楽しいだぁ? イカレてんのか?』

『だが、それが面白い。じゃろ?』

『まさに変態』

『たはは……。僕も弁護できないなこれは』


 最後の良心、ネイシスまでもが反旗を翻した。

 え? なんで!?


『だって考えてもみなよ。友達を救うために神と戦うことが楽しいなんて言う奴は、一体この世界のドコにいるって言うんだい?』

「…………」


 確かに、この世界にはいないかもしれない。

 けれど、日本には沢山いる。


 神と戦うなら、是非日本人から魂を選んでもらいたい。

 きっと彼ら彼女らならば、悦んで戦ってくれるだろう。


 ただし、結構良いチートを与えないとグレる可能性があるのが難点である。

 蜘蛛にしたりスライムにしたり、はたまたゴブリンにしたり、そんな悪戯をしたら反旗を翻されかねない。

 それすらも悦ぶド変態がいるのも確かだが……。


 ボクはそんな人とは違う真っ当な――


『変態か』

『変態じゃな』

『HENTAIよね』

『変態』

『変態さんだね』


 よろしい。ならば戦争だ!

 心の中をぐっと狭めると神々がギャーギャー騒ぎ出した。


 っふん。

 人の体を借りていることを忘れてはいけないのだよ!


 神が落ち着いた(心壁に圧迫された)ところで、アルトは再び集中力を高めていく。

 神にもらった力を用いて、いままで通り、いつも通りの、自分らしい普通の戦い方をする。


『普通ってなに!?』

『振り返ってはいけないことじゃな』

『現実を見るから』

『ブッ、クスクスッ!!』

 五月蠅い!!


 意識が深い海を潜り、奥へ落ちていく。

 視界が狭窄し、フォルセルスのみに焦点が固定される。


 音が消え、呼吸を忘れ、鼓動さえもおとなしい。

 一瞬が永遠に引き延ばされる。


 瞬間。

 フォルセルスが動いた。

 それに合わせアルトも動く。


【ハック】を用いて動きをアシスト。

 これまでつちかってきたあらゆるスキルを、次から次へと組み合わせる。

 それらを単体で使い、また合成する。

 相手に決して動きを掴ませない。


 フォルセルスが長巻を払う。

 真横を向いている刀身が、アルト直前で刃を立てた。


 なるほど……。

 そういうことか!


 それを寸前で避けて、発砲。

 彼の腹部に被弾。

 しかし、ほとんどダメージはない。


 即座に移動。

 回避、発砲、退避、移動を繰り返した。

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