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【WEB版】最強の底辺魔術士 ~工作スキルでリスタート~  作者: 萩鵜アキ
二部一章 それぞれの思い

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帝国騒乱編 エピローグ

「で、これぁどういうことだよ?」


 ユステル兵は一切の抵抗を見せず、港に座り込んでいた。

 一見すると面従腹背であるように思えるが、その目は死んでいる。


 一体彼らに何があったのか……。

 よほど恐ろしい思いをしたに違いない。


 そんな兵士達をアヌトリア軍が捕縛していく中、アルトはテミスに詰め寄られた。


「はて……」

「はてじゃねぇよ!」


 平民とあまり馴れ馴れしく喋るところを見せたくないのか、テミスは声を低くした。


「なんで突然船が沈んだ? これもテメェのせいだろ?」

「ボクじゃありませんよ。さすがに、ボクでも軍艦を一度に沈められませんでした」

「…………でした? もう、試した後かよ」

「はい。全力で魔術を打っても、船底に穴しか空けられませんでした」

「しかってなんだよ、しかって。もうその時点でおかしいって気付こうぜ?」


 皇帝の目から光が徐々に消えていく。

 あ、これアカンヤツや、とでも言うみたいに。

 その視線に晒されたアルトはバツが悪くなり、言い訳を口にする。


「船が沈んだのはボクのせいじゃなくて、レヴィがやらかしたんですよ」

「レヴィってのは誰だ、テメェの仲間か?」

「まあ、仲間といってもドラゴンなんですけど」

「は?」


 テミスが一歩引いた。

 まるで彼とアルトの間の地面が突如割れたかのように。

 おそらく生じた亀裂はそれよりも深い。


「ドラゴン? 仲間が?」

「はい。実は魔物使いなんて職業を付けたときに、仲間になってしまいまして……」

「うん。なるほどな。わかったわかった」


 ぽんぽん、とテミスがアルトの肩を叩くが、きっと彼はなにも判っていない。

 いや、判ろうとせずにすべて放り投げている。


「間違いねぇ。テメェは変態だ。諦めろ」

「っく……」


 まさか皇帝にまでそう言われるとは。

 アルトは崩れ落ちそうになるのを、必死に堪え空を仰ぐ。


 なんで空は青いんだろう。

 空が青いのに、どうして雨が降るんだろう。


「さて、不幸の使者アルト」

「不気味な二つ名を付けないでください」

「じゃ変態のアルト」

「それは却下です」

「ったく、我が儘だなぁ。……で、アルト。バルバトスがブルってるとこを、一緒に拝みに行こうぜ」

「皇帝は悪い人ですね」

「悪い奴じゃねぇと、頭張れねぇんだよ。頭ってのはなあ、下を踏み台にするから、上に居られんだ。頭になった奴ァ誰も天国になんて行けねぇぜ?」

「その最たる人物がいまボクの横にいると」

「俺みたいな聖人になんてことを言うんだ……」

「先ほどと言ってること違いません?」

「さてな。ほら、見えてきたぞ。自尊心を満たすためだけに他国を侵略するような極悪人の顔がよ」




  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □




 シュルトの再建。アドリアニ・ユステルへの賠償金取り立て。ボティウスの死亡報告。

 港の再建。バルバトスの捕縛。王と家臣の身代金請求。

 そして此度の戦争について、セレネと意見交換。


 アヌトリアは猫の手でも借りたくなるほど多忙を極めた。


 テミスはきっと、1時間置きに文官にぼやいているだろう。

 文官は「はいはい」と受け流しているが、彼だって目の下にクマを作っている。大変なのはテミスだけではない。

 帝国『臣議会』すべてが大忙しだ。


 シュルト方面は、フランがいるから問題はないだろう。

 一瞬ボロボロになったフランがへこたれて挫けそうだったが、現在は常に前を見て走り続けているらしい。


 フランを見つけたのはテミスである。

 だからこそ彼女が頑張っていると、テミスは誇らしい気持ちになる。

 彼女の奮闘に、いずれ応えなくてはいけないだろう。

 皇帝としてか、個人としてか。

 それは彼女次第だ。


 ユステルからはかなり強くクレームを付けられた。

 神の申し子である王を捕らえるなど非道であるとか、神フォルセルスの神罰が下るとか。


 テミスからすれば、そんなこと知ったことじゃない。

 ボティウスと共謀してアヌトリアを攻め落とそうとしたのはバルバトスである。

 彼がボティウスを誘惑しなければ、シュルトで虐殺は起らなかったし、ボティウスが化け物に変化することもなかった。


 便衣兵で虐殺を行い、民を精神的に追い詰めたアドリアニ兵は決して許されないが、それを裏で操っていたにも関わらず、

『我々は一般人を虐殺することも、港で破壊行為を行うこともなかった』

 などと口でクソをタレやがる。

 そんなバルバトスが一番気にくわない。


 ただそれはあくまで皇帝ではなく、テミス個人の意見。

 帝国裁判でその思いが忖度されることはない。

 とはいえ客観的証拠がある以上、バルバトスの極刑は避けられない。

 当然ながら、参戦した兵たちも捕虜として軟禁生活を続けることとなる。


 人の命には値段が付かない。

 付かないからこそ、貴重であるという幻想を抱ける。

 そこに値段が付いたとき、人は現実的な価値を知る。


 さてユステルは重い刑罰を受ける彼を、いかほどで買い取るだろう?

 その屈辱に、プライドの高い彼が耐えられるかどうかが、今後のテミスの楽しみの一つだった。




 戦後処理を続け、もっとも忙しいひと月が経過したとき、アルトを警護していた諜報部から、〝彼〟がイシュトマを出立したとの報告を受けた。


 そろそろか……。

 テミスは仕事を続けつつ、頭の中に別のイメージを広げていく。


 彼の理想の帝国は、いままさに組み上がろうとしている。

 あとはその台座に、英雄を添えるだけである。

 その英雄がテミスの話を聞いてくれるかは疑問だが……。


 しかし、もし帝国に骨を埋めなくとも、英雄の為ならばテミスは惜しみなく力を貸すつもりだ。

 このクソったれた邪神が支配する世界をぶち壊すために。


 それが皇帝テミスと、そしてかねてより帝国の願いなのだから。

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