表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【WEB版】最強の底辺魔術士 ~工作スキルでリスタート~  作者: 萩鵜アキ
二部一章 それぞれの思い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

196/321

刺客の影

 ――助けたい人。


 心に浮かんだハンナの笑顔が、アルトに手を抜くことを許さなかった。

 アルトが工作している間、シトリーは政財界のお歴々と次々会食を重ね、権力者とのパイプラインを増やしていった。


 あっという間にケチャ包囲網が完成し、ケチャの秘書を陥落させたのだった。


「一体どんな手練手管を用いたんですか?」

「それは企業秘密ですわ」


 ただ会食するだけで、何故皆が協力的になっていくのか、さっぱり想像も付かない。

 ただひとつ言えるのは、その力がアルトに向けられなくて良かったということだけだ。


(貴族の人心掌握術、恐るべし……!)


 周りにいる中立的な人達が、ある日突然敵にまわっている。

 そんな光景を想像するだけで体の芯が冷えていく。


 秘書を籠絡したシトリーはゼニスからすべての権利を剥奪し、そして、暴君断罪の実行の日を向かえたのだった。




「アルトに手伝って頂けたおかげで、思うような成果が出せましたわ。本当に感謝しますわ」

「いえ。僕は本当になにもしてませんので」

「アルトが情報を撒いてくれたおかげで、ずいぶんと動きやすくなったんですのよ? ただ……」


 シトリーが言いにくそうに口をもごもごさせる。


「12将を辞退し、己の正義を見つけるためにユーフォニアを旅立った救世主……というのは些か盛りすぎではありませんこと?」

「そうですか?」

「わたくしがユーフォニアを出たのは、決して正義を見つけるためではありませんし、ユーフォニア12将も降格処分となったんですのよ? それをこのように扱われると、困ってしまいますわ」

「平民は英雄譚が好きですから。それくらい盛らないと、話題にすら上がらないじゃないですか。それに、シトリーさんにぴったりな物語だと思いますよ」


 ジャスティスは古代語で正義を意味する。

 だが、ジャスティス家とカーネル家が公爵家の双璧として君臨した歴史を鑑みると、その意味は若干変化する。


 カーネルが仁。

 であれば、ジャスティスは義。


 利害を捨てて条理に従う。公のために尽くす気持ち。それが義であり、彼女のジャスティスなのである。


 今回の件については、シトリーに義があった。

 義を見つけた彼女は、かつてないほど生き生きしていたように感じられる。


 だからこそ、シトリーにお似合いの物語なのだ。


「……アルト」


 つま先を見ていたシトリーが不意に顔を上げた。

 その目にはまた、なにかを思い悩むような、けれどすがすがしい光が灯っている。


「なんでしょう?」

「わたくしはイノハに救うべき民がいることを知りました。手を差し伸べるべき弱き人達を知ってしまいました。ゼニスキー商店は抑えましたが、過酷な労働環境はまだまだ存在しております。ですから、わたくしはこの地に残り、正義を貫きたいと考えておりますの」

「そう、ですか」


 少し残念だけれど、彼女ならきっとそう言うとアルトは思っていた。


 ゼニスキードを断罪して、これで終わるわけじゃない。

 また第二、第三のゼニスキードが現われる。

 そういう下地がイノハには存在している。


 けれどこの地に彼女が残れば、きっと他の悪が芽吹くことが無くなるだろう。


 アルトは納得したが、リオンは少し複雑そうな顔をしている。

 リオンはアルトよりも1年ほど長くシトリーと旅をしている。その間に、侃々諤々喧嘩をし、けれど喧嘩したぶん情だって沸いているはずだ。


 彼女にとってシトリーはもはや大切な仲間。

 友人であるはず――


「これからシトリーで遊べなくなるのか……」

「……リオンさんはわたくしのことを何だと思っているんですの!?」

「おもちゃ?」

「ふんっ!」

「――いでっ! な、殴ったな!?」

「貴方が失礼なことを言うから悪いんですわよ!!」

「だからって手を出す必要なくね!?」


 キィィ! とまた乱闘が始まる。

 さっきまでのしんみりした雰囲気はどこへやら。

 けれど二人の別れは、これくらいが良いのだろう。


 しんみりなんて似合わない。

 ひっかき傷で、涙目くらいが丁度良い。



  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □



 イノハの外壁にそびえ立つ鐘楼の屋根の上に、2つの人影が並ぶ。

 屋根の上に至るための足場はない。通常の人ならば決してそこに昇ることが出来ない場所である。


 つまりそれだけで、2人がただ者でないことがわかる。


「どうやらがんばってるみたいだねー」

「…………」


 まるで少女のような1人が無垢な声で話しかけるも、もう1人の男性は無視をする。


「でもさー。おもしろくないよねー。ちょっと悪戯しちゃおっか?」


 少女は口を歪めてそれは笑う。


「ふふ。いま奈落におとしたら、どんなかおをするのかなー? たのしみだねー」

「……」


 子どもがはしゃぐような笑い声は、まだこの街の誰にも届かない。

 それが届いたときにはきっと、『はしゃぐような』などとは決して表現出来なくなるだろう。


 それは少女――教皇庁指定危険因子No4が、シトリーたちに狙いを定めた瞬間だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作「『√悪役貴族 処刑回避から始まる覇王道』 を宜しくお願いいたします!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ