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【WEB版】最強の底辺魔術士 ~工作スキルでリスタート~  作者: 萩鵜アキ
二部一章 それぞれの思い

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正義覚醒

「なんと言われようと、もううんざりですわ。わたくしが辞めると決めたのですから、仕事は辞めさせていただきます。さあ、1週間分の給金をお支払いくださいまし」

「たった1週間しか働いてない奴に、給金が当たると思ってんのかこの屑が!!」

「給金の支払いは法により制定されているはずですが、ご存じありませんこと?」

「てめぇがクソみてぇに辞めちまうから、依頼掲載料金でマイナスになんだよ! こっちが損してんだ、逆に金を支払えクソアマが!!」


 アルトと狩りをしたときの魔石は、すべて彼に渡している。

 その魔石だけでも、金貨10枚は下らない。

 つまり、損しているというのは真っ赤な嘘だ。


 シトリーは僅かに眉を動かした。


「先日渡した魔石があっても、足りないほどの依頼掲載料をお支払いですの? では、ギルドの方に確認して頂きますわね」

「ぐちぐちうっせぇな!! てめぇは国の奴隷になったんだ、働かなきゃ殺されても仕方ねぇ虫けらな存在なんだよ!!」


 実にすがすがしいほど、脳の足りない雑言である。

 もう少し流麗な言い回しができないのだろうか?


 聞いているだけで、シトリーの中にとある感情が芽生えた。

 それは過激で、苛烈で、熾烈な憎悪。


 ドロドロとした粘性のある感情は、シトリーにとって懐かしいものだった。

 まるでユーフォニア12将で、宝具を使っていたときのような感覚。

 それがつま先から頭のてっぺんまで、完璧に満たしていく。


 男は腰に据えた皮の鞭を手に取り構える。

 その鞭は、革がどす黒く変色してしまっている。


 その色は――考えるまでもない――ここの労働者の血と汗と涙だ。


「今すぐぶち殺して――」

「黙りなさい下郎」


 目にも留まらぬ速度で抜きはなった細剣を数度打ち込む。

 シトリーは刹那のあいだに、男の鞭をズタズタに引き裂いた。


「わたくしはユーフォニア王国公爵家が長女。シトリー・ジャスティス」


 心に、一筋の光が差し込んだ。

 すぐに消えてしまいそうなそれに、必死に手を伸ばす。


 たぶん、これだ。

 この方向だ。


 憎悪が、激怒が、奈落に墜ちたシトリーを急速に浮上させる。


 無意識に、腰に下がったジャスティス家の宝具に手を伸ばす。

≪己が信じる絶対正義(トラステスト・ジヤスティス)≫が僅かに熱を帯びる。


 弱き者を助け、強き悪を挫く。

 それが宝具と交わした制約。

 己の抱いた理想。

 ――理想だったはずのもの。


 なのに、何故それを忘れていたのだろう?

 宝具に誓ったはずなのに。

 今更思い出すなんて……情けない!


 本当に弱き者は誰か?

 本当に強き者は誰か?


 かつて、アルトと戦ったときは、失敗した。

 見失っていた。

 見間違えていた。

 目が曇っていた。


 けれど、いまならわかる。

 なにを間違えたのか。

 なにを見失ったのか。

 何故、目が曇ったのか……。


 一度瞼を閉じ、しっかりと理想を思い描く。

 理想を描き、共有し、抽出し、具現化する。

 それをその身に宿して深呼吸。


 再び瞼を開くとそこにはもう、弱いシトリーはいなかった。


「覚悟なさいまし。元12将にして元断罪官のわたくしが、正義の名の下に、貴方に神の鉄槌を下しますわ!!」



  □ □ □ □ □ ■ □ □ □ □ □



 イノハの迷宮はキノトグリスよりも1体あたりの経験が低いため、まともにレベリングしたのでは効率に限界がある。


 1日1000体2000体程度では、2年かかってもレベル60台には乗るまい。

 だからこそアルトは、仕掛けた【マイン】を用いて魔物の狩る量を底上げしている。


 とはいえ、無条件に【マイン】が使えるわけではない。

 設置した【マイン】を一定以上開放すると、神経が通電するような激烈な謎の痛みにより気絶してしまいそうになる。


 その痛みは大量の【マイン】による過負荷だ。


 ポイントを使ってレベルを上げたことで、多少は痛みが弱くなったが、気休め程度でしかない。

 激痛が生じるせいで、【マイン】を使いこなせないのがもどかしい。


 切りの良いところで、アルトは一度休憩を入れる。


「おっ、珍しく休憩か?」

「珍しくって、これまでも普通に休憩してたじゃないですか」

「普通ってなんだ!? 振り向かないことか!?」


 リオンのテンションがやけに高い。

 なにか妙なものでも食べたのだろうか?


「前回休憩したのがもう昨日だよ昨日!! 昨日休憩して、15時間狩り続けるのが普通か!?」

「そんな――うぉ!?」


 馬鹿なと言おうとしたアルトが、自分の手元を見て悲鳴に近い声を発した。

 手から服から、真っ赤な血液にまみれていたのだ。

 まるで大量殺人を犯した後のような出で立ちに、さすがのアルトも顔が青くなる。


 イノハの迷宮に巣くう魔物の多くは死霊系。つまり倒せば自動的に消える魔物ばかりだ。

 しかしごく一部、倒しても迷宮に吸収されるまで消えない(なま)の魔物が存在する。


 たとえば双頭犬(プチケル)であったり大蝙蝠(ウォバツト)であったり。

 死霊系の中にあって生の魔物は実に珍しい。おそらく200体呼んで1体いるかどうかだろう。


 にも拘わらず、アルトは大量殺人事件の犯人のようになっているのだ。

 リオンの言葉が虚言でないのは確かである。


「すみません、熱中しすぎました」

「別にいいけどな。相手は師匠、こうなることは予測済みだぜ」


 どしっと腰を下ろしてリオンは鞄からキャベツを取り出し口に放り込んだ。


「そういえば、僕が戦ってるあいだ、モブ男さんはどうしたんですか?

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