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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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夢が一つ生まれる時

 親父には言いたい事は言えた。僕が小説家兼絵師になる事を。父親はそんなに世の中は甘くないと言っていた。でも僕はやる。何としてでも自分を夢を実行に移そうと思っている。


 そんな事を考えながら西宮さん達とカレーライスを作った。西宮さんも斎藤さんも奈々子さんも手際よく材料の下ごしらえをやってくれた。僕には西宮さんと斎藤さんという友達がいて恋人の奈々子さんがいる。それだけで充分だ。


 カレーライスは出来上がり、本当においしいカレーだった。こうしてみんなとご飯が食べられるのは後どれくらいだろう。それに僕達はいつもライバル意識を高めて勉強や小説に絵をやっている。


 カレーライスも食べ終わり僕達は少し休んで勉強に小説を書いた。それにしても親父の奴、急に僕の所に来てびっくりした。そう言えば親父は僕に暴力を振るわれたにしても全く僕を恨んだ様子は無かった。


 そしてあっという間に新聞配達の仕事になり僕達は新聞配達所に向かいここでも勝負をする。僕と西宮さんがつき、奈々子さんと斎藤さんが組んだ。


「今日は負けないからね、アツジ」


 奈々子さんはライバル意識全快で僕にそう言った。僕だって負けないよ奈々子さん。僕達はライバル兼恋人同士なんだから。それに西宮さんと斎藤さんは友達兼ライバル同士だ。


 新聞配達の仕事も終わって今日は奈々子さんと斎藤さんが勝ってしまった。約束通り、斎藤さんと奈々子さんにジュースをおごられる事となった。本当に西宮さんは悔しそうにしていた。


 もう日が暮れている、西宮さんと斎藤さんはたまには自分たちの施設に戻り、そこで夕飯を食べて寝ることになった。


「アツジ、久しぶりに二人きりになったね」


 奈々子さんが言う。本当に僕と奈々子さんは二人きりになってしまった。でもこうして二人きりになると何か緊張してしまう。いつも西宮さんや斎藤さんがいたからだろう。


「アツジは、お父さんの事、どう思っているの?」


 どう思っているかと聞かれると、嫌いとしか頭の中に入ってこないが、先ほど父親の後を追って話してみたら、僕のことを応援してくれた。親父は親父なりに僕のことを心配していたのだ。だから僕は奈々子さんに何とも思っていないよと言って置いた。それで奈々子さんは複雑そうな顔をしていた。


 とにかく僕は父親の力など借りなくても何とか一人でもやっていけるのだ。いや一人ではないか。僕には奈々子さんという最高のパートナーが存在している。奈々子さんも新聞配達をしてお金にはあまり困ってはいない。


 僕は美術系の通信制の学校に進学するつもりであった。そこで絵を学んで、いつか美術大学に言って、そこで本格的に絵の勉強をして、やっていくつもりだ。


「奈々子さんは進路とか決まった?」


「まだ、決まっていないけれど、あたしもアツジと同じ道を進もうと思っているの!」


「僕と同じ道を進むつもりなの?」


「悪いかな?」


「悪くはないけれど、僕と同じ道を進んでどうするつもり?」


「また、いつものようにライバル意識を高めて、アツジに対抗しようとしているんだけど」


「僕は美術学校の通信制に行くつもり」


「だったらあたしも、そこに行くわ」


 奈々子さんは言っているが、本当にそんなんで良いのか僕は疑問を覚えた。奈々子さんも小説を描いている。でも絵は言っちゃ悪いが僕ほどの技術を持っていない。でも奈々子さんがそう決めたならそれで良いかもしれないが、奈々子さんには僕の後について来ないで、他の道を進んだ方が良いと思っているのだが・・・どうなんだろう?


「奈々子さんの夢って何なの?」


 そう言われると奈々子さんは黙り込んでしまった。やっぱり奈々子さんは自分のやりたいことに少し考えた方が良いと思った。


「アツジ、今日も星が綺麗だね」


「じゃあ、今日は西宮さんも斎藤さんもいないことだから、河川敷に行って星でも見に行こうか?」


 奈々子さんは僕の誘いに大いに賛成してくれた。こうして二人で星を見るのは久しぶりだ。河川敷は外灯もなく真っ暗なので星がよく見える。そんな星空の下で僕達は東京では一等星しか見えない、シリウスにオリオン座、プロキオン双子座の一等星ポルックス、カストル、に牡牛座のアルデバランなどを見上げて、冬のダイヤモンドを見上げた。


「この星々は何万年物前の輝きなんだよね。そう思うと歴史を感じてしまうな」


 それぞれの星々は何光年もの距離に位置している、後年とは光の速さが一年進んだ距離でその距離は六兆九千億キロほどの距離だ。最近地球に似た星があり、その距離は何と四光年の距離だと聞いたことがある。今の僕達の文明ではいける距離ではないだろう。でも科学は進んでいるからそこに到着するのもそう遠くない未来なのかもしれない。


 僕は星を見て思ったんだ。天文学者になるのも捨てがたいと思った。天文学者がどれぐらいの利益をもたらすのかは分からないが、お金も大事だが、将来、天文学者になるのも良いかもしれない。こうして奈々子さんと星を見られるのはどれくらいなのだろうか?もしかしたら一生共に見る仲になるかもしれない。


 好きな仕事をしてお金を得て生活するなんてとっても人生が楽しくなるような気がしてきた。


 そんな星を飽きずに見ていると、奈々子さんが咳き込みだした。


「奈々子さん外は寒いからそろそろ帰ろうか?」


「そうね」


 僕と奈々子さんが帰る途中に僕の携帯が鳴り出した。着信の相手を見てみると、桃子からの電話だった。やばい、いつも光さんと桃子が夕飯を作りにやってくるんだっけ。桃子はカンカンだった。


 僕と奈々子さんの家に戻ると、桃子はカンカンだった。


「もう二人してどこに行っていたのよ。それと西宮さんと斎藤さんは?」


「今日は久しぶりに、施設のご飯を食べに帰って行ったよ」


「じゃあ、光さん、今日はうちと光さんと奈々子さんとお兄ちゃんの分のシチューを作ろうよ。本当は六人分作ろうとしたんだけれども、急に二人は不在になってしまったからね」


「そうね」


 と光さん。


 そこで親父の事でピンときて桃子に聞いてみると、桃子は親父は僕のことを本気で心配しているって言っていた。桃子は逐一親父に僕の事を報告するように命じられているみたいだ。本当は親父には内緒にして置けって言っていたけれど、親父は本気で僕の事を心配していたみたいだ。


 世間で中学生を野放しにして一人暮らしをさせているなんてとんでもないと言っていたが、そんなの口実だと言うことが分かり僕はちょっぴり親父の事に対して、関心を示した。

 桃子はもしお兄ちゃんが良かったら帰ってきても良いと言っていたが、それは遠慮しておく。僕には勉強も生活だって奈々子さんとやっていけるし、学校ではもういじめられなくなったし、それに今年は受験だが、僕は通信制の美術学校に行くつもりだ。そこはもう調べてあってそんなにお金のかかるような所じゃないことを知っている。それにそこは入学は誰でも出来るが卒業するのが大変なだけで僕はそれをやりきれる自信がある。


「お兄ちゃん。お母さんも心配しているよ。それにお父さんも」


 そう言われると僕はありがたいし、一人じゃない事に気づかされる。

 でも僕の隣でそれを聞いていた奈々子さんはあまりいい顔はしなかった。

 僕が実家に帰ったら、奈々子さんは一人になってしまい、一人では生きられずに保健所の人間に施設へと運ばれてしまうだろう。本来光さんの力がなかったら僕達は中学生同士生きていけるわけがないんだ。

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