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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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絶望的な気持ち

 奈々子さんは泣きながらアパートから出て行ってしまった。

 僕が追いかけようとすると、西宮さんに手を引かれた。


「行きたいものには行かせてあげなよ」


「僕は西宮さんの思いには答えられない」


「そういう意味で言っているわけじゃないよ。私も奈々子の気持ちを考えると分かるよ」


 そうだった。奈々子さんは同情されるのが嫌いなタイプの女の子だと言うことを忘れていた。僕の今の気持ちは凄く複雑に入り組んでいる。僕は奈々子さんがかわいそうだから付き合っていたのか?もう一度自分の気持ちを整理するつもりだ。

 やっぱりそうだ。奈々子さんを一人にすると、永遠の闇に消えて亡くなってしまうことを僕は恐れていたんだ。


 僕は今度奈々子さんに会う時、どんな顔をして合えば良いのか分からなかった。


「僕は奈々子さんを探しに行くよ」


 と斎藤さんと西宮さんに言うと西宮さんは、


「奈々子なら大丈夫だよ。新聞配達の時間になったら、ちゃんと来るから」


 西宮さんの言うとおりだ。とにかくまたもう一度奈々子さんと話し合うために、僕と西宮さんと斎藤さんで勉強を続けた。


 とりあえずペペロンチーノを持ったお皿を片付けようとして見てみると、奈々子さんのお皿だけ半分残っていた。奈々子さんお腹すかせていないか心配だった。

 本当に奈々子さんは西宮さんの言うとおり、新聞配達の仕事にやってくるのか?僕は心配だった。

 とにかく奈々子さんに出会ったらとりあえず謝ることから始めるしかない。

 奈々子さんを同情の目で見ていたことに僕は反省しなければならない。

 僕の伴侶とも呼べる奈々子さんを失うことを考えるとなぜか凄い絶望に打ちひしがれそうな感じにさせられる。

 奈々子さんがいない人生なんて嫌だ。

 だったら奈々子さん。僕は同情してても奈々子さんと付き合っていたいよ。


 そして勉強は奈々子さん抜きで三人でやったのだが、二人はどう想っているのか分からないが、僕は勉強に拍車がかからなくなっていた。


 そうだ。奈々子さんは僕のライバルだ。僕と奈々子さんはライバルであり、恋人関係でもあるのだ。だから、奈々子さんに対する気持ちは同情だけの気持ちだけじゃない。

 それはそうと奈々子さんが出て行って、西宮さんは僕にアプローチしてこない、いったいどういう事なんだ。


 そして時間は時々刻々と進み新聞配達の時間になってしまった。


 三人で自転車で配達所に向かうと、すでに奈々子さんはいた。


 僕の目を見ると、プイッと目を反らされてしまった。

 そうされて傷ついたが、とりあえず、奈々子さんが新聞配達の仕事に来てくれた。

 本当に西宮さんの言うとおりだ。


「奈々子さん。機嫌直してよ」


 すると奈々子さんは爪を立てて僕の顔面をひっかいた。


「痛い、何をするの奈々子さん」


「自分の胸に聞いてみなさいよ」


「それよりも奈々子さん。心配したんだよ。今までどこにいたの?」


「あたしがどこに行こうと関係ないじゃない。あなたは涼子の紐にでもなっちゃえば良いのよ」


「本当にそれで良いの奈々子」


 と西宮さんが僕と奈々子さんの会話に口を挟んでくる。


「好きにしなさいよ!!」


 とだだをこねる子供のように僕達に怒鳴りつけてきた。


「とにかく、話し合おうよ、奈々子さん」


 僕は冷静になり、奈々子さんに対応する。


「良いの、奈々子、あっ君は私が貰っても」


「好きにすれば良いでしょ!!」


「あっ君に対する気持ちは奈々子、その程度の物だったの?」


 やばい。また奈々子さんの逆鱗に触れてしまう。


「そろそろ新聞に一部ずつ入れる作業をするんでしょ」


 奈々子さんは平静装っているようだが、今の西宮さんの言葉に心に大きな動揺が走ったと僕でも分かった。


 そうだ。それよりも今は仕事の時間だ。新聞に一部ずつチラシを入れる作業をして、その作業を終えて、今日は、奈々子さんは西宮さんと、それで僕と斎藤さんと組むことになってしまった。

 いつも組むコンビが違うのに、奈々子さんは相当頭に来ているようだ。


 何だろう?斎藤さんといると何か気まずいオーラが放たれていた。

 斎藤さんに奈々子さんの事を相談しようとしたが、そんな事斎藤さんに相談する程の事じゃない。

 とにかく僕はどうすれば良いのだろう?

 僕は奈々子さんと別れたくない、だからと言って西宮さんに乗り換えるなんてそんな事出来るわけじゃない。


 仕事が終わって、配達所に戻ると、西宮さんと奈々子さんはもう到着していた。


「斎藤さん、僕達負けちゃったみたいだね。僕は奈々子さんにジュースをおごって、斎藤さんは西宮さんにジュースをおごってあげてよ」


 僕が改めて言うと奈々子さんはスタスタと、自分の自転車に乗ってどこかに行こうとしたところ、「ちょっと待ってよ奈々子さん、どこへ行こうと言うの?」と言って、奈々子さんが行こうとする、場所を遮るように奈々子さんの前に立ち塞がった。


「どいてよこの浮気者!」


「浮気者って!?」


 西宮さんの方を見ると、クスクスと小悪魔のように笑っていた。


「西宮さんに何を言われたのか知らないけれど、僕と西宮さんはそんな関係じゃないよ」


「涼子とエッチしたそうじゃない!」


「はあ!?そんなことするわけないじゃないか!そんなに僕のことを信用できないの!?」


「出来ないよ。この浮気者!」


 今度は横っ面を引っかかれてしまった。

 僕は泣く以外何も出来なくなってしまった。


「今度は泣き落とし、言い様ね、翔子をどこかにやって、涼子とエッチしたって涼子は言っていたけれども」


「そんなのでたらめだよ。西宮さんも言ってやってよ。僕達はそんな事はしていないって」

 

 すると西宮さんは、「あっ君、またやろうね」と誤解を産むような発言をする西宮さん。


 どうやら西宮さんは奈々子さんと新聞配達をしている最中に、誤解を産むような事を吹き込んだみたいだ。


「奈々子さん。そんなに僕の事が信用できない?」


 奈々子さんは怒りに染まったその目を僕に見せつけた。


「出来ない!」


 フイッと横を向いてしまった。


「奈々子さん・・・」


「それよりも、そこをどいてもらえる。あたしはそろそろ帰らなくちゃいけないから」


「帰るってどこに帰るの?」


「アツジには関係ないでしょ」


 想像するのも怖いが、もしかして、奈々子さん、新しい彼氏を作ってしまったんじゃないかと思ってしまった。


 奈々子さんはそのままどこかにいなくなってしまった。

 結局思ったんだ。僕達の関係ってこの程度の物だったなんて。

 涙が止まらない。そして目の前が真っ暗に染まってしまった。

 何だよこれ、何にも見えないよ。誰か助けてよ。


 心が壊れそうになってすべてが信じられなくなりそうな時に僕の右手に西宮さんの左手が繋がれた。

 そうだ。すべては西宮さんのせいだ。


「西宮さん、何てことを言うんだよ!」


「あなた達の絆ってその程度の物だったのよ。でも私はあっ君の事を幸せにする自信はある。良かったら私と付き合ってみない?」


「ふざけないでよ」


 と言って西宮さんが繋いだ手を振り払った。


「ふざけて何ていないよ。私はあっ君の事が好きなんだもん。それにあなた達の信頼ってその程度の物だって事が良く分かったんじゃない?」


 確かに西宮さんの言うとおりだ。僕達の信頼ってこの程度の物なのかと。


 すると西宮さんは再び僕の手を握って、西宮さん自身の胸に手を当てられた。


「感じるでしょ。この私の胸の高鳴りが、私は同情の目で見られても良い。私と奈々子はその違いなのだから」


 僕は西宮さんの誘惑に落ちていきそうだった。

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