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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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本当にやりたい事は?

 西宮さんと斎藤さんが作ってくれた麻婆豆腐は本当においしかった。

 食事も済んだ事だし、僕と奈々子さんと光さん、桃子はこれでおいとますることにした。


 光さんは正君に「明日でも図書館にいらっしゃいよ」と微笑ましい笑顔で正君に言う。


「分かりました行きます」


 西宮さんが「ほら、正、あまり光さんに面倒をかけてはダメよ」


 光さんは「良いのよ。学校に行けないなら図書館にいらっしゃいよって以前あっ君にテレビを通じて話したことがあるんだから」


 そう言えばあの時は助かった。あの時たまたまニュースで見かけた言葉がリフレインして僕は学校には行かずに図書館に行っていじめに遭わなくて済んだのだ。

 それに頭の固い親たちから解放されて大変だけど、一人暮らしが出来るくらいになって来たのだった。

 本当に光さんには感謝をしている。

 正君も僕と同じように図書館で何か面白い物を発見できたら良いのにと僕は思った。


 僕達がおいとますると、西宮さんが言った。


「これから二人で勉強と小説をするんでしょ。だったら、この施設でやっていったらどう?勉強室もあることだし」


 僕と奈々子さんは互いに顔を見合わせて、互いに微笑み合い「良いよ」僕は言った。


 時計は午後七時を示している。


 僕と奈々子さんは今日は勉強道具は持っていない。

 でもここの施設には色々な参考書が置いてあり、それを見て勉強することとなった。

 四人で勉強室に入ると、そこには最年長でぶっきらぼうの聡さんが勉強していた。

 聡さんは大学受験の勉強をしている。

 聡さんから凄い闘志を感じられる。

 西宮さんも斎藤さんも奈々子さんもそれを感じて勉学に励んだ。

 凄いやる気が出てくる。

 僕は勉強は嫌いじゃないが、たまに思うときがある。こんな勉強をして何の役に立つのかと?そう思うとやる気が失せてしまうので、とにかく僕は勉学に励んだ。

 中学の問題なら、僕は何でも出来るようにレベルがアップしている。

 それは西宮さんと斎藤さんと奈々子さんも同じだ。

 僕達はまだ中学二年生だが、三年生の問題も出来るようになっている。

 それにしても二年から三年に渡り歩く時が大変であった。

 光さんに聞いた話だと、三年生の問題は難しいと言っていた。

 でも僕達は闘志を燃やし合い、何とか乗り切ることに成功した。

 さらに光さんは言っていた。僕達のレベルだと進学校に行けるレベルだとも。

 でもこのまま進学校に行ったら何をすれば良いのだろう?

 進学校に行く人達はほとんどの人が一流大学に進学すると言われている。

 でも一流大学に行って僕はそこで何を学ぶのか考えていた。

 僕は出来れば、勉強よりも小説や絵を描く方が良いと思っている。


 その事で光さんに相談するのも良いかもしれない。


 そこで僕達はいったん勉強を休んで、聡さんに聞いてみることにした。


「あのー聡さんでしたっけ」


「何だ、どうした?」


「聡さんは勉強をして大学に入ったらどうするつもりなんですか?」


「俺は学校の先生になりてえんだよ」


「どうして学校の先生になりたいんですか?」


「何だ、お前、難しいことを聞いてくるんだな?」


「すいません」


「何で謝るんだよ」


「いえ、差し出がましいことを聞いてしまって」


「俺は中学の時、凄く荒れていたんだよ。親はアル中で、学校に行けばいじめられる。それで俺は、不良になっちまった。万引きや障害など、色々と悪さをして。でもある時、それでもここの施設長の阿部さんや、学校の理解ある先生に救われたんだよ。だから俺みたいな奴を先公になって、救いの手を差し伸べてやりてえと思っているんだよ」


「凄いですね」


「すごかねえよ。お前とお前(奈々子)、涼子から話は聞いているんだけど、中学になってそんな勉強して偉いな」


「偉くは無いですよ」


「でも、俺にこんな質問をしてくることは、何かに迷っていると思うんだがな。お前のやりたい事って何だ?」


「まあ、強いて言えば、絵や小説を描きたいです」


「だったら、その道を一直線に進むと良いぜ」


「そのまま一直線にって?」


「おっとそれ以上俺に聞くなよ、そういった自分の進路はあまり人に相談しない方が良い」


「相談しない方が良いってどういう事ですか?」


「言葉通りの意味だよ。本当にお前達のやりたい事を一直線に向かってやっていった方が良い。特に小説家になりたいだの絵描きになりたいなど、そういった特殊な事はあまり人に相談しない方が良いと俺は思うんだがな」


「そうですか・・・」


 勉強はかなり苦だが、小説や絵を描いている時が本当に楽しい。

 でも世の中絵描きや小説家で生きて行くには本当に無理があると思う。

 楽しいだけじゃ無い。きっと試される時が来るだろう。

 そんな時、僕達はどういった心構えでやれば良いのか分からなかった。

 聡さんに言われて、今書いている物語の続きが描けなくなっていた。

 本当に僕はどうすれば良いのか?分からなかった。


 何も出来なくなった僕は一人になりたいので、「ちょっと外に出てくるよ」と言って、玄関から靴を履いて、住宅街が夜空を遮る空を見上げていた。

 でも夜空をほとんど遮る住宅街でも冬のダイヤモンドはくっきりと見えていた。

 施設の駐車場に石段がある。

 そこから星を眺めていた。

 僕はどうして小説家兼絵師になりたいのか考えていた。

 それは答えは簡単だ。楽しいからだ。

 でも楽しいだけじゃ無い、僕のやっている事は試される事となるだろう。

 何かそう思うと怖くなってきた。

 

 そして大きなため息をつくと、暗闇から、奈々子さんの姿が見受けられた。


「奈々子さん」


「アツジ」


 奈々子さんは僕の大好きなほっとレモンと奈々子さんの大好きなほっとカルピスを持って僕のところにやってきた。

 そして僕の大好物のほっとレモンを僕に投げつけ、ナイスキャッチ。


「奈々子さん、珍しいね、おごってくれるの?」


「ええ、でも借りはいつか返してもらうけれどもね」


「サンキュー」


 そう言ってスクリュー式のプラスチックの蓋を開けて飲む。

 何か凄くおいしい。


「アツジは聡さんだっけ?聡さんに色々と言われて戸惑っているんでしょ」


 いやー奈々子さんには敵わないな、その通りだ。だから僕は下げた頭を上げて空を見上げた。


「奈々子さん知っている?以前話した冬のダイヤモンドだけど、あの青白く光っているシリウスって星が最も星の中で輝きを放つ一等星なんだよ」


「以前、アツジにそんなことを習った事があったね」


 そうだ。あの時は奈々子さんのお母さんの骨髄を探しに行ったときの事だった。

 結局骨髄は見つからずに、奈々子さんのお母さんは亡くなってしまった。

 その事を思い出させると、星を見る度に奈々子さんは悲しみに翻弄されてしまうのかもしれない。


「アツジ、何そんな辛気くさい顔をしているの?あたしはもうお母さんの事なら気にしていないよ。だって今はアツジがいるもん」


 奈々子さんは笑っている。

 僕の前ではほとんど笑わない奈々子さんが笑っている。

 まるであの美しく光るシリウスのような笑顔で。


 その時僕は聡さんが言っていた事に対しての心の整理がついた。


 そうだ。試されるかもしれないけれど、楽しい事をしていこうと。


「アツジ、今、聡さんから言われた事に対して整理がついたんでしょ」


「何で分かるの?」


「あたしはアツジの彼女だから」


 そうだ。簡単な事だ。僕達は難しく考えるよりも、楽しいことをたくさんして、たくさん学んで大人になっていけば良いと思っている。


 その事で聡さんは僕にアドバイスをしたんだ。

 そういった進路とかはあまり人に相談するのではなく、ただ自分のやりたいことを一直線に進むだけで良いんだと。

 それは奈々子さんの笑顔を見て僕は決意をした。

 小説家兼絵師になろうと。

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