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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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西宮さんと斎藤さんが暮らす施設

 甘いドーナツを食べて、ドッチボールの疲れは吹き飛んだ感じだ。

 僕は西宮さんと斎藤さんが施設で楽しく過ごしていることに安心した。

 もしかしたらとんでもない施設にほおりこまれて疲労困憊をしているんじゃ無いかと思ったからだ。

 西宮さんと斎藤さんが暮らす施設は二人を合わせて十八人いる。

 最年長が十八歳の聡さんと言う人でこの人はぶっきらぼうの人だがなぜか話していると心が温かい人だと言う事は分かった。ちなみに斎藤さんと西宮さんは二番三番の年長者だ。

 ほとんどの人が孤児で、親が死んだとか、幼い頃にろくに食事を与えられない人なんかがいた。

 それよりも僕は西宮さんの事を尊敬していた。

 公衆便所で産み落とされたと言うのに、全くそのような要因を見せつけず明るく振る舞っている。

 施設の中では不幸自慢する人もいたが、それはそれで仕方が無く、僕達に言われたって分からないことだしどうすることも出来ない。

 不幸自慢する人に僕は西宮さんと斎藤さんの事を見習って欲しいと思っている。

 勉強もしっかりやって、明るく元気に過ごしていることだ。

 そんな子供達と僕達はふれ合って勉強になった。

 僕とみんなを比べれば、僕なんか幸せな方だ。

 僕なんか家族が嫌になって出て行ったからだ。

 でも人それぞれ苦しみは違う。

 施設の中にも聞いた話だが、中には両親がいないからと言っていじめられている人もいるみたいだ。それでもめげずに学校に行くって凄いことだと思う。でも中にはいつも部屋に閉じこもっている人もいた。

 僕もこの子達とまでは行かないが苦しみを抱えている。いや苦しみは誰だって抱えている。

 その時初めて思えたんだ。僕はいじめられて良かったのかもしれない。でなければ、奈々子さんや西宮さんに斎藤さんとここにいる子供達と出会う事が出来なかったからだ。


 僕と奈々子さんは施設で子供達と色々な事をした。

 ゲームをしたり、子供達の勉強を教えてあげたり、とにかく楽しかった。

 そして時間はあっという間に過ぎてしまい、僕と奈々子さんは帰ることになってしまった。

 西宮さんに「どうだった?私達が暮らす施設は?」


「ここは本当に良いところだね。西宮さんも斎藤さんも幸せそうで何よりだよ」


「また気晴らしに来ても良いからねって、今日はこれから勉強と小説を進めるの?」


 そこで奈々子さんが「そうするつもりだけど」


「じゃあ、今日も私と翔子もアツジ君の家に行こうかな?」


「あなた達にはこんな良い施設があるじゃない。ここで勉強すれば良いのに」


「でも今日も光さんと桃子ちゃんが来るんでしょ。私達に料理を作りに」


 そこで僕は「そうだ。ここの施設って調理場もあるんでしょ」


「ええ、みんなで交代制で食事を作ったりしているわ。ああ、そういえば今日の当番は私と翔子だ」


「じゃあ、光さんと桃子も呼んで良いかな?」


「別に構わないけれど」


 そういう事で僕は桃子の携帯に連絡したら、ちょうど今から光さんと買い出しに行くところだって言っていた。

 だから僕は事情を説明して、今日はここに招待して、ここの行き先を教えて来てもらうことにした。


 そして光さんと桃子はやってきた。


 光さんは施設長の阿部さんに挨拶をする。


「私は図書館の司書のバイトをしている高坂光と申します」


「あらこれはご丁寧にわたくしはここの施設長の阿部美紀と申します」


「どうぞよろしくお願いします」


「あなたがいつも涼子や翔子にご飯やお勉強を教えてあげている者ね」


「まあ、教えてあげているって言うか、本人がやる気だから私は教えられるんです」


「いつも二人からあなたの事や、そこにいる桃子ちゃんの事も聞いています。今日は涼子と翔子が料理当番だから、良かったらあの子達の料理を食べてあげて」


「はい。喜んで」


 そういう事で僕と奈々子さんはみんなが食卓を囲んだ。


 ほとんどの人が小学生で、色々と話し合った。


 やっぱり話す内容は不幸自慢や、自分の残酷な経緯とかだった。


 聞いているこっちは心が滅入るというかなぜか良い気分はしない。


 本当に不幸自慢やら、自分の残酷な経緯などを語っては欲しくは無い。


 親に捨てられたなど、それが原因でいじめられているなど、そういったことばかり言ってくる。


 僕達は正直そんな話を聞きたくは無い。


 そんな時である光さんが中に入ってきて、「あら、あっ君」


「あっ、光さん」


 その不幸自慢をしてくる男の子に光さんは「今度私が務める図書館にいらっしゃいよ」と微笑ましい笑顔に、不幸自慢をしてくる男の子のは「図書館ってそんなに楽しいところなの?」


「ええ、漫画やライトノベルやあなた達が遊ぶには持って来いの場所でもあるんだから」


「じゃあ、今度、光さんでしたっけ、あなたが通う図書館にでも行ってみようかな?」


「おいでおいで、いつでもウエルカムだよ」


 光さんは不幸自慢をしてくる男子に嫌な顔を見せずに接している。

 本当にそんな不幸自慢をしていると本当に不幸になってしまうと僕は思った。

 その不幸自慢をしてくる人は正君と言う子だ。

 西宮さんの話によるといつもその子は不幸自慢をして憂さを晴らしているという。

 西宮さんもホトホト嫌な思いをしていると言っている。

 でも僕も不幸自慢をする正君の気持ちは分からなくは無い。

 僕もいじめられて、誰かにこの気持ちを知ってもらいたくて、以前の僕なら正君のように不幸自慢をしていたかもしれない。

 でも不幸自慢をする人ってたいていは避けられる。

 自分の気持ちを分かって欲しい欲しさに相手まで不幸な気持ちが伝染してしまう。

 正君はそれが癖になってしまっている。

 親に捨てられたとか、その事で学校でいじめられているとか、それで最終的には不登校になってしまったと言っている。

 このままじゃあ未来が真っ暗だと正君は言っているが、その話を聞いている光さんは真摯に向き合って話を聞いてあげている。


 そして西宮さんと斎藤さんの手料理が運ばれてきた。


 そこで西宮さんが「正、あんたいい加減にしなさいよ。光さん困っているでしょ」


 光さんは「あたしは困ってはいないよ。もっと正君の気持ち知りたいと私は思うんだけど」


 正君は「光さん、あなたは天使みたいな人だね」


「あはは、それは何でも言い過ぎよ。私は天使でも無いよ。普通の図書館の司書のバイトをしている光で通っているんだから」


「今度、光さんの図書館に行っても良いですか?」


 と正君は言う。


「もちろん。あなたみたいな人なら大歓迎よ」


 西宮さんと奈々子さんの食事は出来上がり、メニューは麻婆豆腐だった。

 おいしそうな麻婆豆腐の香ばしい香りが食卓中に漂ってきた。

 そして施設長の阿部さんもやってきて、「あら、今日は麻婆豆腐なんだ。おいしそうね」


 奈々子さんは正君の不幸自慢にため息をついていた。


 親がいないのは、正君だけじゃ無いんだよな。奈々子さんだって両親を亡くして、今は僕と同じ部屋で寝泊まりしていて同棲しているのだが。

 奈々子さんは同情されるのが嫌いなタイプだ。

 実を言うと僕もそうだし西宮さんも斎藤さんも同じだ。

 何とか正君の心を変えることは凄く難しいだろう。

 人の心を変えるには並大抵の体力が必要だし、凄くしんどい事だ。


 でも光さんなら出来るかもしれない。

 光さんは僕と奈々子さんの救世主でもあるのだから。


 そこで西宮さんは「正、あまり光さんに迷惑をかけちゃダメよ」


「私は迷惑だなんて思っていないよ」

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