息抜き
朝起きて早速新聞配達の仕事に出かける時間になった。
午前三時になると奈々子さんも西宮さんも斎藤さんもスイッチが入ったように起き出した。
西宮さんが「さて今日も新聞配達と行きますか」
そういうことで僕達は順番にシャワーを浴びて、朝ご飯を食べて、新聞配達の仕事に出かけていった。
配達所に到着するといつもの僕、奈々子さんと西宮さん、斎藤さんで勝負が始まる。
西宮さんが「今日は負けないからね」と張り切っていた。
奈々子さんが「あたしだって負けないんだから」とこっちも張り切っていた。
よしまだ西宮さんも斎藤さんも新聞配達は僕達のようになれてはいない。
僕達が本気を出せば、今日も西宮さんと斎藤さんのペアに勝てる。
早速新聞配達を最初に配り終えて帰ってくるのが勝敗を決める。
そして新聞配達の仕事を終えて帰ってきたら、もう西宮さんと斎藤さんは帰っていた。
「今日は私達の勝ちね」
凄く悔しそうな顔をしている奈々子さん。
でも負けは負け、西宮さんにジュースをおごらなきゃいけない。
僕達は油断していた。まさか西宮さんも斎藤さんもこれほどまでに上達していたなんて。
僕と奈々子さんは西宮さんにジュースをおごり、僕達の分のジュースも買った。
それを飲んで西宮さんが「あー、仕事帰りにこうして飲むのって大人が仕事帰りにビールを飲むのと一緒かなあ」
そこで僕が「それって分かる気がする」
奈々子さんが「涼子達に負けるなんて、悔しいよ」と炭酸のジュースを飲み干して、缶をゴミ捨て場に入れた。
西宮さんが「今日は給料日だからどこか遊びに行かない?」
奈々子さんは「あたし達は遊んでいる暇なんて無いんだから」
「でも良いじゃない。せっかくの日曜日なんだからさ」
「遊ぶったって、どこに遊びに行けば良いの?あたし達が行くところって言ったらカラオケぐらいしか無いじゃ無い」
「それ以外にあるわよ。ボーリングとか、映画とか、喫茶店でくっちゃっべるのも良いかもしれない」
「あたしはボーリングとか映画とか行ったこと無いけれども」
「マジで?」
「そんなに悪い?」
「いや、悪くは無いけれど、とにかくいつも私達って勉強や小説に没頭しすぎて、たまには息抜きも必要なんじゃないかと思って」
「じゃあ、分かったわよ、そのボーリングや映画でも遊びに行きましょうよ。アツジも付き合うよね」
「も、もちろん」
どうして奈々子さんはそんな怖い顔で僕を見るかな?
早速僕と奈々子さんは僕のうちに戻って、西宮さんと斎藤さんは施設へと戻っていった。
とりあえず錦糸町の駅前で十時に待ち合わせと言うことになった。
今時計は七時を示している。
この空いた時間で僕と奈々子さんの小説のアクセス回数を見てみると、僕が六十で奈々子さんが五十八だった。
「今日は僕の勝ちだね奈々子さん」
奈々子さんは舌打ちをして、「何をすれば良いの?またジュースでもおごれば良いのかしら?」
負けた時の奈々子さんは怖い顔をする。改めて見ると僕はぞっとしてしまう。
だから僕は「お互いに以前よりアクセス回数がアップしているよ」
「それもそうね。あたし達の小説を読んで面白いと思ってくれている人が増えているのね。何かそれはそれで嬉しい気がする」
「とりあえず今は七時だし、ここから錦糸町まで三十分だから、時間になるまで小説でも進めていこう」
「それもそうね。涼子達には悪いけれど、とにかく進めておかないとね」
僕と奈々子さんは二時間、小説を進める事に没頭した。
すると二時間なんてあっという間に過ぎてしまい、出かける時間になってしまった。
奈々子さんが等身大の鏡を見て、何か思い詰めたような顔をしている。
奈々子さんが今着ている服は藍色のワンピースだった。
「どうしたの奈々子さん」
「これから町に出るのでしょ。この服変じゃないかしら?」
「奈々子さんにはそのワンピースが一番似合っていると思うよ」
「本当に?」
「本当だとも、その姿で町に出ても何の問題も無いと思うけれどね」
そして午前十時になり、錦糸町の町で僕と奈々子さんは西宮さん達の言うとおり待っていた。
「お待たせー」
とやってきて言ったのは西宮さんの方だった。
西宮さんはおしゃれで、白いワンピースの上にレザーのジャケットを羽織っている。
それに斎藤さんはジーパンに白いシャツにピンクのカーディガンを羽織っていてこちらもおしゃれだ。
奈々子さんは藍色のワンピースに白いカーディガンだ。
「奈々子、そのカーディガン似合っているよ」
「何よ嫌み」
「どうして奈々子はそうやってネガティブな事しか考えられないの?私が似合っているって言ったら素直に喜べば良いのに」
僕はため息を漏らしてしまう。三人はこんなにもおしゃれなのに、僕はと言うとジーパンに黒いトレーナーにみそぼらしい青いジャンパーを着ていた。
僕はおしゃれには無頓着だ。
そこで僕が「じゃあ、どこに行く?映画?それともボーリング?」
西宮さんが「映画に行きましょう。錦糸町には映画館がたくさんあるからね」
早速僕達は錦糸町のシネマの映画館に向かった。
映画のタイトルを見てみると、何やらろくな映画がやっていない。
奈々子さんが「ろくな映画がやっていないけれども、どうするの?」
西宮さんが「ろくな映画しかやっていないなら、オリナスに行って、最近はやっている天気の子を見に行こうよ」
「何その天気の子って?」
僕も知らなかった。
「二人とも勉強と小説の書きすぎで、世間を見ていないわね、ニュースで話題になっているじゃない」
「それ、面白いの?」
「面白いかどうかは分からないけれども、見てみる価値はあると思うよ。映画評論家によるとかなりの高評価だし」
「じゃあ、それを見に行きましょう」
早速オリナスに行って、天気の子の上映時間はちょうど僕達が来た時間に始まる予定だった。
チケットを買って入場して、早速映画が始まる。
映画が終わって、なかなか面白い映画だった。
「奈々子、映画どうだった?」
「まあまあ面白かったと思うよ」
「じゃあ、今度はお昼にしましょう。二人ともマックで良い?」
「あたしはそれで良いけれど、アツジはどうするの?」
「僕もマックで良いよ」
「じゃあ、決まりね」
斎藤さんの意見を聞いていないことにこの人は西宮さんが良ければそれで良いみたいだ。
早速オリナスに隣接するマックに行き、僕はフィッシュバーガーセットを頼んだ。
僕がフィッシュバーガーを頼むとみんな僕の真似をしてか、みんなフィッシュバーガーセットを頼んだ。
奈々子さんが「あたし、マックに行くのは生まれて初めてなんだけど」
「そうなの?以外」
「そんなに変?」
「だってこんなに有名なマックよ。行ったこと無い人に初めて会ったよ」
やばい、そんな事を言ったら奈々子さんの逆鱗に触れてしまう。
「何よ。そんなにおかしいの!?」
案の定奈々子さんは怒り出してしまった。
「ちょ、奈々子、私が悪かったよ。だから機嫌直してよ。マックに言ったことが無いなんて人はたくさんいると思うよ」
西宮さんは謝って、とりあえず、奈々子さんの怒りは収まった。
奈々子さんは「とにかく食べましょう。おいしいはずのご飯がまずくなってしまうわ」
食べている最中、奈々子さんがトイレと行って、席を立ち、お手洗いに向かった。
そんな時西宮さんが「ねえ、奈々子って、私達と同じ父親も母親もいないんでしょ。それで今は、奈々子とアツジ君で二人で新聞配達をして共同生活をしているんでしょ」
「そうだけど、それが何か?それと本人にそういう事を聞くのはタブーだから、何せ、奈々子さんは同情とか気を使われる事が凄く嫌いだから」
「なるほど、私達と一緒だね、斎藤」
斎藤さんはこくりと頷く。




