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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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光さんの悲しみ

 おいしそうにパンを食べている光さんにエイトマンの事を言うのはタブーだろう。


 なぜか僕には見える。光さんの笑顔の裏に隠されている涙が。

 この人凄く僕達に心配かけまいと凄く気を使っている。


 そこで光さんが女神様のような笑顔で「今日も二人にテストを作ってきてあげたわよ。今日の課題は連立方程式よ。ちょうどあなた達二年生で習うところだよね」


「はい。そうです。今日もパンがうまい」


「あなた達今日も二人で点数を競うんでしょ」


「ええ、そうです。アツジには負けていられないからね」


 菜々子さんが言う。


「本当にあなた達良い関係ね。恋人でありさらにライバルなんて」


 光さんは終始笑顔だった。好意を抱いていたエイトマンが殺されたというのに、悲しい顔一つ見せずに、僕達にいっさい気を使わせようとはさせなかった。

 思えば光さんはもう高校二年生だ。ちんちくりんの僕達中学二年になれば光さんのように強くなれるのだろうか?


 菜々子さんに言ったら殺されるかもしれないが、僕はまた光さんに恋心を抱いてしまった。

 でもその恋は実らないだろう。いや実ってはいけないものだ。

 そんな事、エイトマンに悪いし、僕にはもう素敵な菜々子さんという彼女がいるのだから。

 僕の中での心の奥底の話だけど、菜々子さんよりも光さんの方が僕は魅力的だと思っている。

 菜々子さんも素敵な女性だけど、僕は今まで光さんのような素敵な女性を上回る人なんて僕は見たことがない。


 パンも食べ終わり、公園を後にして図書館に行って光さんを見ると、先ほど下着姿の光さんを想像してしまい、光さんをまともに見ることが出来なかった。

 光さんの下着姿はあまりにも記憶にまぶしくて、僕の鼓動が張り裂けそうになってしまう。


 そんな事を考えていると後ろから菜々子さんのげんこつが僕に炸裂した。


「いきなり何をするの!菜々子さん!」


「このスケベ大王、光さんを見て欲情したでしょ」


「してないしてない。そんな事を僕がするわけないでしょ」


「どうせ、私は光さんの魅力には勝てないわよ」


 菜々子さんはすねてしまった。

 何だろう、すねてしまった菜々子さんもかわいく感じてしまい、また新たな菜々子さんを見ることが出来て僕はなぜか嬉しかった。


 不機嫌な菜々子さん、そして光さんが出してくれたテストを僕達はやることになった。


「さあ、二人とも制限時間は一時間、しっかりやってしっかり私にその実力を見せなさい。

 それでは、よーいスタート!」


 僕と菜々子さんは裏返しにしてある光さんが作った答案用紙をめくって僕と菜々子さんの勝負が始まる。

 光さんの言われたとおり、今日は連立方程式が課題となった範囲になっている。


 僕と菜々子さんはシャープペンシルを紙になぞる音しかしない。

 これなら余裕で百点が取れそうだ。

 こんな簡単な問題サクサクとこなしてやる。


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・もう一時間はとっくに経過している。

 いつもなら光さんは制限時間の一時間後には僕達の前に現れて『時間だよ』の合図を送ってくる。


「光さんどうしたのだろう?」


「いつもなら時間通りに来るのにね」


 僕と菜々子さんは答案用紙をそのままにして光さんを探しに行った。

 図書館の本当の司書の江島さんに聞いてみると、「そういえば光ちゃん、さっきから見ないわね」


 そこで僕と菜々子さんは顔を見合って、以心伝心で頷きあい、外の公園に行くと、ベンチに座って光さんは涙を流していた。


『光さん』と言って、駆けつけようとしたが、菜々子さんは僕の手をつかみ、目を閉じてかぶりを降った。


「菜々子さん」


「アツジ、光さんの気持ちを察してあげて、光さんは私達に気を使わせたくないのよ。今私達に出来ることはこうして遠くで見守るくらいしかないわ。

 エイトマンの事は時間が解決してくれるわ。

 だから今は遠くで見守ってあげましょう」


 菜々子さんの言うとおりだ。光さん、今は思い切り泣いて、そして思い切り笑ってよ。

 そういって僕達は図書館内に戻った。


「菜々子さんって、以外と大人なんだね」


「以外ととは何よ、まるで私が子供みたいじゃない」


 やばいまた菜々子さんを怒らせてしまう「別にそういう意味で言った訳じゃ・・・」


 すると菜々子さんはどこか遠くを見つめて「私が涙を流したとき私は気を使われたくないからいつも、お便所で泣いていた。涙なんて誰にも見られたくないもん。昔私には大切にしていた猫がいたの。でも車にひかれて死んでしまったの、私は悲しかった。でも涙はお母さんにも見せたくなかったので一日中お便所で泣いていたわ。涙を見せると周りが気を使ってマジでうざいから」


 マジでうざいか。確かにそうだよな。涙を見せるのは僕にとっては弱い自分だと思われたくないからいつも見せなかった。

 中学でいじめに遭ったとき、涙がこぼれ落ちそうな時、すぐに水道の水で涙を拭っていたかな。


 何て考えていると、光さんが現れて、笑顔で「二人ともお待たせ、出来たかな?」


 光さんの目を見ると、涙で目が少しだけ曇っているのが見受けられた。

 光さん無理をして泣いているのをこらえているとは言えなかった。

 いやそれは言ってはいけないことだろう。

 光さんは僕達がその笑顔の裏に隠されている涙に気づいているのか分からないが、仮に分かっても僕達に気を使わせる事を決してしないだろう。

 光さんは僕達の答案を持っていき、今採点をしているのだろう。

 僕と菜々子さんも休憩と言うことで図書館内は飲食は禁止されているがペットボトルの飲み物なら、許可されている。

 だから図書館内に設置されている自販機に行って、僕と菜々子さんはミネラルウォーターを買って飲んだ。


「今日はアツジがおごってくれるなんていったいどういう風の吹き回し?別にまだ勝負は決まってないでしょ」


「いや何となく、今日は新しい菜々子さんと光さんの気持ちが知れて、僕は大変勉強になった」


「アツジ、大人になったね」


「それじゃあ、僕が子供みたいじゃん」


「ああ、子供だとも、アツジの事、今度からくそガキと呼んで良い?」


「何?怒っているの?」


「別に怒ってはいないけれど、今日学んだ事はきっと私達がしている勉強よりも大切な事のような感じがしたんだよね」


「言われてみればそうだね。大人が連立方程式を使っている人なんて見たことがないからね」


「そう言うと、また勉強をする意欲がなくなるから言わないで」


「ゴメン」


 何て二人でミネラルウォーターを飲んでいると、光さんが現れて「二人ともスゴいよ、百点じゃない」


「百点かあ、それはスゴいね」


 僕が言う。


「二人とも本当に頑張っているわね」

 

 光さんは今、タイトなスーツ姿だ。

 そんな光さんを見ると、今朝見た光さんの下着姿が思い浮かんでしまうのでなるべく光さんを見ないようにした。

 菜々子さんは僕を威圧的な目で見てくる。


 その後、僕と光さんは二人で闘志を燃やし合い、小説の続きをそれぞれ書いた。

 小説の書き方については、とにかく短編でも長編でも物語を終わらせる事でレベルアップにつながるとユーチューブで言っていた。

 それにプロットを書くことだと。

 まあそれはそれで良いとして、僕と菜々子さんは今日も闘志を燃やし合い小説を書き上げた。





 ******   ******




 菜々子さんと別れて僕は家に戻った。

 僕は家に帰ると、ふつふつと浮かんでくるのが光さんの下着姿であった。

 それに豊川先生が描いた絵。


 僕は以前絵を勉強したことがある。

 僕は早速菜々子さんと別れて、コンビニでスケッチブックを買った。

 そこで今日の光さんの下着姿をデッサンした。

 それを見た僕はトイレに行き、気持ちよくなった。


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