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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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伝わる思い

 西宮さんの怪我は大したことは無くて、一日入院をしてすぐに退院した。


 西宮さんは何事も無かったかのように学校へとやってきた。


「おはようアツジ君」


「もう怪我の方は大丈夫なんですか?」


「もうこの通り大丈夫だよ」


 そう言って西宮さんはガッツポーズを取る。


 今日は安井は登校してこなかった。あれだけ僕がボコボコにしてあげたのだから、精神的にも肉体的にも相当参っていると思っている。


「安井君来ていないね」


 あんな事までされて西宮さんはまだ安井を心配しているみたいで大きなため息がこぼれ落ちた。


 そんな僕に西宮さんは「ため息をすると幸せが逃げて言っちゃうよ。ため息をしたら、その息をすぐに取り込むように大きく息を吸うのよ」


 今後に及んで何を言っているんだ西宮さんは、安井にあれだけの事をされてショックじゃ無いのか?


 本当にこの人の頭の中身はおめでたいことでいっぱいみたいだ。


 でもこの人は僕も奈々子さんも友達として認めている。

 安井にあれだけの事をされてそれでも安井の事を心配する涼子さんは心がきれいだと。

 友達にしておいて損は無いと思っている。

 でも安井に対して許せない気持ちでいるのは僕と奈々子さんと翔子さんだが、西宮さんはそれでも安井の事を許すどころか、まだ救おうとしている。


 そしていつも通り授業は始まり、学校のチャイムの音がした。


 授業ではいつも通り僕と西宮さんは当てられても答えられない問題などなかった。


 今日は土曜で学校が早く終わるので、新聞配達の仕事まで時間がある。


 僕と奈々子さんと西宮さんと斎藤さんはいつものように学校から自転車で帰って、そんな時西宮さんは言った。


「これから私達暇でしょ。今日はどこか寄り道していかない?」


 寄り道かあ、僕と奈々子さんは寄り道などしたことが無かった。


 奈々子さんは「寄り道ってどこに行くって言うのよ」


「四人でカラオケなんて行かない?」


「カラオケ?あたし行ったこと無いから」


「だったらちょうど良いじゃない。これから四人でカラオケに行こう」


 と言うことで僕達はカラオケに行く事になってしまった。


 カラオケは隣町にある土手の橋を渡ったところに位置する。

 僕達は西宮さんと斎藤さんの後に続いてカラオケまで行くことになった。


 カラオケ狸猫に到着して、僕達四人は中に入っていった。


 受付で値段を見てみると、そんなに高くは無くて僕は安心した。


「それよりも涼子、あなたは怪我は大丈夫なの?」


「大丈夫よ。これしきの事で私は参ったなんてしないんだから」


 そうだ。西宮さんはいつも通り元気な姿に圧倒されて怪我の事を忘れていた。

 でも医師の判断によると、今日は新聞配達をしていいと言われている位だから大丈夫だとは思うんだけどな。

 カラオケで部屋に案内された途中に、安井に出くわした。


「安井君!」


 と嬉しそうに西宮さんは声をかける。


「何だよ。こんなところに来て」


「それはこっちの台詞よ、どうしたの安井君、安井君もカラオケをするの?」


「・・・」


 安井は黙り込んでしまった。


「安井君、もしかして、一人カラオケ?」


「悪いかよ」


「だったら私達と一緒にカラオケしない」


 そこで奈々子さんが「ちょっと涼子、あなたどういう風の吹き回し?あんなひどいことをされてまだ安井の肩を持つつもり」


「持つも何も、カラオケは大勢で楽しんだ方が良いでしょ。

 だから安井君も私達とカラオケしない?」


 僕と斎藤さんと奈々子さんは反対していたが、安井もどういう風の吹き回しか?僕達に賛同することとなった。


 僕達四人と安井を入れて五人、何か不穏な空気が漂っている。


 そこで西宮さんが「安井君、安井秀信君、一番は安井君よ、さあ、歌って」


 安井はビジュアル系が好きで、僕達の知らないアーティストを歌い出した。

 でも西宮さんはそのビジュアル系のアーティストを知っている。


「安井君BOOWYが好きなんだ」


 西宮さんはマラカスを両手に持って、安井にエールを送っている。

 お調子者の西宮さんはマラカスを持ってはしゃいでいる。


 僕はと言うと、安井と同じようにビジュアル系とまでは行かないが、僕達が生まれる前の曲であるMr.Childrenを歌い出した。

 何か歌って見ると歌うことは気持ちの良いことだと改めて分かった。

 僕はカラオケは妹と一回だけ行ったことがある。その時妹が歌っていた曲は最近流行っているラブライブと言うアニメの曲を歌っていたっけ。

 実を言うと僕もラブライブ!は嫌いじゃ無い。

 アニメを妹の二人で見たとき感動したこともあった。


 そして僕の出番は終わり、今度は奈々子さんの出番だ。


 奈々子さんが歌うのは松田聖子の赤いスイートピーと言う曲でこれも僕達が生まれる前に発売された曲らしい。

 松田聖子と言う歌手は知っているが歌までは知らない。

 そして西宮さんの出番になり、パプリカと言う曲を歌って踊っていた。

 本当にこの人は場の空気を明るくさせてくれる潜在能力があるような気がした。

 奈々子さんは西宮さんの事が少し苦手みたいだが、友達としては認めている。

 そして斎藤さんの番になり、V6の輪になって踊ろうを歌い出した。

 これはこれで聞いていると心に響くような気がした。

 みんなが歌う歌に僕は安井がいることを忘れていた。


 西宮さんが「次、安井君の番だよ」と言って安井にマイクを差し出す。


 すると安井は「西宮」と言ってその場で土下座をした。


「ちょっと安井君、そんな事までしなくて良いよ。私は自分が悪いと思っただけでそれだけで良いよ」


「本当に俺が悪かったよ。反省しているし、それでも俺のことを気にかけてくれたことに」


 そこで奈々子さんが「そうよ安井、あんたの為に涼子は怪我をしたんだから本当は許されないことをしているのに涼子はあんたを許したのよ」


「ごめんなさい」


 と安井は謝る。


「そんな止めてよ安井君。私はただあなたがいじめられているところを見て、ほおっておけなかっただけだよ」


 でも安井の西宮さんへの誠意を持った謝罪には西宮さんどころか僕達にまで伝わった。

 今度こそ安井は心を入れ替えたのだと思った。

 でなければ土下座なんてそう簡単には出来ない。

 西宮さんは嬉しそうだった。なぜだろう西宮さんが嬉しいと僕達まで嬉しくなってしまう。 僕達は最高の友達だ。いや親友と言っても良いかもしれない。これからは親友兼ライバル関係で行ってみたいと思っている。


 カラオケも済んで、僕達は安井と別れて、ちょうど、新聞配達に行く時間になってしまった。


 今日は安井も改心したことだし、カラオケで盛り上がって、テンションが上がっていた。 そんな調子で僕達は新聞配達の仕事に出かけていった。


 新聞配達では僕と奈々子さんがペアを組み、西宮さんと斎藤さんがペアを組んだ。

 それで結果は僕達の勝ちであった。


「うわーまた負けたよ」


 西宮さんはそう言いながら、渋々僕達にジュースをおごる羽目となってしまった。

 まだ西宮さんも斎藤さんも仕事には慣れてきたが、僕達はもうベテランだから僕達に勝つにはもっと経験を積まなくてはいけないだろう。


 そういう事で、僕達は僕の家で勉強会と行くところだ。

 今日の西宮さんと斎藤さんは闘志を燃やし続けている。

 そうだ。ライバルがこうじゃ無いと僕達に勝負を挑もうなんて十年早い。

 勉強に熱中して、それから僕と奈々子さんは小説の方を進めた。


「何よあなた達、これから小説を書くの?」


「そうよ。あたしとアツジの小説をネットで公開して、それから、小説を進めるの」


「私も小説を書いてみたいわ。

 ねえ、翔子もそう思うでしょ」


「うん」


「奈々子にアツジ君、小説ってどう書けばいいの?」


 そこで僕が、「簡単だよ。自分の良さそうな事をイメージして描けば良いんだよ」


「そうなんだ」


 と西宮さん。


 そこで桃子と光さんが僕達に料理を作りにやってきた。

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