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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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いじめはいけないと言う西宮

 僕達四人は新聞配達の仕事に共に出かける時に安井がいじめられている件でいっぱいだった。


「安井があんなにひねくれた人間だとは思わなかったよ」


 と西宮さんはため息をつきながらそういった。


 そこで奈々子さんが「あんな奴ほおっておいて良いんじゃないの?」


「そうはいかないよ。とにかくいじめはいけないよ。いじめられている人間を放置するなんて」


「涼子、あなたは安井の事が好きなの?」


「そういう訳じゃないよ!!ただいじめは良くないと思ってね」


 そこで僕が「その件に関しては僕は西宮さんの意見に賛成だよ」


「ありがとう」


「でも安井は自分のことはほおっておいてくれって素直じゃないんだよな」


「やっぱり私達のやり方には同情の気持ちもあったからかな?」


「そうかもしれない。僕は安井のことをかわいそうな奴だと思っていたから」


「それを察知して安井は私達の救いの手を払いのけた」


「救いの手なんて言っていると本当に安井に同情しているかのように思えるわ」


「ごめんなさい」


「別にアツジ君が悪いわけじゃないよ。同情でも何でも良い。とにかく安井をいじめる奴を一人一人説得してあげなきゃね」


 そう言いながら新聞配達所に出かけると、いつも配達所に行く公園の途中で安井はボコられていた。


 そこで西宮さんが「あなた達、やめなさいよ」


 すると安井をいじめているリーダーか?体がゴツく厳つい顔をした奴が「何だよお前ら、こいつを止めようとする腹か?」


 この厳つい奴、学校にはいない、安井は学校以外のところでもいじめられているのか?。


「とにかくいじめはダメよ。自分たちがどれだけ恥ずかしいことをしていると思っているの?」


「うるせーこいつには散々俺達の事をバカにしてきて、散々利用されてきたからな」


 安井は学校だけでは物足りず、こんなところまでいじめに及んでいたなんて。


 それにこの厳つい奴どこかで見たことがある。


 そうだ、あの時、豊川先生に助けられた時に一緒に安井達とグルになっていた奴だ。

 何か見た目も怖いし、僕はこんな相手に安井をいじめから解放させるのは至難のワザかもしれない。


 にも関わらず西宮さんは「とにかく安井君をいじめるのはやめなさい」と厳つい強そうな奴にそういう。


「お前女だからと言って、調子こいていると、痛い目見るぜ」


 西宮さんも怖いのか?「ぐっ!」とうめき声を上げた。


「まあ、今日のところはやめておいてやるよ。俺達はこいつに散々利用したあげく前科まで課せられてしまったからな」


 安井はこの人達に前科を強いるような真似をしたのか?だったら許せないよ。こいつらが安井にいじめる理由も分かったりする。


 連中にボコボコにされた安井は覚束ない足で立ち上がり、鞄を持って去ろうとしたところ。

 西宮さんは「大丈夫安井君」と言って追いかけた。


 すると安井は「何でもねえよ。これぐらいの事屁でもねえよ」


 安井は立ち去り、顔は傷つけられてはいないが、きっと腹部や足などに痣がついているはずだ。


「西宮さん。もう僕たちの手には負えないよ」


「・・・」


 西宮さんは黙っている。


 そして僕たちは新聞配達所に到着して、西宮さんは安井の事が心配なのか、仕事に支障が出ている感じだ。


 新聞配達の仕事を終えると、今日は僕と奈々子さんが先にゴールというか仕事を早く終わらせる事に成功した。

 でも西宮さんは安井の事が気にかかるのか?西宮さんはずっと暗い顔をしている。


 そこで奈々子さんが「何よ、涼子、そんなしけた面をしていたら、あたし達まで暗くなるからやめて」


 そう言うと、西宮さんは空元気に笑顔を振る舞った。


「じゃあ、今日もアツジ君の家で勉強タイムと行きましょう」


 そうは言った物の、西宮さんはいつものように闘志を燃やしておらずに、今一勉強に身が入っていない感じだった。


 そこで奈々子さんが「ちょっと涼子、あなたちょっと頭を冷やして来なさい」


「別に何でもないよ。今日も元気に勉強をしよう」


 また空元気だ。それを見抜いた奈々子さんは「そんな空元気があたしに通用すると思っているの?」


「・・・」


 西宮さんは黙りこくっている。


「安井の事は考えてみればあたし達には関係ない事じゃない」


 確かにそうだ。安井の事に関しては僕達に関係のない事だ。


「だからってこのまま安井君を野放しにしていいの?」


「自業自得よ、あたし達はあいつに散々な思いをされてきたからね」


「あなたは心が冷たいのね」


「ええ、あたしは心が冷たいよ、特に安井のような奴に対してはね」


「・・・」


 西宮さんは反論も出来ずにその瞳をうつむかせている。


 そこで僕が、「とにかく今は勉強に集中しようよ。僕達は友達兼ライバル関係なのだから」


 すると西宮さんは「あなた達なんて友達じゃないよ。確かにあなた達は安井にひどいことをされて来たかもしれない。でも私は安井君の事を野放しになんて出来ないよ」


「どこまであなたはお人好しなの?じゃあ勝手にしなさいよ。あたしは知らないから」


 安井の事で振り出しに戻ってしまったな。でも安井に言葉をかけられただけでも大きな進歩かもしれない。安井を救い出す方法はとにかく安井に素直になってもらう事が先決だ。でも安井は僕達の手を振り払った。

 僕が安井の立場ならその手を藁をもすがる思いでつかむのに安井はその手を振り払う。

 これは本当にお手上げなのかもしれない。


 今日も勉強ははかどらなかった。

 そしていつものように桃子と光さんが僕達に夕飯を作りにやってきた。


 光さんに安井の事を相談すると、とにかく手を差し伸べているのにそれを振り払っていたら何も始まらないと言っていた。だからかわいそうだが安井をそのままにしておくしかないんじゃないかなと言っていた。


 そうだ。僕達は安井に手を差し伸べた。でも安井はその手を振り払った。安井が振り払う事なら救いようがないのかもしれない。

 だったら安井に手を差し伸べることはやめにしようと西宮さん達と話し合った。

 でもどうして安井は僕達が手を差し伸べているのに、その手を振り払うのだろう。僕だったら喜んでその手をつかむのに。


 そう言えば、忘れていたが、桃子が僕の小説を読んでくれて絶賛してくれた。

 ここは安井の事を忘れて喜びたいところだが、素直に喜べなかった。


 次の日の新聞配達をして西宮さんも斎藤さんも慣れてきた様子だ。

 でも勝負には負けなかった。僕と奈々子さんが圧勝した。


 学校に行くと安井は独りぼっちで、席に座って顔をうつむかせている。

 とりあえずほおっておくしかないだろう。

 でも昨日の一件で、西宮さんの威厳もあっていじめには遭っていないようだ。

 それを見て僕は安心した。


 そして授業が始まり、安井に物を投げる物はいない。

 給食の時間になり、安井に運ばれた料理に消しゴムのかすやホッチキスの芯などを混入する連中はいなかった。

 安井はいつものように大人しかった。

 そうだ。西宮さんの威厳によって安井は学校ではいじめられずにすんだ事に僕も心から安心した。

 安井にいじめられていた僕がそんな事を思うなんて僕もとんだお人好しだ。

 でもそれは西宮さんが安井に対して、いじめはダメだと言うから、僕はそれに賛同したんだ。だから僕はお人好しなんかじゃない。ただ西宮さんの意見に便乗しただけだ。


 学校での安井は何もなかった。でも外に行ったら、あの厳つい奴にまたいじめられてしまうかもしれない。

 あの厳つい奴にどのように説得すれば良いのか今の僕には分からない。

 とにかく安井は学校ではいじめはなくなった事に大きな進歩だと思った。

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