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恋人はライバル関係  作者: 柴田盟
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どんな理由があろうともいじめはダメ

 授業中、西宮さんが安井をかばった事も関わらずいじめる奴がいる。

 丸めた紙を投げ付ける者や鉛筆を投げつける奴など。

 仕舞には安井は泣いてしまった。

 僕はため息が零れ落ちた。僕は安井にあんな殺されるような事をされたのに、安井はあの程度で涙を流してしまう事に。本当に情けない奴だ。もう同情すら出来ない。

 そうだ。もういじめられて学校に来なければ良いんだ。


 そこで西宮さんが「安井君にちょっかい出すのはやめなさいよ」と訴えて来た。


 すると先生は西宮さんの言う事を無視して授業を再開する。


 その姿を見て僕は何か不憫に思えて来た。安井がかわいそうすぎる。

 僕も助け船を出してあげようと思ったが、僕には安井には恨みがあるのでそんな事をする義理はないと思ってやめておいた。

 そうだよ。すべて安井が悪いんだよ。市議会委員の父親がいたからと言って僕をいじめていた時なんて先生は見て見ぬふりをしていた。

 でも安井をこのままにしておいて良いのだろうかと僕の中で葛藤が起きた。

 どうしてあんなひどい事をされたにも関わらず僕は安井に助け舟を出そうとするのか?だったら安井をそのままにしておいていればいい。でもそれで本当に良いのか?でも安井には雑巾の水を飲まされたこともあって、光さんや奈々子さん達にもひどい事をした。そうだ。だから安井にはこの程度のいじめでは足りないぐらいだ。もっとひどい目に合えば良いんだ。僕は奴に対して助け船を出す義理など僕にはない。

 

 給食の時間になり、安井の食事には周りの連中が安井の食べる物に消しゴムのカスやホッチキスのしんなどを混入して手渡した。

 そこで黙っていないのが西宮さんだった。


「あなた達、そんな事をして良いと思っているの?」


 西宮さんがそういうとみんないなくなり、安井はもう半べそ状態で涙を流していた。

 どうして西宮さんはあの安井にあんな優しく出来るのか?きっと西宮さんは安井に対してひどい事をされたことがないからそういう優しさを与える事が出来るのだ。


「大丈夫安井君」


「俺に構うんじゃねえよ!!」


 と安井は西宮さんの優しさを振り払った。

 そして西宮さんは「そう」と言って、それでも安井の事を心配の眼差しで見ていた。

 西宮さんがこんなに優しい人だなんて僕は思いもしなかった。

 

 そしてお昼休みが終わり、掃除の時間になり、安井は便所掃除だった。

 もしかしたら、僕が安井にされていたことをやられているのかもしれない。

 それは便所で掃除したモップを顔面に突き付けたり、モップで洗った水を飲まされたりしていないか心配だったが、いや心配はしていないが、たぶんそんな事をされているんじゃないかと僕は思った。


 そこで西宮さんが廊下の階段の踊り場で、僕を手招いた。


「何、西宮さん」


「安井君が便所でいじめられていないか確かめて欲しいんだけど」


「ええ!何で僕がそんな事をしなければいけないの?」


「そうなんだ。長谷川君ってそんなに冷たい人間だったんだね」


「分かったよ見に行けば良いんでしょ」


 僕は西宮さんの言う通り便所を覗いてみると僕と西宮さんの予想は当たっていた。

 安井はトイレを掃除したモップで顔面を突き付けたりしていた。

 僕には止める勇気もないし、そんな義理もない。

 でも本当にこのままで良いのか?安井は完全にいじめられている。

 安井をいじめる奴は言っていた、『市議会員の父親の力が無くなってこの様はどうよ』『散々威張り散らしていたよな』と仕舞にはトイレを掃除した水を安井は飲まされようとしている。

 その光景を見た僕は葛藤が始まる。

 助けに行くべきか、そうでないか?


 僕は前者に圧倒されて最大限の力を駆使して「やめろ!!」と叫んだ。

 するといじめていた連中は「お前もこいつにやられていたくちだろ。だったらなぜこいつをかばう?」


「どんなことがあってもいじめはいけないよ」


 そこで安井が「長谷川、お前どういう風邪の吹き回しだ」


 本当にその通りだ、僕はどういう風邪の吹き回しで安井にその手を差し伸べているのか?


 でも僕は「とにかくいじめはいけないよ。みんなも安井のようにやられたら嫌だろ」


「構うものか!こいつは父親の権力をとって威張り散らした挙句、何も出来ないんだからな、俺達もこいつに嫌な思いをさせられたからな」


 その気持ちは充分に分かる。でもいじめはいけないと思う。


「と、とにかくいじめはいけないよ」


 勇気を振り絞って僕は訴えかける。

 そして西宮さんが男便所にも関わらず中に入って来た。


「ナイスガッツアツジ君、あなた結構勇気があるじゃない。それに心も広いのね、惚れ直しちゃった」


 そんな事を言われたって僕には奈々子さんと言う彼女がいる。それよりも安井をいじめる連中を僕達は止めなければならない。


「あなた達、弱い者いじめをして恥ずかしくないの?」


 西宮さんが言うと、西宮さんは大したものだ。みんな西宮さんの威厳に圧倒されて、安井をいじめていた連中は離れていく。

 そして安井はトイレから出て行ってしまった。

 安井もか弱い女性に助けられるのは屈辱だと思ったのかもしれない。

 僕も西宮さんの事に賛同する。

 安井には散々ひどい目にあわされてきたが、僕はほおっては置けない。

 

 安井は教室に戻っていた。

 そこで西宮さんは「安井君大丈夫?」


「そうやって俺みたいな弱輩者の野良猫を拾ったかのように気持ちよがっているんだろう」


「そんな事はないわ。私はいじめはいけないと思ってあなたをいじめる連中からあなたを引き離したいだけ」


「嘘つけ、お前も見ていただろ。こいつ(長谷川)をいじめている時、俺は本当に気持ちよかったよ。でも・・・」


「でも?」


「でもいじめがこんなにつらい物だったなんて思いもしなかった」


 安井は僕をいじめていたことに反省の意を示す。


「その気持ちが分かっただけでも大したものよ。どんな事でもいじめはいけないわ」


「くっ!」


 と吐き捨てて、安井は鞄を持って学校から飛び出してしまった。


「安井君!」


 西宮さんは引き留めたがそのまま安井は帰ってしまった。


 しばしの沈黙。


 西宮さんがこんなにも優しい人間だなんて僕は感心した。


 そして五時間目の体育の時間が終わって僕達四人は新聞配達の仕事に出かけた。


 今日も西宮さん達とジュースをかけて勝負だ。


 僕は奈々子さんに今日西宮さんと僕とで安井の肩を持ったことを言った。


「あんた何を考えているの?安井はあたし達にひどい目にあわされたのよ。それなのに安井の肩を持つつもりなの?」


「肩を持つって言うか、やっぱりいじめはいけないよ」


「あなたは安井に登校拒否をされるほどの事をされたんでしょ。なのに安井の肩を持つと言うの?」


「僕も最初は安井がいじめられていい気味だと思ったよ。でも西宮さんがどんなことでもいじめはいけないよと言って僕も気持ちは分かって賛同したんだよ」


「じゃあ、何?あなたは涼子の意見に便乗したの?」


「うん」


 すると奈々子さんは僕にピンタをした。


「何をするの奈々子さん」


「あんたもしかして涼子の事が好きなの?」


「そういう訳じゃないよ。僕も西宮さんと同じにいじめはいけないと思っただけだよ」


「ふーん」


 目を細める奈々子さん。

 とにかく今は仕事の最中だ。早く配達を仕上げなきゃ、西宮さん達に負けてしまう。


「とにかくこの話は後でゆっくり聞かせてもらうからね」


「聞かせてあげるとも、とりあえず今は仕事中でしょ。仕事が終わったら嫌という程、僕と西宮さんが今日安井のいじめを止めたことを話してあげるよ」


「分かったわ」


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